大篠夏彦さんの文芸誌時評『文芸5誌』『No.101 文學界 2016年06月号』をアップしましたぁ。中村文則さんの『私の消滅』を取り上げておられます。社会のダークな側面を描くのが得意な作家さんです。しかし意外と面白く読めたりもします。ダークなんですが、ポップな感じもする作品をお書きになる作家さんなんですね。このあたりが中村作品が、テーマの重さや暗さに関わらずよく読まれている理由ではないかと思います。
この予定調和的な物語展開はノワール・ロマンとしては優れたものである。小説を読む楽しみの内には、恐怖や不快感を得ることも含まれるからである。しかし予定調和は一つのパターンとなってしまう危険性がある。
作品がさらに優れた純文学であるためには、精神分析を目的としてではなく、手段として活用する必要があると思う。小塚という精神科医は実質的に全能の神だが、〝私〟を消しても苦悩から逃れられるわけではない。精神分析の手法と言葉の重要性が相対的に軽くなったとき、中村氏の小説はさらに優れた純文学の輝きを得るのではないだろうか。
(大篠夏彦)
『私の消滅』は精神分析学を駆使した作品ですが、確かにその知識が目的とかぶってしまっているといふ面があるかな。作家には様々なタイプがあって、たいていはその資質と表現ジャンルが結びついています。ホラーやサスペンスを書く作家は、やっぱり何か暗いものを抱えている方が多いと思います。ただその深度と迫り方が最後には問われます。
古典的なことを言えば江戸川乱歩は推理・サスペンス小説の大家で、少年小説から成人向けまで膨大な作品を書いた大衆作家です。ただ彼の暗さはちょっと尋常ではなかったといふ雰囲気が漂います。それは必ず読者に伝わります。中村さんの作品のダークなポップさは大変な強みで、今の本が売れない状況には必要不可欠でもありますが、それが〝極端〟にまで達して表現されれば、さらに優れた作家と認知されるでしょうね。
■ 大篠夏彦 文芸誌時評 『No.101 文學界 2016年06月号』 ■
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