大篠夏彦さんの文芸誌時評『No.017 文學界 2014年10月号』をアップしましたぁ。柳美里さんの新連載『連作・飼う人vol.1 イボタガ』と小山内恵美子さんの『彼岸のひと』を取り上げておられます。食を中心にした日常性を上手く使った作品です。
大篠さんは、「柳美里は妻の喪失感を際立たせるために、日常を最大限に活用している。・・・柳美里が援用した小説作法は二つのベクトルを持っている。一つは小説を人間存在の原理に差し戻すことである。・・・ただ人間の日常は制度として立ち現れる可能性もある。・・・人間存在の不安は極めて現代的なテーマだが・・・あまり食や性によりかかると・・・テーマは提示されただけで空白のまま残され、その周囲を相も変わらぬ日常性が取り囲むことになりかねない」と批評しておられます。女性作家は買物や料理、洗濯などの日常性を小説で活用するのが上手いですが、そこにはプラス面とマイナス面があります。
小山内恵美子さんの『彼岸のひと』は幻想小説ですが、この作品でも料理が援用されています。大篠さんは、「『彼岸のひと』にあるリアリティを与えているのは、詳細な調理と料理の記述である。調理すること、食べることの日常性が生者と死者を媒介している。・・・主人公の女は調理し食べさせたい。それによって他者とつながり、絶対不可知の他者を自我意識の中に取り込もうとする。・・・それは作家が抱える優れたテーマである。ただ食というディテールを取り除けば、この作品は全面崩壊するかもしれない」と書いておられます。
小説は言語作品であり、観念ではなく料理や仕事、セックスなどの具体的なディテールから構成されます。このディテールと作品主題とのバランスが作品の善し悪しを決めていきます。ある作品主題が決まり、その具体的ディテールに沿って書き始めると、たいていの場合作家は後戻りできなくなる。作品が一人で歩き始めるわけです。この主題とディテールのバランス、小説にとってはかなり重要な要素でありまふ。
■ 大篠夏彦 文芸誌時評 『No.017 文學界 2014年10月号』 ■