性にまつわる全てのイズムを粉砕せよ。真の身体概念と思想の自由な容れものとして我らのセクシュアリティを今、ここに解き放つ!
by 金魚屋編集部
小原眞紀子
詩人、小説家、批評家。慶應義塾大学数理工学科・哲学科卒業。東海大学文芸創作学科非常勤講師。一九六一年生まれ。2001年より「文学とセクシュアリティ」の講義を続ける。著書に詩集『湿気に関する私信』、『水の領分』、『メアリアンとマックイン』、評論集『文学とセクシュアリティ――現代に読む『源氏物語』』、小説に金魚屋ロマンチック・ミステリー第一弾『香獣』がある。
三浦俊彦
美学者、哲学者、小説家。東京大学教授(文学部・人文社会系研究科)。一九五九年長野県生まれ。東京大学美学芸術学専修課程卒。同大学院博士課程(比較文学比較文化専門課程)単位取得満期退学。和洋女子大学教授を経て、現職。著書に『M色のS景』(河出書房新社)『虚構世界の存在論』(勁草書房)『論理パラドクス』(二見書房)『バートランド・ラッセル 反核の論理学者』(学芸みらい社)等多数。文学金魚連載の『偏態パズル』が貴(奇)著として話題になる。
三浦 今日は経産省の裁判、やっぱり重要な問題なので、判決文を見ながらやりましょうよ。
小原 はい、ぜひ。
三浦 早速。
上記部署の執務室がある庁舎(以下「本件庁舎」という。)には、男女別のトイレが各階に3か所ずつ設置されている。なお、男女共用の多目的トイレは、上記執務室がある階(以下「本件執務階」という。)には設置されていないが、●●●複数の階に設置されている。
三浦 だから他の階の女子トイレを使えってことになっていたわけだけど、多目的トイレもあるということでしたね。
上告人は、生物学的な性別は男性であるが、幼少の頃からこのことに強い違和感を抱いていた。上告人は、平成10年頃から女性ホルモンの投与を受けるようになり、同11年頃には性同一性障害である旨の医師の診断を受けた。
三浦 この医師の診断っていうのがいい加減だってことはもう周知の事実ですけどね。そして、
上告人は、平成18年頃までに、●●●を受けるなどし、同20年頃から女性として私生活を送るようになった。
三浦 この「女性として」っていうのも問題なんですよね。女性としての生活とか、女性としての勤務とかっていうのを生物学的な区分以外のところでやたらともうけるのはいけないはずなんですけど。それがもう前提になっちゃってる。
小原 判決文って、あんまり論理的じゃないんですね。
上告人は、平成22年3月頃までには、血液中における男性ホルモンの量が同年代の男性の基準値の下限を大きく下回っており、性衝動に基づく性暴力の可能性が低いと判断される旨の医師の診断を受けていた。なお、上告人は、健康上の理由から性別適合手術を受けていない。
三浦 これは皮膚病とからしいですね。
小原 あ、そうなんだ。
三浦 皮膚病のためということは、地裁や高裁の判決のときに明記されてました。ただ、性別適合手術受けずに平気で生活できるということは、男性器がついていても違和感を覚えないということ。男性器がついていても違和感を覚えない人が、なぜ女子トイレを使えないと違和感を覚えるのか、っていうのは疑問ですよね。
小原 まさしく。それは本当にそうですね。ナチュラルにそうですよ。
三浦 だってね、女性らしさという点で言えば、女性器がない、つまり男性器があるということの方が、女性トイレを使えないということよりもはるかに逸脱してますからね。
小原 もちろん。
三浦 だから、それで大丈夫なのであればねえ。別にそんな女子トイレにこだわる必要ないんですけどね。
小原 嫌がらせしたいのかな、とか思ってしまう。
上告人は、平成21年7月、上司に対し、自らの性同一性障害について伝え、同年10月、経済産業省の担当職員に対し、女性の服装での勤務や女性トイレの使用等についての要望を伝えた。
三浦 これがまあ「女性として」勤めるってことなんでしょうね。
これらを受け、平成22年7月14日経済産業省において、上告人の了承を得て、上告人が執務する部署の職員に対し、上告人の性同一性障害について説明する会(以下「本件説明会」という。)が開かれた。担当職員は、本件説明会において、上告人が退席した後、上告人が本件庁舎の女性トイレを使用することについて意見を求めたところ、本件執務階の女性トイレを使用することについては、数名の女性職員がその態度から違和感を抱いているように見えた。
三浦 と、これも単に「見えた」だけではないか、はっきりとした違和感を表明した人はいないのだから、というのがこの判決の結果になっているようです。はっきり異論を唱えた人はいなかった、ということですね。
小原 うーん。
そこで、担当職員は、上告人が本件執務階の一つ上の階の女性トイレを使用することについて意見を求めたところ、女性職員1名が日常的に当該女性トイレも使用している旨を述べた。
三浦 だから、その一つ上の階も使うな、ということになったわけですね、でもこのね、「私、使ってるから」と言った職員は、嫌だ、って言ったってことですよね。
小原 そうですよ。そうなります。はい。
三浦 明らかに嫌がっているように見えた、ということですよね。だから、ここを読むだけでも、他の女性職員はやはりネガティブな態度だったということは読み取れる。
小原 はい。
本件説明会におけるやり取りを踏まえ、経済産業省において、上告人に対 し、本件庁舎のうち本件執務階とその上下の階の女性トイレの使用を認めず、それ以外の階の女性トイレの使用を認める旨の処遇 (以下「本件処遇」という。)を実施することとされた。
