小原眞紀子さんの『文学とセクシュアリティー 現代に読む源氏物語』(第025回)をアップしましたぁ。『源氏物語』第34帖『若菜 上』(わかな じょう)巻の読解です。『若菜』は『源氏』最長の巻で、上下巻あります。源氏の兄の朱雀院は出家の準備をしていますが、娘の女三宮の将来が心配で、有力な婿を娶せようとする。その婿に源氏が名乗りをあげるといふか、選ばれるのですね。
源氏には紫の上といふ正妻がいますが、『この時代、最も身分の高い妻が正妻であり、それ以外の女性たちは、つまるところ今で言う愛人』なわけです。しかし無邪気で焼き餅焼きでもある紫の上は、あっさり女三宮が源氏の正妻になることを承諾する。その理由を小原さんは、『その最大の苦悩は、源氏を奪われることそのものではなく、この世の春を長く愉しんでいた身が、凋落した者として指差されることです』と書いておられます。
源氏は女三宮を正妻に迎えますが、『女三宮はあまりに子供じみていて、源氏はがっかりします』。源氏は紫の上が以前よりさらに恋しくなるのですが、その一方で朱雀院の尚侍だった朧月夜の元に通い、それを紫の上に報告します。小原さんはその機微を『かつて子供であった紫の上は心的な苦労を重ねて成熟しており、源氏とは幼長が逆転している。源氏は紫の上を母親のように絶対視しはじめ、男の子が母親の見守っている範囲で冒険すべく飛び出してゆく様子と似ています』と分析しておられます。
『若菜』の巻ではそれまでの『源氏物語』で起こった出来事のスキームが形を変えて繰り返され、当時は初老に当たる40歳を迎えた源氏は逆に若返り始める。それを小原さんは『「若菜上」巻は、源氏の若返りというテーマを介し、これまでの物語が一巡したことが示唆されています。その中で人々は、自身の因果に多かれ少なかれ直面する』とまとめておられます。『若菜』が『源氏』の大きなターニングポイントの一つと言われる理由でしょうね。下巻の読解が楽しみであります。
■ 小原眞紀子 『文学とセクシュアリティー 現代に読む源氏物語』(第025回) ■