山田隆道さんの連載小説『家を看取る日』(第13回)をアップしましたぁ。今回から話者が奥さんの亜由美になります。山田さんの『家を看取る日』は、1人称2視点小説なのであります。ただ一つであるはずの現実世界を、2人の人間の視点(心象)から捉える小説の書き方です。ほんで現実といふものは、見る人によって実に曖昧なものです。様々な形で行動や発言が解釈できてしまふ。
私はガレージに向かう新一を呼び止めた。
「ねえ、どこ行くの?」
「ちょっと挨拶回り」新一は小声で答える。
「もしかして、お義父さんの会社関係?」
「ちゃうちゃう。まだ正式には決まってへんし」
「そうだよね……」
すると、前方から義父の声が聞こえた。「はよせい!」義父の険しい顔を見た途端、新一は焦ったような顔で「はい!」と返事をして小走りする。
その瞬間、私は思わず目をつむった。小さく息を吐く。
また手のひらがかゆくなってきた。たまらず爪でかきむしると、手のひらの皮がずるずる剥けていく感触があった。かゆみが痛みに変わっていく。
父親の葬儀会社を継ぐのは、新一にとっては子どもの学費を捻出するための苦渋の選択ですが、それが妻の亜由美さんにとっては、新一が節を折ったように見えてしまふ。捉え方によっては〝目出度し〟といふ選択なのですが、新一・亜由美夫婦にとってはそうはなっておりません。そこに夫婦の機微といふものがあり、家といふものの難しさが潜んでおります。いずれにせよ栗山家、そーとーな危機でふ。『家を看取る日』から目が離せなくなってまいりました。
■ 金魚屋新人賞(辻原登小説奨励賞・文学金魚奨励賞共通)は3月31日〆切です ■
金魚屋では21世紀の文学界を担う新たな才能を求めています。
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■ 山田隆道 連載小説 『家を看取る日』(第13回) pdf版 ■
■ 山田隆道 連載小説 『家を看取る日』(第13回) テキスト版 ■