三浦 ですけどね。で、見た目は女性に見える、ってことなんでしょうね、この人は。だからもう、だからこの人が男性だとわかっている女性職員が使うトイレは使わないでくれ、他のそれを知らない女性職員だけが使うトイレだったらいいでしょう、ということなんですよね。
小原 よその人にとっては、公共のトイレと同じ感覚なんですけどね…。
上告人は、本件説明会の翌週から女性の服装等で勤務し、主に本件執務階から2 階離れた階の女性トイレを使用するようになったが、それにより他の職員との間でトラブルが生じたことはない。
三浦 だから「なんで男性がいるの」っていうふうに問題視されたことはない、ということですね。
小原 うーん。
また、上告人は、平成23年●月、家庭裁判所の許可を得て名を現在のものに変更し、
三浦 まあ、名前の変更は性別変更しなくてもできますからね。
同年6月からは、職場においてその名を使用するようになった。
三浦 その、いわゆる女性名でしょうね。
上告人は、平成25年12月27日付けで、国家公務員法86条の規定により、職場の女性トイレを自由に使用させることを含め、原則として女性職員と同等の処遇を行うこと等を内容とする行政措置の要求をしたところ、人事院は、同27年5月29日付けで、いずれの要求も認められない旨の判定をした。
三浦 結構、時間かかってるんですね。
小原 それは慎重にはやってると思います。
三浦 一年半ぐらい検討したんですよね。で、
原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、本件判定部分の取消請求を棄却した。経済産業省において、本件処遇を実施し、それを維持していたことは、上告人を含む全職員にとっての適切な職場環境を構築する責任を果たすための対応であったというべきであるから、本件判定部分は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとはいえず、違法であるということはできない。
三浦 これは地裁の判決をひっくり返した高裁のことを言ってるんですね。つまり、トイレは二階の離れたところを使いなさい、というのは、これは違法ではありません。
しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 国家公務員法86条の規定による行政措置の要求に対する人事院の判定においては、広範にわたる職員の勤務条件について、一般国民及び関係者の公平並びに職員の能率の発揮及び増進という見地から、人事行政や職員の勤務等の実情に即した専門的な判断が求められるのであり(同法71条、87条)、その判断は人事院の裁量に委ねられているものと解される。したがって、上記判定は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したと認められる場合に違法となると解するのが相当である。これを本件についてみると、本件処遇は、経済産業省において、本件庁舎内のトイレの使用に関し、上告人を含む職員の服務環境の適正を確保する見地からの調整を図ろうとしたものであるということができる。
そして、上告人は、性同一性障害である旨の医師の診断を受けているところ、本件処遇の下において、自認する性別と異なる男性用のトイレを使用するか、本件執務階から離れた階の女性トイレ等を使用せざるを得ないのであり、日常的に相応の不利益を受けているということができる。一方、上告人は、健康上の理由から性別適合手術を受けていないものの、女性ホルモンの投与や●●●を受けるなどしているほか、性衝動に基づく性暴力の可能性は低い旨の医師の診断も受けている。
これを本件についてみると、本件処遇は、経済産業省において、本件庁舎内のトイレの使用に関し、上告人を含む職員の服務環境の適正を確保する見地からの調整を図ろうとしたものであるということができる。
そして、上告人は、性同一性障害である旨の医師の診断を受けているところ、本件処遇の下において、自認する性別と異なる男性用のトイレを使用するか、本件執務階から離れた階の女性トイレ等を使用せざるを得ないのであり、日常的に相応の不利益を受けているということができる。
一方、上告人は、健康上の理由から性別適合手術を受けていないものの、女性ホルモンの投与や●●●を受けるなどしているほか
小原 伏字のところは、何を受けてるんだろう。豊胸手術とかかな。
三浦 「性衝動に基づく性暴力の可能性は低い旨の医師の診断も受けている。」って、怪しげなtweetを繰り返していたという話も出てますけどね。裁判官がそれ知ってたかどうかね。それがもし本人のものだった場合に、裁判のいろんな考慮材料になるべきかどうかって話もあるわけですよね。
小原 暴力的かどうかは別として、性的オブセッションの強いtweetですよね。
三浦 まあ、別に女性が下ネタをtweetしたからといって悪いことはないと考えれば、ああいうtweetがあったから、この人は女じゃないというのはおかしいってことになる。
小原 うーん。
三浦 一方では、「女性らしい」生活をしたいというね。女性らしい生活ということにこんなにこだわって、普通の女性はああいう、男性器のこんな図を作ったりしない。そんな種類の下ネタは、普通はもう男性特有のものだから。そういう振る舞いをしていながら、「女性らしく」扱え、という主張はもともと破綻してるじゃないかっていう反論もできるわけですよ。
