水野翼さんの文芸誌時評『No.005 小説NON 2014年5月号』をアップしましたぁ。水野さんは『今月も、大変親切である。「家族の絆を問う衝撃のサスペンス」とか「警察小説の醍醐味」とか「心温まる物語」、あるいは「揺れ動く女心」と、前もってレジュメされているので、安心して読める。・・・成長とか進化とか、読むことによって何かを得ようとすることは、もちろん悪くはない。・・・では目的や得るものがあるかと問われれば、それはないと答えるんじゃないか。読むことも書くことも、それを本当に必要としている者にとっては呼吸のようなもので、生きていることに何の得るものがあるか、と問うに等しいだろう』と書いておられます。
『小説NON』さんの出版元は祥伝社さんで、小学館さん系のビジネススキームです。小学館さんと講談社さんは出版界の最大手です(日本企業全体の中では中小といふことになるでしょうが)。講談社さんがその名の通り講談本的な大衆雑誌を中核にしているのに対し、小学館さんのビジネスは堅い。コミック誌、学習参考書、ノウハウ本など、パイが大きくて確実に需要のあるジャンルが中心です。小説を出すにしても、既に他社で大ヒットを飛ばした作家で確実にヒットを狙う傾向がごぢゃります。出版を明確に〝ビジネス〟と捉えておられる。む~見習いたひ(爆)。
水野さんが書いておられる『小説NON』掲載作品の〝レジュメ〟は、そういった出版社の傾向を示しているものです。どの出版社にも特性や傾向はごぢゃります。その出版カルチャーに属していない者にとっては許しがたい偏りに見えるわけですが、小説界には雑誌がごっちゃりあるわけですから、作家が〝タイプぢゃないわぁ〟と感じれば、他の雑誌と仲良くすればいいわけです。ただ短歌・俳句・自由詩のやうに雑誌が少ない業界は大変ですな。まあ何かを変えたいなら、詩人さんたちが行動するしかないわけですが。
ただ作家が雑誌のカルチャーに染まってしまふことは、多少問題です。水野さんが書いておられるやうに、書くことあるいは作品には目的があるやうでない。特に文学の場合はそうです。簡単なレジュメで説明できる事柄を表現したいなら、まだるっこしい小説や難しい詩など必要ないわけです。どの媒体で活動するにしても、作家にはメディアの要請を相対化できるくらいの知性が必要でしょうね。またメディアの方も、作家にある要請をしながら、実際にはその要請を軽々と超えていってくれる作家の出現を心待ちにしていると思います。
■ 水野翼 文芸誌時評『No.005 小説NON 2014年5月号』 ■