露津まりいさんの連載サスペンス小説『香獣』(第19回)をアップしましたぁ。伊豆の温泉宿に緊急避難した芙蓉子ですが、危機はまだ去っていないようです。
「小野寺さんじゃないか」
そう叫んでいた深雪の父の姿がふいに浮かんだ。(中略)
トップが捕まっただけで助かった。
糟谷はそう言った。確かに芙蓉子は、深雪の両親に面が割れている。深雪の父親はその芙蓉子を指差し、小野寺こと蓬寺と来たのか、と叫んだのだ。それはすなわち深雪の両親に、芙蓉子がこっそり蓬寺を会わせたことを示す。
新米とはいえトップがそれを聞き落とし、糟谷に報告してない、ということがあり得るだろうか。
少なくとも大西の手の者らが、それに気づかなかったはずはない。
トミタに寝返り、銀行に仇を為した蓬寺という男と繋がっている女。
大西一派がトップを締め上げたなら、総会にいたその女が糟谷事務所の芙蓉子だと知れても不思議はない。仮にトップの口が堅かったにせよ、株主総会に女の数は少ない。名簿から割り出して一人ずつ当たれば、見当はつきそうなものだった。(中略)
糟谷は芙蓉子を誘き寄せようと、何ら含むところのない振りをしているのだ。そうでなくとも大西の手の者は芙蓉子に関して探っている。ならば、それに気づかぬ糟谷でもあるまい。
恐らく事故をよそおった殺人事件が起こっているのですが、その秘密を探る芙蓉子たちの間では熾烈な駆け引きが行われています。暴力をともなわない知的な駆け引きなのですが、それが経済小説でもある『香獣』にはよく合っています。ただ静かな知的闘争だけでは済みそうにないですね。なにせ〝獣〟がタイトルに入っているのですから。静かな知的駆け引きをどんなふうに野性的な獣が破るのか、続きが楽しみでありますぅ。
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■ 露津まりい 連載サスペンス小説『香獣』(第19回) テキスト版 ■