小原 もちろんです。
三浦 ね。つまり本人が「女性らしさ」にこだわっているという前提に立てば、もうそれが覆ってるじゃないか、と。ただ、これどっちもちょっと理屈が通るので、なかなか難しいですね。
小原 女性らしさとか男性らしさとか、曖昧なところに依拠している以上は、ですね。
三浦 ともかくそういう状況で、
現に、上告人が本件説明会の後、女性の服装等で勤務し、本件執務階から2階以上離れた階の女性トイレを使用するようになったことでトラブルが生じたことはない。また、本件説明会においては、上告人が本件執務階の女性トイレを使用することについて、担当職員から数名の女性職員が違和感を抱いているように見えたにとどまり、明確に異を唱える職員がいたことはうかがわれない。さらに、本件説明会から本件判定に至るまでの約4年10か月の間に、上告人による本件庁舎内の女性トイレの使用につき、特段の配慮をすべき他の職員が存在するか否かについての調査が改めて行われ、本件処遇の見直しが検討されたこともうかがわれない。
三浦 まあ、ちょっと無策であったってことかな、経産省側がね。ただここで疑問なのは、トラブルがなかったとは言うけれど、経産省はそんなに外の人がやたら入ってくる環境ではないという前提のもと、少し違和感があったとしても、そんなに騒がないですよね。でも、あれ? この人? っていうふうに、他の執務室の女性職員が、あれあれ? とか思っていた可能性は大いにありますよね。
小原 外からのお客さんがいるとしても、基本的には職員が中心ですね。
三浦 だから違和感があったとしても、トラブルに発展することはそんなにあるわけがないし。そしたらトラブルが生じたことはないって、そのことが何らかの証拠として採用できるほどのものか、とは思いますよね。
小原 もともとあるわけない。というか、だからこそ、この案件に関してのみの、と判事は非常に強調しているので、この件においてはトラブルもないことだし、っていう意味でしょう。
三浦 そうそう。でもこの件についてトラブルがないってこと自体、そんなに重視してもしょうがない気がするんだよね。
小原 まあ、もし例えば女性職員の中でマキの強い人がいて、この人と対立して大喧嘩してたっていう事実が一回でもあれば、違っていた。
三浦 そうそう。だから、そういうことはなかった、ということですね。でもまあ、内心のトラブルはなかったとは言えないはずですよね。
小原 本当は、「あの人いるから嫌だから、別のトイレ行こう」という女性職員がどのぐらいいたか、っていうのはまた別ですよね。
三浦 単にそういう形でね、避けていたってことかもしれないですよね。で、
以上によれば、遅くとも本件判定時においては、上告人が本件庁舎内の女性トイレを自由に使用することについて、トラブルが生ずることは想定し難く、特段の配慮をすべき他の職員の存在が確認されてもいなかったのであり、上告人に対し、本件処遇による上記のような不利益を甘受させるだけの具体的な事情は見当たらなかったというべきである。そうすると、本件判定部分に係る人事院の判断は、本件における具体的な事情を踏まえることなく他の職員に対する配慮を過度に重視し、上告人の不利益を不当に軽視するものであって、関係者の公平並びに上告人を含む職員の能率の発揮及び増進の見地から判断しなかったものとして、著しく妥当性を欠いたものといわざるを得ない。
三浦 この「著しく妥当性を欠いた」っていう判断は面白いですね。だって地裁と高裁で正反対の結論が出てるくらいの、それほど論争の余地のある問題であるにもかかわらず、「著しく妥当性を欠いた」という判断をしています。これは非常に面白い。微妙ではないんですね。「著しく妥当性を欠いた」と言ってますから。
したがって、本件判定部分は、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるというべきである。
以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決中、本件判定部分の取消請求に関する部分は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、上記請求は理由があり、これを認容した第1審判決は正当であるから、上記部分につき被上告人の控訴を棄却すべきである。
三浦 まあ、これは国側ですよね。経産省側の控訴を棄却すべきである。
なお、上告人のその余の上告については、上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので、棄却することとする。
三浦 えーと、これは、そのトイレ使用以外の部分っていうことかな? トイレ使用以外の部分に関しては、論じないっていうことか。
よって裁判官全員一致の意見で主文の通り判決する。
三浦 あとは各補足意見が重要なんですよね。こんなに全員がズラズラと補足意見をつけるというのは、どうも例外らしいです。
小原 なるほど。
三浦 「著しく妥当性を欠く」と言ってる割にはね。それでまあ、一人はこう言ってると。
裁判官宇賀克也の補足意見は次のとおりである。1 本件で第1審と原審とで判断が分かれたのは、①上告人が女性ホルモンの投与や●●●等により女性として認識される度合いが高いことがうかがわれ、
三浦 この伏字部分は何だろうな。
小原 だから、生殖器以外の部分の整形手術では?
