ラモーナ・ツァラヌさんの『青い目で観る日本伝統芸能』『No.010 電気ショックのような演劇―『アルトー24時++再び』』をアップしましたぁ。江戸糸あやつり人形座創立10周年記念公演として、今年の5月29日から6月1日まで東京芸術劇場シアターイーストで上演された人形劇です。
江戸糸あやつり人形をご存知ない方も多いと思いますが、ラモーナさんによると『歌舞伎や文楽を生み出した町人文化・・・と一緒に江戸・明治時代とそれ以降を歩んできた芸であり、同じ古典作品を上演することが多い。しかし近代に入ってから、西洋の古典作品や近代演劇の作品において伝統的な糸あやつり人形芝居の特徴を生かす試みも評判になった。・・・江戸糸あやつり人形座はこの芸を代表する一座として活動している。主宰者の結城一糸は・・・アヴァンギャルド演劇にも取り組んでいる』という人形劇団であります。
『アルトー24時++再び』は2011年9月に上演された『アルトー24時』を踏まえていますが、再演ではなく新作です。〝残酷演劇〟で知られるフランスの劇作家、アントナン・アルトーを主人公にしています。残酷演劇とはなにか?ですが、これもラモーナさんの言葉を引用すれば、『衝撃的な芸術表現で観客の固定化した世界観を揺るがすのがこの演劇形式の狙いである。品位を最低まで落として、自分の行動を規制する全ての概念を廃したら、残るのは果てしない空しさだけである。しかしその空しさの中で、人間は息をすること、歩くこと、立つことなどを全て改めて学ばなければならない。アルトーの残酷演劇はその状態を実現しようとするのであって、人間に投げつけられた挑戦状のようなものだ』ということです。土方巽を中心とした暗黒舞踏もアルトーの演劇理論から強い影響を受けています。
ラモーナさんによると、『アルトー24時++再び』は素晴らしい舞台だったようです。『アルトーを悩ませる幻覚症状による分身、精神的な分身、個人と他人との絶縁、原子核の分裂など、この作品では一人の人間の意識の中で世界全体が散乱している状態を表現するために人形が使われている。・・・人形のアルトーが舞台に立っていながらそれを操るもう一人のアルトーがいて、それ以外にも複数のアルトーがいるので、目まぐるしく変化する幻覚の真っ只中にいるかのようだ。『演劇とその分身』の著者に捧げる作品で見事に生かされた糸あやつり人形の技術はいかにも効果的だった』と評しておられます。
ああなるほど、と思ってしまふところがありますね。アルトーの残酷演劇はいわゆるアングラとして60年代の演劇や舞踏を席巻しました。しかしその衝撃は少しずつ薄れつつある。生身の人間が肉体を使う表現には自ずから限界があるわけです。革命は基本的に一度限りです。それを経験した後は変わったしまった世界の中で、従来とは異なる形ではありますが、その様式化がゆっくり始まるのだと言ってもいい。
しかし人形劇は新たな可能性を示唆してくれそうです。特に日本の人形劇はとても残酷演劇に合っていると思います。リアルだけど抽象的表現が可能だからです。『アルトー24時++再び』のような根源的かつ前衛的試みが今現在も行われていることは大変心強い。ラモーナさんの演劇評、情報的にも内容的にも面白いですぅ。
なお今日コンテンツをアップしたように、金魚屋新人賞(『辻原登奨励小説賞』・『文学金魚奨励賞』)の中間発表は、7月中に行います。
■ ラモーナ・ツァラヌ 『青い目で観る日本伝統芸能』『No.010 電気ショックのような演劇―『アルトー24時++再び』』 ■