1968年の初版だ。黒に近い藍色と黄色との二色刷り。決して豪華でカラフルな絵本ではない。ただ、そこには端的に、光と闇という概念がある。それを子供に伝えるというのは、確かに日常を逸脱した試みだ。
最初は住所の話から始まる。外国からの手紙の宛名には「日本」と書かれている必要があるのと同様に、他の惑星からの手紙には「地球」と書かれている必要があるだろう。他の恒星からの手紙には「太陽系」と、他の銀河からの手紙には、さらに「銀河系」と。
大宇宙 銀河系 太陽系 地球 日本 神奈川県 横浜市 保土ヶ谷区 鎌谷町 347
高田三郎くん
高田万里子さん
このように視点をどんどんと上げてゆくことで、色彩が失われていったとも考えられる。光のある状態と、失われた状態。宇宙では、究極的にはこの二つなのだ。絵本の中で、子供たちが宇宙の「暗い闇」とはどのような暗さなのかを実感するため、光の入らない真っ暗な部屋の中に、毛布や何かを引きずり込むという場面がある。そこは地球上、地上でのできごとだ。絵本を眺める私たちの目には、黄色以外にも、毛布が鮮やかな模様や色彩を持っているように映っている。
子供向けの本に絵が多く、多色刷りのコストをかけつつ、たいていはカラフルに彩られているのは、地球上に生まれてきた子供たちに、この地上の豊かさをまずは教えようとするからである。なぜなら子供というのも、その豊かさの一部にほかならないからだ。
子供が成長するということは文字通り、視点が地上から高いところに上がってくることだ。一つ一つの事物に神秘が宿っているような、アニミズム的で色彩豊かな生命感に郷愁をおぼえ、それがそのまま子供向けの絵本になるのが普通である。それは幼い子供に仲間を与えると同時に、大人の視線を地上の豊かさに戻す。
最後に、夜空を見上げている子供たちがいて、「あなたは、大宇宙を、ながめているのだ。」と書かれている。夜空という日常の一部は、もしそれを見る者の意識が、視線とともに高く飛翔するなら、すなわち宇宙へと抽象化される。その抽象化の過程とは、西洋文明における「神」の概念に近づいてゆくことでもある。
シュナイダーはドイツの人であり、子供たちに日常を離れ、宇宙の観念のもとに自らの居所を見直すよう促していることは、西洋的な一神教の神を思って暮らせ、ということに繋がる。しかし「あなたは星の子」にはもちろん、宗教臭はまったくない。ただ、1968年当時の宇宙科学をもとに、子供らに宇宙への関心と、それによって地上での自分の生活を再定義してみよ、言っているだけだ。
2013年の現在は、当時からみれば SF 的未来に属するが、地上の生活における意識は、それほどには変わっていない。ただ、宇宙物理学の進歩は特に昨今、目覚ましいものがある。宇宙の創成が138億年前とされ、その最初の星の痕跡が認められ、質量を生み出すヒッグス粒子、宇宙の多くを占めるダークマターの発見。光と闇しかないはずの「神」の領域も、手もとに引き寄せるとエキサイティングで賑やかではある。
金井純
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■