フジテレビ
月曜21:00~
フジテレビのHPを見たら、「豪華出演者で送る(「贈る」の誤植)春の月9は、新たなヒーロー誕生!相葉雅紀さんが挑む!推理しない名探偵!」と書いてあった。「豪華出演者」にうんうんうなずく人はいるだろうが、「新たなヒーロー誕生!」には、それはどーかなーと首を傾げる人が多いのではないかと思う。ただ駄作かというとそんなこともなくて、けっこう楽しんで見ることができる。
ツッコミどころ満載というドラマは、これはこれでスリリングである。新米女探偵を演じる武井咲は、しょっちゅう音声アシストサービス・ギリ(声は仲間由紀恵)を活用するわけで、インタラクティブな指向が垣間見える。事件解決にはワイドショー的なボード解説や再現ドラマを劇中劇として挿入していて、これもまた視聴者(ドラマではその場にいる関係者ということになるが)を意識している。製作者側の人が、思いっきりツッコミながら見て欲しいドラマにしたいと考えている、ということにしましょう。
物語は相葉雅紀演じる謎の貴族探偵が、新米女探偵の武井咲と対立しながら事件を解決してゆく。ただ貴族探偵、自分で調査はせず、すべて召使いに任せるわけで、それを滝藤賢一、中山美穂、松重豊が演じている。滝藤賢一、仲代達矢の無名塾ですね。松重さんは蜷川スタジオで、さすがに安定した演技です。お二人にくらべればということですが、問題はアイドルあがりの中山美穂ということになる。
中山美穂のメイド服姿、やっぱイタイ。ただこれを逆手に取ることはできるわけで、ビミョーに年相応の落ち着いたメイド服ではなく、フリフリキラキラミニスカートののメイド服なら、演じる際のノリがぜんぜん違ってくるでしょうね。召使いの中の紅一点なら目立たなきゃソンなわけで、勘違いコスプレで召使い的抑圧と狂気の間を行ったり来たりすれば、これはオイシイ役になりますなぁ。
んで貴族探偵とタッグを組んで犯人を逮捕する役が、神奈川県警の生瀬勝久です。つみつくろう(現芸名・辰巳琢郎)座長の劇団・そとばこまちで、槍魔栗三助(やりまくりさんすけ)として知られた怪優です。関西ではだいぶ長い間、槍魔栗三助で、「探偵ナイトスクープ」にも出てたけど、上岡龍太郎の不興を買ってクビになりました。NHK出演の際に、さすがに槍魔栗三助はマズイということで、本名の生瀬勝久にしたのが上岡さんの逆鱗に触れたんですな。ただ貴族探偵、実は三助のためにあるんじゃないかっていうドラマです。
主人公の貴族探偵が自ら事件解決に乗り出さないので、ドラマのクライマックスの謎解き場面はどーしてもセットになる。再現劇中劇だから臨場感や切迫感に欠ける。それを補うツッコミが必要になるわけで、それを生瀬さんが一手に引き受けております。どこまで台本通りなのかわかりませんが、生瀬さんの演技、小劇場です。
新劇の演技は「あなた、どう思うの?」「わたしは・・・」とタメを作って台詞を言ってゆく。だけど小劇場は勢いです。「俺のショートケーキーは・・・」の途中で「イチゴちゃんなら地蔵通りにカレー食べに行った・・・」「モンサンクールで買った5日前のショートケーキはカマンベール味でイチゴは乗ってないプロバンス産のブルベリー添えだ覚えとけっ!」と、台詞を重ねて意味の飛躍の中から物語の方向性を演出してゆく。生瀬さん、一人でそれをやってるんですね。
「トリック」などでもお馴染みの生瀬さんの演技手法の一つですが、貴族探偵ではそれが目立ちすぎるくらい目立っている。ただあれがないと、貴族探偵、かなりきつい。だけどテレビで小劇場を見るのはけっこう楽しくて、デビューしたての阿部サダヲなんかマジ小劇場で、「リーガル・ハイ」の堺雅人もそうだったなぁ。テレビは基本、新劇型演技ですから、掟破りの小劇場演技をする俳優さんたちは昔の血が騒いで楽しそうなんだな。だから生瀬さんにはもっと暴れていただきたい、と。
最大の問題は主演の相葉雅紀さんと武井咲さんであります。武井さん、いい女優さんだと思いますが、ウルトラあだっぽい伝説の女探偵・井川遙の弟子で優等生という設定ですから、工夫しようがない。どんなドラマにもキレイなヒロインは必要なわけで、これはこれでOKです。んで相葉雅紀さんなのですが、事件解決後に椅子から立ち上がって手を叩きながら「ブラボー」と言うシーンがあります。これが寒い。お父さん、お母さん、同級生のみんな、僕は今とっても寒いですぅと言いたくなります。だけどそれがいいんだな。僕はこのシーンを見たさに毎回貴族探偵を見ています。
相葉さん、ちょっと目が暗い印象があって、それが陰のある貴族探偵にキャスティングされた理由なのかもしれませんが、真正面から頑張り過ぎてるかな。これだけ動きのない主人公を演じるのはかなり難しいはずで、堺雅人ならもっとスカした演技をするかもね。ただ相葉さんがどこか激しく浮いた貴族探偵を真面目に演じれば演じるほど、脇役たちの演技が過剰になって狂気をはらんでゆくわけで、これはこれで面白い。
貴族探偵は麻耶雄嵩(まやゆたか)さんの同名小説の原作があり、小説はシリーズ化されています。つまりパターンがあるわけで、ドラマでもパターンを作り上げればけっこうなヒットになる可能性はあります。ただヒーロー・ヒロインは負の焦点にならざるを得ない構造を持っているので、脇役の過剰演技というか、狂気の演技にドラマの質がかかっていると思います。意外とカルト的人気が出るかもしれないドラマであります。
田山了一
■ 麻耶雄嵩(まやゆたか)さんの本 ■
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■