三浦 ああ、そういうことかな? そう、整形手術か。そういうことかな。でもそれだったら、なんで性別適合手術できないの?
その名も女性に一般的なものに変更されたMtF(Male to Female)のトランスジェンダーであるものの、戸籍上はなお男性であるところ、このような状態にあるトランスジェンダーが自己の性自認に基づいて社会生活を送る利益をどの程度、重要な法的利益として位置付けるかについての認識の相違、及び②上告人がそのような状態にあるトランスジェンダーであることを知る同僚の女性職員が上告人と同じ女性トイレを使用することに対する違和感・羞恥心等をどの程度重視するかについての認識の相違によるのではないかと思われる。
三浦 どっちの権利が優先されるか、と、
本件を検討するに当たって、上告人が戸籍上はなお男性であることをどのように評価するかが問題になる。本件で、経済産業省は、上告人が戸籍上も女性になれば、トイレの使用についても他の女性職員と同じ扱いをするとの方針であったことがうかがわれるが、現行の性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律の下では、上告人が戸籍上の性別を変更するためには、性別適合手術を行う必要がある。これに関する規定の合憲性について議論があることは周知のとおりであるが、その点は措くとして、性別適合手術は、身体への侵襲が避けられず、生命及び健康への危険を伴うものであり、経済的負担も大きく、また、体質等により受けることができない者もいるので、これを受けていない場合であっても、可能な限り、本人の性自認を尊重する対応をとるべきといえる。
三浦 だから、これがもう問題でね。性自認というものをそんなに尊重するに値する基本的人権と認めるべきかどうか自体が、本当は論争の的なはずなんですよね。手術を受けたくてしょうがない、もう自分の体が嫌だと、手術を受けたくて受けたくてしょうがない、そういう人のための法律ですからね、特例法っていうのは。だからそういう人に対して、まあ、もう性器も変えたし外見も変えたから、じゃあ性別を変えさせてあげましょう、っていうのが特例法なわけで。それをここではひっくり返してますよね。
小原 体質的にその手術を受けられないって、具体的にどういうことなんでしょう。すごく大変な手術なんですか。
三浦 私が個人的に知っている、性別を変えている人から聞きましたけれど、一般には、そんなに負担じゃないって。造膣手術っていう、女性と同じような膣を作るようなところまでやると確かに大変だけれども。女性器に見えるように、セックスが可能であるように穴も作って、という具合にするとしたら大掛かりな手術になるけれど、この特例法の要件を満たすためだけだったら、かなり負担が少ないって言ってましたよ。
小原 そうですよね。取っちゃうだけですもんね、。
三浦 皮膚病だそうだけれども。
小原 生殖器の撤去手術のみで、皮膚病が障害になるんでしょうか。
三浦 皮膚病はそんなに命に関わる問題ではないはずだし。
小原 うーん。
三浦 そのあたりが問題なわけですよ。これ。本当はその情報が出てこないと、判決の妥当性がわかりませんよね。それで今、特例法をさらに変更して性別適合手術なしでも性別変更できるようにしようっていう動きがあるわけですね。そもそも国連がそのようにしろって、日本にプレッシャーをかけてるという。まあ、とんでもない話だ。
小原 とんでもないですね。どんどん拡大解釈されちゃいます。
三浦 性別適合手術っていうのは本来、性同一性障害の人がもう、受けたくて受けたくてしょうがない、今のままの体ではいられないっていう場合の手術なんであってね。で、それに付随して、社会的便宜を図るために性別変更を戸籍上可能にしたのが特例法です。目的を逆転させちゃいけないんです。性別変更の、そういう承認欲求を満たすために体を変えるわけじゃないんだから。
経済産業省は、職員の能率が充分に発揮され、かつ、その増進が図られるように服務環境を整備する義務を負っているところ(国家公務員法71条1項)、庁舎内のトイレについて、上告人の自らの性自認に基づいて社会生活を送る利益に配慮するとともに、同僚の職員の心情にも配慮する必要がある。本件で経済産業省が、女性職員が上告人と同じ女性トイレを使用することに対する違和感・羞恥心等を重視してとった対応が上告人の自らの性自認に基づいて社会生活を送る利益に対する制約として正当化できるかを検討すると、法廷意見が指摘するとおり、上告人が女性トイレを使用することにより、トラブルが生ずる具体的なおそれはなかったと認められる。
三浦 ここも疑問でね。これから入ってくる女性職員もいるはずですよね。そういう人たちのことはどうなるの? 今いる人たちの気持ちだけ考えればいいのか、っていうことも懸念されますよね。
