露津まりいさんの連載サスペンス小説『香獣』(第18回)をアップしましたぁ。緊迫した展開になってまひりました。主人公のシナリオ通りに運ばないのも、サスペンス小説の醍醐味だなぁ。
「あんた、小野寺さんじゃないか」
深雪の父親は蓬寺を指差すと、椅子を跨いで通路まで出た。
「なんで、違う名前で。あんたも知ってるはずじゃないか、桑林には、うちの娘を殺したい動機があるって。なぜそれを黙ってるんだ。いったい何を遠慮して、」
「指名を受けていない方は、戻ってもらいましょうか」
もはや騒ぎになっていると言えた。形ばかりのネクタイを締めた大西の手の者、四、五人が深雪の父を取り囲んだ。腕を掴み、背中を押して席に戻すふりをしながら、暴れて拒むのを口実に通路を素通りし、外へ連れ出そうとする
と、芙蓉子は視線を逸らすのが遅れた。
「あん、た、は」
一瞬目が合った父親の声が、天井まで響き渡った。
芙蓉子は席を立った。
「佐藤田さんじゃないか」
深雪の父は叫び、大西一派の男らも振り向いた。
人間社会では危機に陥った時に、その人やその人を取り巻く人間関係の本質が露わになることがあります。特に大人になってからの仕事上の付き合いや友人関係では、相手の本質が見えにくいのが常です。いっしょにハードな仕事をしてみたり、苦しい状況に立たされた時に、ガラガラと何かが崩れてその人の本質が明らかになるのですね。そういう意味では危機的状況はサスペンス小説必須の要素です。緊迫の株主総会の事後譚は次回に続くのでしたぁ。
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■ 露津まりい 連載サスペンス小説『香獣』(第18回) テキスト版 ■