噂の!東京マガジン
TBS
日曜 13:00~
我々のような活字人間にも親和性がある。だてに長年「マガジン」の名を冠してはいない。観ていて落ち着ける、数少ない番組だ。そして、誰もが知っている名物コーナーが三つもある。
まず「今週の中吊り大賞」。電車の雑誌中吊り広告から目につく、気になるものをチェック、その中身を紹介する。確かに内容いかんに関わらず、ミョーに気になる記事のタイトルって、あるものだ。たまたま目にして、そう思ったものがドンピシャで取り上げられていると嬉しい。そしてそういう中吊り広告というのも、やはりエディトリアル・デザイン、編集力によるのだから、表彰するのは正しい。
そしてかの有名な「平成の常識・やって!TRY」。娘が、あるいは自分が、キッチンでひどい代物を拵えたときなど、もし街中で「やって!TRY」のスタッフに遭遇したら、ということが頭を掠めたと、津々浦々で言われる。そのためか、遊びくるっている最中の女の子たちがふんづかまって「揚げ出し豆腐を作れ」などと命じられても、どこか諦念の面持ちで「楽勝!」と開き直る。それが、ついに来たか、という覚悟からなら、まさしく国民的コーナーと呼ぶべきだろう。
そしてもちろん本当に無茶なのは、二目と見られぬ揚げ出し豆腐を作ることではなく、海水浴場で水着姿の彼女たちにいきなりそんなことを言い出す方に決まっている。だから男女平等はおいておくとして、男の子にムチャクチャな四字熟語を習字させる「やって!TRY」は、やっぱり女の子に料理させるほどには面白くない。
三つ目は、「◯◯が見に行く噂の現場」。多くはローカルな、しかし地域ではそれなりのトラブルの現場を取材、裏の裏まで実態を暴く、というコンセプトだ。地方だからこそ、既成の勢力によって押し込められていた矛盾や理不尽が明らかになると、“ 日本 ” というものの構造が存外、はっきり見えてくる。
金魚屋の著者のお一人が地方に旅行して、その地の美術館を見物していたとき、一人の男性が話しかけてこられた。ボランティアの絵画のガイドで、その腕章を付けている。どこかで見た顔で「もしかして、T運輸にお勤めの方では」とお尋ねしたら、やはりそうだったという。地元のT運輸は有力な国会議員とも関わりが深い。その組織内部の不正を暴き、十数年も閑職に追いやられ、休日は美術館のボランティアをしているその人のことを「◯◯が見に行く噂の現場」でご覧になっていたのだそうだ。「ご立派ですわ」と、その場でおっしゃったとのことだが、もしかすると東京の者とわかっていて話しかけられたのでは、ということだった。
「噂の!東京マガジン」は、まさしく東京的なるものだ。地方に出かけて、ああ東京に戻ってきた、と思うのは、電車の中吊りを目にしたときだ。出版業はまさしく東京の地場産業である。そんな東京目線からすれば明白な正義に違いなくても、地元の人々は言葉を濁すしかない、ということもあるだろう。「噂の現場」に情報を寄せる地方の現場の人々は、その東京目線に晒されることを求めている。それが必ずしも普遍的な「正義」として通るわけではないことも、十分に承知しながら。
田山了一
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■