ハーブやワイン、シンプルなスープや戸外でのおしゃれな食事などを提唱する岡村伸彦氏の絵本だ。と言っても、ライフスタイル本の亜流として手に取ろうという人は少ないと思う。他の著書を知らず、ただ可愛らしい造りに魅せられ、開くと絵が素敵である。
この水彩の混ざり合うような、しかし透明感のないリッチなグラデーション、ところどころ細かい罅も見え、メタルの光沢を思わせる厚みのある色彩は何なのだろう。画材を知りたくなるが、もちろんそれを引き立たせているのは特徴のある線だ。柔らかいのにエッジが効いていて、言葉にならないメッセージに満ちているようでもある。
線のメッセージとは、どんな場合にも生命感で、それを追究したものがアートということになろうか。イラストというのは、それをぎゅうぎゅう追い詰めずに、魅力的な色彩やパターン化された形とどこかで折り合ったものだ、と思う。
イラストであるものをアートとして扱うことが流行りの昨今だが、それはなんだか、かえってダサい。手っ取り早い成功を夢見る田舎出身の若者たちの、埃と脂っぽい欲望がよばわるものだという気がする。そもそもイラストならば簡単に描けそう、と思う時点でアウトだ。簡単そうであればあるほど、生来のセンスや品位が問われる。書き文字に人柄が出るのと似ているが、もちろん人柄同様、センスも品位もそれぞれ自分では自信があるのだから始末が悪い。
センスとはまさに折り合うタイミング、バランスをはかる力そのものだ。言葉のないメッセージである線が、言葉と折り合うタイミング、息づかいの見せどころが、このような書物だ。線と言葉との呼応は無駄なく、シンプルに本質に迫る。色彩はそこに、たっぷりと豊かさを加えるものだ。画材が透明であれ不透明であれ、線と言葉とのやりとりを邪魔してはならない。これらすべてのバランスをはかるのは、画家としての力量の誇示より以上に、音楽的な軽やかさである。
「PLANT HAPPINESS」と繰り返される言語的メッセージは、「植物を育てるように、ゆっくり暮らす」ということのようで、いわゆるスローフードとかロハスとかに近いことだろう。雑誌などでも提唱されるそんな理想の生活はしかし、だいたいが絵に描いた餅だ。そもそもそんな絵を出している編集者たちの生活がスローにはほど遠いのだから、どうしようもない。
この著者とても忙しく過ごしているだろうが、ただ、心の持ちようとしてはありではないか。雑誌のグラビアは、実際の生活の個々の要素をリアルにそうせよと迫るところがある。理想のファッションと同様に、生活ぶりの優雅さも強迫的に評価されるとしたら、これほどの矛盾、皮肉はない。イラスト、絵はそんなリアルな強迫性を回避するとともに、そこでのメッセージが心の持ちよう、精神的なものだということを伝えてくれる。筆を持って絵を描くこと、その線が伸びてゆくのは確かに植物が伸びるのに似て、あらゆる色彩は花と実であるから。
金井純
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■