日本テレビ
3月6日
月曜24:59~(4週連続放送 放送終了)
ご当地青春ドラマ、というものだそうだ。NHKでは別にめずらしくない、というかそんなんばっかやってる。しかし民放ではたしかにあまり見ないかもしれない。NHKなら順繰りに地域をめぐり、受信料の支払いをうながすことはできようが、民放の全国ネットで特定地域をクローズアップする連ドラをやる意味がないだろう。スポンサーに説明がつかないし。そうか、だからえらい深夜で4週限りなのか。
つまり回転を速めれば、全国ネットの民放でもご当地ものをやる余地はある。極端な例が、あの『秘密のケンミンSHOW』だ。すなわち4週連続放送でなら『お前はまだトチギを知らない』、『お前はもうサガを出られない』とシリーズ化することも可能かもしれない、ということか。
ここで重要なキーワードは「秘密」である。『ケンミンSHOW』では「秘密なんか、ないない」(と方言で)言うのがお約束だったが、「知られていない」、「知らない」ことがあるのだ、というのがコンセプトなのだ。この点は NHK のご当地ものと大きく違う。NHK のご当地紹介はガイドブックのもので、秘密の匂いはない。特別な地域などなくて、だから受信料は等し並なのだ。
茨城だろうが佐賀だろうが、日本に秘境など、未開の地などないことを我々は知っている。知らないふりをしたところで、各県名は小学生の頃に覚えさせられたし、名産品も見当がつく。どこも津々浦々 NHK が入るし、いつなんどき大河や朝の連ドラの舞台となるかわからない。「秘密なんか、ないない」だ。
そこにあるのが平板な、国内グローバリゼーション化された地図ならば、我々はよその土地に興味は持てない。その土地を取り上げたところで、観るのはその土地の人々しかいなくなる。スポンサーを抱えた局はできない話だ。小学生のときから知っているつもりの、あるいは実家に帰るのによく通るあそこに、自分たちの知らないことがある。そういうコンセプトは必須なのだ。
それは必須のものだが、真実でもある。どの土地もある程度、平板に均一化され、それでも均しきれないところはある。旅には旅の面白さはあるが、旅しただけではわからない部分だ。そこの最良の旅館ではなく、スーパーマーケットの片隅のコーナーに当たり前のようにある、しかし他所では決して見かけないものとか。そこではあまりにも当たり前と思われて、どんなガイドブックにも載っていない奇妙な風習とか。
しかし土地や地域社会だけではなく、我々個人もまた、そうではないか。我々は知っているはずの、知っているつもりの他者の「秘密」に関心を持つ。いわゆるゴシップだが、それはその他者への悪意ばかりでなく、認識の転換そのものへの驚きも含まれているように思う。群馬が、実はグンマだったとは、というように。
ドラマでは、他県から来た主人公がグンマの美少女(からっ風並みに気の強い上州女)への恋心を募らせる。恋愛もまた NHK 並みに、何もかも等し並にしてしまう共通言語ではある。グンマのあらゆる事物が恋愛という一般概念、グローバリゼーションに立ちはだかり、ときに転換して手助けもするのだ。
田山了一
■ 原作の井上ヒロトさんの本 ■
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■