緑川信夫さんの連載映画批評『難解映画を読み解く』『No.003 『鏡』 その3』をアップしましたぁ。アンドレイ・タルコフスキー監督作品『鏡』の読解も今回で終了であります。緑川さんは意図的にそうされたのだと思いますが、ロードショーレビューとも、映像と音とテキストの集合体に落としどころを設定する映画批評とも異なる方法で、『鏡』を読み解いておられます。タルコフスキー監督の作家性とともに、映画に限定されない創作の可能性のようなものが読解されているように感じました。
タルコフスキー作品は難解ですが、別に難しい哲学を表現しようとしたわけではありません。またとりとめがないようでタルコフスキー作品には世界観があります。部分を詳細に検討しても作品の意図は読み解けないのに、作品そのものはまとまっているのです。タルコフスキー監督は「世界を」「映画そのものの」として表現しようとしているという緑川さんの読解は、そういう特徴を示しています。世界は時に矛盾しながら変わり続けていますが、そのような世界そのもののありようがタルコフスキー作品では表現されています。彼は古いロシアの大地に根付いた表現者で、また激動のソビエト革命後の社会を生きた監督であります。
緑川さんは引き続きタルコフスキー監督作品『ストーカー』を読解される予定です。ストルガッキー兄弟による同名のSF小説が原作の映画です。原作がある映画は、たいていの場合、原作を読むとがっかりすることが多いのですが、『ストーカー』は別です。タルコフスキー監督は小説原作の枠組みを借りて、独自の世界を映画で作り上げています。ストルガッキー兄弟の小説『ストーカー』も傑作だと思いますが、映画を見てから原作を読まれても楽しいと思います。似て非なる世界が2つの作品で展開されています。
ところで5月16日に俳人の加藤郁乎さんがお亡くなりになりました。享年83歳でした。前衛俳句の巨人がまた一人この世を去られました。さみしいことです。代表作を少し掲載しておきます。
冬の波冬の波止場に来て返す
昼顔の見えるひるすぎポルトガル
一満月一韃靼の一楕円
切株やあるくぎんなんぎんなんのよる
天文や大食(タージ)の天の鷹を馴らし
伸びやかでなんともいえない余韻の残る俳句を書いた方でした。郁乎さんの俳句を読んだことがある方ならおわかりでしょうが、ある「天才」(天与としかいいようのない才能)をはっきりと感じさせた希有の人でした。ご冥福をお祈りします。