小原 経産省にも取引先はあるでしょ。普段から周知されている常勤の職員でなく、外来者にとっては、公共のトイレでいきなり女装男性と鉢合わせしたのと同じです。
三浦 まあ、そうですよね。来客はそれほどない環境らしいんだけれど、それにしても部外者がまったくいないわけではないでしょうし。このあたりね、メンバーが固定されてるんであればまだしも、これからどうなるかがわかりません。
小原 公共のトイレとは別の、この職場の特定のトイレの話だと強調されているようですけど。だけど職場である以上、社会的な場であるわけですから。完全に公共的な公園のトイレとは違うかもしれないけど、開かれた場であって、お家の中とは違うじゃないですか。
三浦 そうですよ。他人だからね。
小原 男女で分かれているということは、お家じゃない、社会だってことでしょ。
三浦 しかも、わかってるからこそ嫌だってこともあり得るよね。あの男と一緒っていうのは、むしろ見知らぬ男性の方がまだマシだっていう可能性あります。
そして、本件判定が行われた平成27年5月29日の時点では、上告人が女性の服装で勤務を開始してから4年10か月以上経過しており、上告人がその名を変更し職場においてその名を使用するようになった平成23年6月からは約4年が経過していた。したがって、本件判定時には、たとえ、上告人がMtFのトランスジェンダーで戸籍上はなお男性であることを認識している女性職員が、本件執務階とその上下の階の女性トイレを使用する可能性があったとしても、そのことによる支障を重視すべきではなく、
三浦 えーと、この辺りもね、すでに勤めている女性職員のことだけ考えればそうかもしれないけど。やっぱり、新しく異動してきた人はどうなのか。
小原 あとは、長い年月揉めてて、その間に本人・周囲の状況も変わったし、要するにLGBT法案が成立して空気が変わってきたってことだと思う。裁判所としては結果的には法に従って、ということになるので、こういう法を成立させたなら、国会の責任として受け止めるべきっていう意識もあるんじゃないか。
三浦 そうそう、そういうことでしょうね。今は、ね。こういう法律ができて、こういう風潮になった以上は、こういう判決が出るよという一つの事例を示した。
小原 新たに法律が成立したのに、裁判所が従来の判断に固執するっていうのは、わざわざ立法した方の意図を無にすることになるっていう。善意に解釈すると、そういうことになりますよね。
三浦 だから、この判決を批判するばかりでは近視眼的で。理解増進法もできたし、マスコミの論調もああいう感じだし、マジョリティとされる人々によってこのように認められているわけだし、であるならば裁判所はこう判断しますよっていうね。
小原 裁判所の役割はこういうものなんで、文句言われても、あんな法律ができたんだから仕方ないだろう、と。
三浦 立法側がね、少し考え直しなさいという警告にもなっているかもしれないですよ。
小原 だからこのケースに限って、って言ってるのであって。これじゃまずいと思ったら、今からでも修正が効くように立法を促す、ってことじゃないですかね。
三浦 それで条件付き判断をした。いわゆるトランスジェンダリズムに異論を唱える我々からしてもね、この判決は正しかったかもしれないと認めざるを得ない可能性は残ります。
小原 むしろそう信じたい。私たち自身は、経産省のそこのトイレ使うチャンスはあまりないですし、はっきり言えばそのトイレがどうだろうと、まあ知ったことじゃないです。
三浦 そういう条件下でのことなんだから。
小原 我々が騒いでるのは、これが他のケースに敷衍されるんじゃないか、駅のトイレ、公園のトイレで変態が捕まったときに、これによって無罪放免されるんじゃないかと心配している。外野としてギャーギャー言ってるわけじゃないですよね。
三浦 これ、滑りやすい坂だよね。ここまで認めたから、ここまで認めたから、って。この判決自体、もう上下二階分を除いた他の女性トイレは使わせてるんだから、そこまで認めたんだから、今の制約はおかしいよ、って理屈が入ってますからね。だからある程度は認めると、その先も認めざるを得なくなってしまう。
小原 そういうことですよ。一切認めないって言うんだったらわかるけど。
三浦 一切認めなければ、筋が通っていたんだよね。あなたは男性なんだから女性トイレ使うな。それだけ。経産省が最初からそのような態度を取っていれば、別に問題なかったわけですよ。
小原 結局のところ甘い判断をしていて、お互い譲り合えばいい、ここまで譲歩したんだから向こうも遠慮してくれるだろう、みたいな。そういう認識があったんじゃないですか。
三浦 そういうこと。
