小原眞紀子さんの文芸誌時評『No.009 群像 2014年05月号』をアップしましたぁ。長篇小説『寂しい丘で狩りをする』を刊行された辻原登さんと、映画監督の滝田洋二郎さんとの対談を取り上げておられます。辻原さんには文学金魚新人賞の選考委員をお願いしております。滝田さんは『陰陽師』(原作・夢枕獏)、『おくりびと』(原作・青木真門『納棺日記』)など文芸系作品の映像化で評価されている監督さんです。辻原さんは若い頃は映画監督になりたくて家出した経歴をお持ちですから、興味深い対談になっています。
また小原さんには辻原登論『辻原登-現代小説の特異点』を書いていただきました。小原さんは映画の〝ロマン〟を論じた上で、『ロマン、などという大時代な言葉を持ち出したのは、辻原登がロマンという概念に似つかわしいところがある作家だからで・・・普通に等身大の人間が、普通のロマンを纏っている。・・・この人は本当に悪い奴だとか、本当に残酷な出来事とかを描くことはないのではないか、と思える。そしてそれは時代がそうさせている』と書いておられます。
その理由を小原さんは、『作家が登場人物を容赦なく追い詰めていく、というのは、追い詰める先が見えているからだ。それは多くの場合、神にも通じるような強い観念で、欧米のサスペンス、クライムノベルの秀作には、そういった観念性が欠かせない。それらの作家たちはとりわけ残酷なわけではなく、そうされることによってしか登場人物もまた救われないのだ、という信念を持っている』と論じておられます。
確かにそうなんですね。小説で主人公をギリギリと追い詰めていく時には、なぜそうしなければならないのかといふ観念が措定されていなければなりません。小原さんは『『冬の旅』、『寂しい丘で狩をする』と、犯罪に関わる作品を続けて発表している辻原登にいわゆる残酷さは似合わない。ただ、普通のロマンを抱えた普通の人間が、ごく“ 映画的 ” に淡々と犯罪と呼ばれる「出来事」に関わる姿が見られる』と書いておられますが、辻原さんは時代の雰囲気を確実に捉えている作家さんなのですぅ。
■ 小原眞紀子 文芸誌時評『No.009 群像 2014年05月号』 ■