小原眞紀子さんの『文学とセクシュアリティー 現代に読む源氏物語』(第022回)をアップしましたぁ。第三十一帖『真木柱』の巻を取り上げておられます。『真木柱』は古来、『源氏物語』の中でも様々に解釈が分かれる巻です。大勢の求婚者に囲まれていた玉鬘が、よりにもよって最も魅力のない髭黒大将の妻にされてしまうからです。髭黒大将は女房の手引きで玉鬘の寝所に忍んでいき、強引に自分のものにしてしまふのですね。これはレイプではないかとおっしゃる研究者もたくさんおられます。しかし小原さんの解釈は違います。
小原さんは『源氏が帝にやると決めた養女を強引に自分のものにしておとがめなしとは、鬚黒の力が潜在的に強大なものになりつつあったことを示します』、『一方で玉鬘にとっても、源氏を後見とする中宮および内大臣の娘が女御として入っている宮廷で、もし軽々しく扱われれば不幸になる。ですから鬚黒との結婚は合理的で、本当は非の打ち所がない良縁なのです。さもなければその強引な行為は、やはり政治的にも何らかの軋轢を生み出したに違いない』と書いておられます。
恐らくそのとおりでしょうね。小原さんはまた『すべての登場人物を把握する著者(紫式部)は、政治家である男たちの思惑やロジックをも前提として彼らの行為を決めますが、語り手の女房の目には、政治家たちも恋するゆえに滑稽な、そのくせ無神経な男たちとして映る』とも書いておられます。『源氏』の語り手である女房は髭黒大将を嫌悪しますが、それを鵜呑みにしてはいけない。作家は語り手よりも高い審級に立って物語を操っています。
それが顕著に表れているのが髭黒大将の正妻・北の方の〝物の怪〟でしょうね。小原さんは北の方の物の怪について、『女性たちを取り巻く抑圧がその「病」の原因となり得ることを、千年前の著者・紫式部は、現代の精神分析学に基づく私たちの認識程度には理解していました』と書いておられる。小原さんの『真木柱』の読解は冴えています。じっくりコンテンツを読んで堪能してください。
■ 小原眞紀子『文学とセクシュアリティー 現代に読む源氏物語』(第022回) ■