小原 ところが、めったなことじゃクビにならない役所で、しかも別に出世したいわけじゃなし、私生活と自己顕示力を目一杯エンジョイして、って感じの人、いるじゃないですか。ごねられるんだったら、せいぜいこねてやろうって。そういうことを同じ職場でやるってことが、そもそも想定されてなかったんじゃないか。
三浦 これから、そういう職場や学校とかで、同じことが起こりますからね。
小原 起こるでしょうね。
三浦 不特定多数じゃないコミュニティで、どんどん起こりますよ。
小原 2点ほど質問があって、まず不特定多数の場所では、女性トイレに男性が立ち入れば、性自認がなんであろうと犯罪になることをもう一回確認したいです。それと女性トイレで覗きの犯人を捕まえたら正真正銘の女性だった、という場合も逮捕されるんだろうか。
三浦 それは逮捕されるでしょ。当然。建造物侵入罪にはならないけれども、迷惑防止条例とか。
小原 そして今のところは、女性用になってるところに肉体的男性が入れば建造物侵入でいけるってことなんですね。
三浦 そう、確実にいける。
小原 この経産省のトランスジェンダーの方は、あのTwitterアカウントが本人のものと仮定すると、男性だからこそ女性になりたがっている。切り落とさないのも要するに、「すべてでありたい」っていう感じがする。これは印象ですけどね。
三浦 うーん。
小原 制度をすり抜けたぞ、ざまみろと煽るようなtweetをなさっている中で、デパートだとか、そういう公共施設の女性トイレには、自分はもうとっくに出入りしてるって言ってる。今回の判決では、この方が勝ったわけだけど、普段、公共施設の女性トイレに平気で入ってるっていうことを自白していて、それは犯罪ですよね。
三浦 まあ、本当にやってればね。万引きだって見つかんなければ、それっきりだから。で、本人がそれを別に言いふらしたとしても、本当かどうかもわからないわけだから。世間からのバッシングを受けたら畜生と思ってさ、言い返したくなるのは人の常だから、わざとそう言ってる可能性もありますからね。
小原 そうですね。でもTwitter界隈のヒマ人がマークしていて、入った瞬間に逮捕するってことができるわけですよね。
三浦 わざと言ってるだけだったら、マークしても無駄だけどね。
小原 可能性の話です。煽りってそういうものだし、模倣するアホが増える。言ってるだけだったら、もちろん本人は法的に問題ないですけど。だけど最高裁まで争って、公共のトイレでは、女装したままでもちゃんと男子トイレに入ってくださっているんですかね。それも大変ですよね。ご同情申し上げますけど、今、皆が心配してるのは、まさにそういう公共の場のことですわ。勝訴されたこの方は人権意識も人一倍強くていらっしゃるし、そんな方なら建造物侵入の自白tweetをされても、自身を模倣されて幼女が危険に晒されることは本意ではないと思います。ですからこの方にお願いして、皆さんのために一度、積極的に捕まっていただいて、それで刑事告訴をさせていただくと世の中に対する警告になる。
三浦 この人だけじゃなく、しょっちゅうそれは逮捕されてるじゃない。YouTubeにも上がってるし、逮捕の現場とか。
小原 この方は最高裁での勝者ですから、模倣される可能性が高い。覗きでもなんでもなく、ただ女子トイレに入った瞬間っていうのがよい、と。性自認がどうであれ、また最高裁で勝訴した方であれ、ついたまんまで女性トイレに入ったら、とにかく逮捕。それが世の中の常識、っていうふうに持っていくしかない。あれ? でも捕まると、経産省クビになっちゃうのかな。せっかく勝ったのに。
三浦 今のところは、この判決もそこがストッパーにはなってるわけだけど。ただ問題は、学校とか職場とか、同じような環境の場合ですよ。その場合には、これが前例になる。例えば女子大に入学したトランスジェンダーが女子トイレを使いたいといった場合には、認めざるを得なくなりますよね。
小原 まさしく、そうですね。
三浦 で、続きいきます。
さらに、上告人が戸籍上は男性であることを認識している同僚の女性職員が上告人と同じ女性トイレを使用することに対して抱く可能性があり得る違和感・羞恥心等は、トランスジェンダーに対する理解が必ずしも十分でないことによるところが少なくないと思われるので、研修により、相当程度払拭できると考えられる。
三浦 これが問題のところですね。問題視している人、非常に多い。
小原 え。私たちが研修を受けるんですか。
三浦 ちょっとひどいと思いますね。違和感があるなら研修を受けろ、と。で、トランスジェンダーの方には研修受けろなんて言わないわけですね。でも研修受けるべきはどっちかっていうとねえ、男性であるにもかかわらず自分を女性だなどと感じている、こちらの方に認知のゆがみを直せって言う方が一般的だと思いますけど。
小原 あはは。ま、それを言ったらおしまいだっつーことでしょうね。
