一.エリカ・バドゥ & ジ・アルケミスト

ひとりで呑み歩いて何が良いかといえば、それは好きに動けること。それっぽく言うなら「無限大の可能性」。とはいえ良いことばかりじゃないでしょ、と偶に訊かれるけど特に難点は見当たらない。よく退屈を疑われるが、ひとりで長時間呑むのは平気。若い頃、特殊訓練を受けていますから。まあ、そもそも退屈なら店を出ればいいような。それでもここ最近は誰かと呑む機会が多かった。勿論それはそれで面白い。基本的に丸投げ希望。折角なので普段は行かない店、ウェルカム。
まずはその謎の特殊訓練にも関わる友人と、数年振りに近所で昼からサシ呑みを。どこにしようか、なんて歩きながらも丸投げ希望なので意見は出さず。じゃあここで、と入ったのはピザ屋。確実にひとりでは入らない。パンクスで詩人で飲み屋を営む十歳年上の彼は数年前、不摂生が祟って三途の川を渡りかけた。数日間病院で目覚めなかった時の話をしながら、焼きたてのマリナーラを頬張る姿は立派な反面教師。あんなに減った体重もしっかり戻っている。嗚呼、再びの不摂生。まあ、人間だもの。そんな彼と出会ったのは、義務教育終了後間もない頃。本当に色々と世話になった。縁深い下北沢へ導いてくれたのも彼。そこで登場するのが噂の特殊訓練。例えば終電終了後、彼は翌朝仕事なので帰宅する。ついていけば泊めてくれるが、なるべく始発で帰りたい。となると、そこからの数時間は金も経験値もペラペラの丸腰でひとりロックバー。結構ハードな特殊訓練。あの経験があるので今もひとりは平気。楽しく過ごせる。小一時間ほどで「じゃあ次はどこ行く?」と立ち上がる反面教師。まさかの昼ハシゴ。会計をしながら彼がボソッと呟いた。「並んで歩くTシャツじゃないよな」。彼は「Anarchy & Violence」、私は「Hate & War」。四捨五入すればペアルック。
長らくアルバムを出していなかったエリカ・バドゥ。つい先日リリースされた『Before the World Blows』(’26)が11年振りと聞いて驚いた。その間もロバート・グラスパーの『ブラック・レディオ』(’12)やジャネル・モネイの『ジ・エレクトリック・レディ』(’13)への参加等々あったので、あまり久々感はなかった。本作の名義は彼女だけでなくプロデューサーでありDJ、ラッパーでもあるアルケミストとのダブルネーム。まだ聴き込むほど時間が経っていないが、少なくとも首を傾げる瞬間はゼロ。ちなみにスローなグルーヴの7曲目「Love Me Not」の最後はブラジリアンワックス脱毛の施術コント。なかなかぶっ飛んでいる。
【 Love Me Not / Erykah Badu & The Alchemist 】
二.ジョン・コルトレーン&ジョニー・ハートマン

歌伴。文字通り、歌い手に伴う演奏のこと。思い浮かぶアルバムは『ジョン・コルトレーン&ジョニー・ハートマン』(’63)。何の飾りもない直球タイトルだけど、その肩書きは効果抜群。即ち、コルトレーンが唯一歌伴を務めたアルバム。そんなこと言われたら聴きたくなっちまうじゃない。出会ったのは二十代後半、入り浸っていた呑み屋のマスターの御紹介。始発間際のダラダラした時間にぴったりの静かな音色。一発で好きになった……のは三曲目のジャズ・スタンダード「My One And Only Love」だけ。無論酔っ払いが様々な味わいを感知できる訳はなく、最初は旋律。次はハートマンの声。空気を多く含んだ柔らかな声は、今なら矢沢永吉を連想する。そして改めて最近いいなと思ったのは、遅ればせながらコルトレーンのサックス。実は本作、アバンギャルド路線に対する批判が増えたコルトレーンの、評判回復を狙った聴きやすい歌伴モノという一面も。そんな視点から聴くと、スッと歌に譲るあの感じに納得。
中高時代の同級生たちとは年に一、二回会う。まあ、理由はなく何となしに。ただ先日は珍しく理由アリ。ひとりNYへ数年単身赴任するので所謂景気づけ。当然こんな時も丸投げ。大抵は飲み放題付きのコースになる。もう数十年のパターンだが、前回まさかの異変が生じた。我々の食べるペースが遅かったようで、提供される料理がつっかえ気味に。ああ嫌だ嫌だ、年は取りたくない。さて今回、集合場所は池袋の中華「B」。さすが人気店、洒落てます。前回の反省を踏まえ、今回は何となくみんなスピーディー。まあ、普段行く店とは価格帯も客層も違うが、我々のノリと話す話題は学生時代と変わらない。ちょっと目を離すと酒にイタズラをされ、それに気付くと逆ギレされ、全く何も変わらない。本当、男子校ってダメよねえ。
John Coltrane & Johnny Hartman【 My One And Only Love 】
三.エルヴィス・コステロ&バート・バカラック

ベテランなのにどの時期の作品も素晴らしいだけでなく、その方向性が多岐に渡っているのがエルヴィス・コステロの凄味。あの癖の強い声がセットなので個人的にはどれも聴きやすい。数年前、少々ヘヴィーかなと放っておいたのが、巨匠バート・バカラックと作り上げた『ペインテッド・フロム・メモリー』(’98)。いざ聴いてみれば何故放っておいたのかと悔やむ良盤。最近個人的にバカラックのサントラ「ではない」オリジナル盤がツボなので、更に興味深く響く。曲は粒揃いだけど、やはりグラミーの栄誉に授かった三曲目の「I Still Have That Other Girl」が素晴らしい。先日天国に旅立ったカサンドラ・ウィルソンとのデュエット版より、コステロ独唱の方が濃い味で好み。
通販で購入したハンディー・ファンを渡す為、母親と待ち合わせをしたのは沼袋。馴染みのやきとん屋「T」はまだオープン前。行き当たりばったりに喫茶店「M」へ。なぜか最近会うと呑むように勧めてくれるので、ビールを頼むとショート缶と冷えたグラスが。どうやらあまり出ない裏メニュー。一時間ほど近況報告を聞き会計をするとビール、350円也。思わず母親が「え?」と大きめの声を出した。穴場を見つけるのはこんなタイミングから。母上、いつまでもお元気で。
Elvis Costello, Burt Bacharach【 I Still Have That Other Girl 】
寅間心閑
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