菅原美架 連載小説『赤ちゃん貸します』(第03回 最終回)をアップしましたぁ。警察官と刑事たちが踏み込んで来ますが、女が本物だと主張する赤ちゃんを「精巧なリボーンドール」だと判断してあっさりと帰ってしまう。女も主人公も何を見ていたのか。誰の判断が正しいのか。共同幻想を援用した優れたシーンです。女も主人公も現実と幻想の間で揺れています。
物語の後半に登場する「クロスローズ未来研究所」は、この作品の世界観をもっとも色濃く体現する空間でしょうね。後悔を結晶化し、ネックレスにするかドーナッツにするか選ばせる。後悔とは蒸溜残渣(ざんさ)だとマスターは言い、「他人の目から見れば、あなたの過去など首にぶら下がっているネックレスに過ぎない」とも言う。この作品を貫くテーマですがささやかで深い傷の方が小説にはふさわしい。
その根底に母がいる。主人公の母は「大きくならないで」と囁き続けた。母に言わせれば大きく、醜くなってゆく主人公(娘)にとってそれは一瞬しか直視できない傷です。しかしそんな傷はネックレスになり、主人公はネックレスをサエ子の首筋にそっと乗せ「似合うじゃない、サエ子」と言う。解放されたのか、それとも何も変わっていないのか。その余白がこの小説の誠実でしょうね。
『赤ちゃん貸します』は女性たちの〝喪失〟を描いた小説です。男も不在なら赤ん坊も不在。母親も不在です。そして不在を、喪失を抱えた女たちだけがいる。その不在を埋めようとする行為が主人公と謎の女を生み、リボーンドールを生む。テーマが切実でなければ優れた小説にはなりません。またこの不在は誰もが一つや二つ抱えている。それを掘り下げられるかどうかが優れた小説の境目になるでしょうね。
■菅原美架 連載小説『赤ちゃん貸します』(第03回 最終回)縦書版■
■菅原美架 連載小説『赤ちゃん貸します』(第03回 最終回)横書版■
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