三浦 このトランスジェンダーこそ心理療法を受けろと、なんでそう言わないかね。それでしょ? 言うべきことは。
小原 言うべきだと思いますね。
三浦 科学に基づいて判決するべきなんだから。認知行動療法がどの程度有効であって、こういう性別違和がどの程度もとに戻るものかという統計を踏まえれば、認知行動療法でかなり治るのに、なぜそれを前提として考慮に入れないのか。
小原 不適合って言うぐらいなんだから、適合させるのが先ですよね。
三浦 なぜ女性の羞恥心は直せると思うのか? 女性の違和感、羞恥心というのは、むしろ直せないと考えるのが普通でしょ。
小原 わいせつ物陳列罪も「普通人の羞恥心を害し」とか、そういう定義だったと思います。羞恥心は矯正できるというなら、害される犯罪そのものがなくなる。
三浦 例えば、夜、小さな子供を連れている若い母親がエレベーターに乗っていて、ある階で身長二メートルの男が乗ってきたとすると、やっぱり恐怖を感じますよね。
小原 それは恐怖ですよ。肉体的な圧倒的な差で、逃げ場もなく、しかも相手が何考えてるかわかんなければ。
三浦 そうでしょ。その恐怖を抑えなさい、と。犯罪者じゃない人に、そんな恐怖を抱くのはいけませんよ、と言われたら。
小原 うーん。余計なお世話です。
三浦 それで研修受けろっていうのはおかしな話ですね。だって男性入ってきたら違和感や羞恥心を感じるってことがなかったら、性暴力に対する防御体制を解けということになりますからね。
小原 ミニスカートを履いて夜の街をチャラチャラ歩くなとか、男に声かけられてついていくなとか言うくせに、ねえ。都合のいいときだけ警戒心持つな、って言われてもね。
三浦 大問題だと思うけど、問題視されてないね。チラチラ言われてるだけで、マスコミなんかではこれまったく報道しないですよ。この部分は、かなりひどいことだと思いますよ。
小原 ひどいですね。女性たちを洗脳して、本能的な不安感を削ごうなんて。
三浦 不同意性交罪っていうのがちょうど今月、施行されたでしょ。これはイエスと言わなければノーという意味なんだっていう法律ですよ。だから同意がなければ、それでセックスしたらもう犯罪になるわけですよ。同意の意を表明していなければ。
小原 積極的にノーと言わなくとも、ノーだと解釈されるんですね。
三浦 そう、なのにこの判決は、ノーと言わないところまで研修受けろって。それでイエスと見なすって言ってる。
小原 そうですね。SFに出てくるようなディストピアか。。
三浦 これじゃあ、付き合ってるんだったら、その付き合ってる男とセックスしたくないっていうのはおかしいんだから、研修受けなさいっていうのと同じでしょ。とんでもないと思うよね。そもそもトランスジェンダーの承認欲求を認めるということに公共の利益があるかというと、まったくないわけですよ。
小原 ないですね。
三浦 ところが一方、女性が男性に対して警戒心を抱くのを尊重することには、十分な公共の利益があるんですよね。それもまったく、この判決には見えないですね。そのあたりの考慮が。ここはね大問題だと思う。もう大いに我々がここで騒がなきゃいけないんだ。
小原 たぶん、プロの裁判官として、考え抜いてはいるでしょうから、もう本当にこのこのケースに限定してるんだって強調していて、それが一般道徳とか、理解の浅い一般人にどんなふうに敷衍されちゃうとしても、それは自分たちの責任じゃない、と。
三浦 いやいや、だから、このケースに限ってはこうなんですよ、っていうのが問題なんです。このケースに限ってはこうなんです、が広がるって話です。どのケースでも、「このケースに限ってはトランスジェンダーの権利を認めましょう」っていうのがどんどん広がる。だから問題なの。
小原 職場での同僚だったら、とか、学校で一応身元が知れてる相手だったら、みたいな感じで広がるんでしょうね。
三浦 そもそも同じ。この判例、同じ判断の根拠になりますよ。
小原 最高裁の判例ですもんね。法律と同じに参照される。
三浦 だからさっきの不同意性交罪で、ノーと言わなければイエスだっていうのは、今までの男の解釈で、それでデートレイプなんかがあったわけで。今度はそれを逆にして、イエスと言わなければノーだとして女性の権利を守ろうとしてるんだよね。その風潮に対してこの理屈。女性に対して研修受けなさいっていうのは、ノーという気持ちそのものをなくしなさいっていう判決だよね。
小原 研修を受けて、特殊な状況でも受け入れるメンタルになれって、言われてるわけですよね。
三浦 イエスと言わないという態度を変えなさい、肉体的な男が女子トイレ使ってもいいですよって言いなさいってことだよね。これ、結局。
小原 そのように意識改革せよと。文革か。
三浦 そうそう、これひどいね。人の内心の自由を変えようとしている転向療法ですよ。
小原 最高裁判例が憲法違反では?
