一.ポール・ウェラー
理由不要。とにかく恰好いい。若い頃は言わずもがな、今だって。誰の話かって? 勿論、ポール・ウェラー。二十代半ばまでザ・ジャム、三十代前半までスタイル・カウンシル。華々しいキャリア。そしてベテランなのに若い。まだ五十代。加えて若々しい。「モッド・ファーザー」の称号は、駄洒落めいていてアレだけど。
自身の名前を冠したファースト・ソロアルバム「ポール・ウェラー」(’92)は、本当によく聴いた。シングルも海賊盤もゲット。肝はリズム。所謂グルーヴ。二、三十年前の枠型なのに、違和感なく腰に響いた。
前段のスタイル・カウンシルが響いたのは頭。ジャズ、ボサノヴァ、ファンク、フレンチ・ポップ等々、多様なスタイルを纏った政治色の強い歌詞、活動(労働党支持の選挙運動「レッド・ウェッジ」、炭鉱スト支援ユニット「カウンシル・コレクティヴ」)。多面的な音楽の有り様は、今もって非常に刺激的。
そして、そこに行き着くまでの成長と葛藤がザ・ジャムの魅力。しかも痛々しいほど剥き出し。分岐点は五枚目の「サウンド・アフェクツ」(’80)。ここで色濃くなるソウル/ファンク嗜好に、ポール以外のメンバーは耐えられなかった。続くラスト・アルバム「ザ・ギフト」(’82)が何よりの証拠。ぎくしゃくしたリズムがつんのめる。ただ個人的にはツボ。理想とする音楽。そこへ何とか到達しようと身悶える姿に背筋が伸びる。
ちなみにザ・ジャムの重要曲はシングルに多い。しかも結構アルバム未収。分岐点直前に発売されたシングルもそう。バンドの絶頂期を三分間に凝縮させた名曲。タイトルは「ゴーイング・アンダーグラウンド」。
そうだ、地下で呑もう。店単体より地下街がいい。フラフラできるもの。ただ都内は意外と難しい。例えば大阪。地下街「ホワイティうめだ」は、朝九時から呑める。構内の立呑み屋は、どこも扉開けっ放しに暖簾。気軽にくぐれる。素晴らしい。
都内にも呑める地下街はある。けど何かが違う。どこか構えちゃう。構えなくていいのは、やっぱり立ち食い蕎麦。有楽町「M」は帝劇の地下二階。何の縁か関西最大規模のチェーン店。梅田にもある。肴は100円台の天ぷら。そばつゆで出してくれる。しかもネギまで。オバチャン、ありがとう。ビールの栓を自分で抜けば、そこは立呑み屋。扉開けっ放しに暖簾だし。そういえば、蕎麦はまだ未経験。近いうち、必ず。
【Going Underground / The Jam】
二.Theピーズ
蕎麦、とくれば寿司。立ち食い、とくれば回転。これはすぐに閃く。地下街ではないが、滋味出しまくってる半地下店、新宿アルタ裏手の回転寿司「S」。100円&200円の明朗会計、消費税は5%をキープ。海外の御客様でいつも盛況、だけどどこか薄暗い。陰翳礼讃。
手練れのオヤジ職人たちの動きも心なしかルーズ。数年前、確かに蝦蛄を「ガレージ」と呼んでいた。昭和マナーだ。大手チェーン店が「全皿サビ抜き」に転じる中、ちゃんと鼻にツンとくる。そんな匠の技を見聞きしながら、ゆるゆると一献。一合瓶とそれより大きいコップがドン。痺れちゃう。大手チェーン店がスタジアム・ロックなら、此処は生粋のパブ・ロック。
先日仕入れた最新の職人語録は、「シャリ減らし」。以下例文。御櫃(おひつ)の米を使い切りたいオヤジが一言、「シャリ減らしには細巻きだ」。御意。
剥き出しの音色と天賦のルーズ感。日本屈指のパブ・ロック・バンドは、Theピーズ。独断上等。初期のコミカル期から楽曲は抜群だ。シンプルかつキャッチ―な旋律が詰まったデビュー盤『グレイテストヒッツ VOL.1』と『VOL.2』(’89)の二枚は、全ソングライター必聴の優秀なテキスト。ただ、歌詞がグッと重くなってからの滋味/凄味のテキストはない。そう、学べない。冷静に逡巡を繰り返す感受性+それを言語化する技術。いや、多分それでは足りない。きっと考え過ぎ。彼等の歌うとおり、脳ミソは「半分で充分」。
さあ、まずは聴いてみよう。何度でも興奮するのは、20秒過ぎの咆哮。言葉を越えるハウリング。
【脳ミソ / Theピーズ】
三.ヴェルヴェット・アンダーグラウンド
アンダーグラウンドといえば、外せないのがベルベッツ。女優/モデルのニコを迎えての有名すぎるデビュー盤『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』(’67)は不気味だった。特に前半。一曲目は甘く蕩けそうな「Sunday Morning」。感想は「!?」。ヴィオラの音に塗れた「Venus in Furs」や、呪術的な「All Tomorrow’s Parties」も「!?」。シンプルなロックンロールも、どこか焦点がズレていて不穏に響く。喩えるならピエロ恐怖症。感情が読み取れないから怖い。いっそ攻撃的であってほしい。そんな感じ。
でも聴いちゃう。怖いもの見たさ/聴きたさ。静と動の大胆な振り幅、そしてそれをも包み込む不気味さが魅力。唯一、最初から気に入ったのは後半一曲目の「Heroin」。声の熱気とスピードの同期が生々しく、ぶっ飛んじゃったヒトみたい。
さあ、最後は地下商店街へ。神田、銀座が引退し、日本最古になっちまった浅草地下街。寿司屋、立呑み、タイ料理、ラーメン屋、DVD売り、占い館等々、とにかく雑多。それを全部包み込むのは歴史。伊達に還暦越えてない。
剥き出しの天井配線を見上げながら、焼きそば屋「F」へ。青のりにマヨネーズ少々。レモンハイと同額の350円。嗚呼、贅沢。長っ尻は野暮。ちょいと先の居酒屋「T」へ。クールなママさんに御挨拶。カウンターのみ五、六席。話は筒抜け。若輩はおとなしく耳を傾ける。隣り合った姐さんは長唄の師匠。威勢のいい語り口をBGMに、熱燗と肉豆腐。すき焼き風で旨い。ほっと一息。この界隈、まったく構えなくていい。
帰りは八番出口から。階段を昇れば吾妻橋交差点。さすが浅草、地上にも店が沢山。あと少し、ぶっ飛ばない程度に呑んでいこう。
【Heroin / The Velvet Underground】
寅間心閑
* 『寅間心閑の肴的音楽評』は毎月10日掲載です。
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