三浦 それより先に、ペニスのあるトランスジェンダー個人の性別違和を払拭できる可能性を考慮すべきだよね。
小原 日本中の女性の意識改革するより、ですね。単に頭数の問題でなくて、公共の福祉として。
上告人が自己の性自認に基づくトイレを他の女性職員と同じ条件で使用する利益を制約することを正当化することはできないと考えられる。
さらに、上告人が戸籍上は男性であることを認識している同僚の女性職員が上告人と同じ女性トイレを使用することに対して抱く可能性があり得る違和感・羞恥心等は、トランスジェンダーに対する理解が必ずしも十分でないことによるところが少なくないと思われるので、研修により、相当程度払拭できると考えられる。
上告人からカミングアウトがあり、平成21年10月に女性トイレの使用を認める要望があった以上、本件説明会の後、当面の措置として上告人の女性トイレの使用に一定の制限を設けたことはやむを得なかったとしても、経済産業省は、早期に研修を実施し、トランスジェンダーに対する理解の増進を図りつつ、かかる制限を見直すことも可能であったと思われるにもかかわらず、かかる取組をしないまま、上告人に性別適合手術を受けるよう督促することを反復するのみで、約5年が経過している。この点については、多様性を尊重する共生社会の実現に向けて職場環境を改善する取組が十分になされてきたとはいえないように思われる。
三浦 経産省は、「性別適合手術を受けろ」と言うよりは、これはむしろ、「心理療法を受けろ」という言い方をした方がよかったと思うね。性別違和っていうのはなくせますからね、はっきり言って。だって認知の歪みですから。女性らしい格好をするのやめろって言ってるわけじゃない。ところがこの上司はそれを言ってるんですよ。「性別適合手術を受けないんだったら男に戻ったらどうか」って言ってる。もう女性の服装をして出勤するのをやめろ、って、そういう意味ですよね。
小原 そういうことですね。
三浦 それは確かに暴論だと思うよね。個人の自由ですから。だからそうじゃなくて、女だと信じるのをやめろ、よく考えてみろと。あなたは別に女性らしい格好をしたからといって女性じゃありませんよと、そういう正論を言うだけで済んだと思うけど。
小原 この上司も、内心の女性性というものが存在するらしい、と説得されちゃってたんですね。男に戻れもなんも、もともと男なのに。
結論として、本件判定部分は、本件の事実関係の下では、人事院の裁量権の行使において、上告人がMtFのトランスジェンダーで戸籍上はなお男性であることを認識している女性職員が抱くかもしれない違和感羞恥心等を過大に評価し、上告人が自己の性自認に基づくトイレを他の女性職員と同じ条件で使用する利益を過少に評価しており、裁量権の逸脱があり違法として取消しを免れないと思われる。
三浦 この「過大に評価し」、「過小に評価し」、っていうのは、果たして本当にそうだったのかと。
小原 女性職員たちの異論の声が意外と小さかった、上告人の主張が以外と強かった、と言ってるだけのように聞こえますけどね。感想文かな?
三浦 女性トイレをトランスジェンダーが使えないことによる不利益と、それが使えることによる利益がそんなに大きなものかっていうのには、社会的な合意はないと思いますよね。
小原 そうですね。男性器を持ったまま女性であると主張するのは、その個人の肉体の状況からすると、両方であろうとしていることに相違ないと思います。欲張りというか、自分に欠落したものを求める、単なる個人的な嗜好ですね。
三浦 かなり特殊な嗜好なわけでね。
(第03回 前編)
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