金魚さん(齋藤都代表)の文芸誌時評の総論『エソラ(esora)とは』をアップしましたぁ。金魚さんが「ムック形態の雑誌は珍しくない」と書いておられるように、文芸誌に限らずかなりあると思います。ムック本が出版される大きな理由は出版コードでしょうねぇ。単行本と雑誌ではコードが違うのであります。雑誌はできあがると全国の書店さんにまいて、1週間や1ヶ月単位で販売し、売れ残りを回収します。かなり売れるという前提ぢゃないと、これはできないといふか、やる意味がありません。
雑誌の場合、本屋さんに配本して返品されてきた商品は、傷んでいるものも多いですからかなりの数が廃棄(裁断)されます。少しは出版社が在庫として抱えて注文販売しますが、古い雑誌を欲しがる読者の数はやはり少ないです。それに倉庫代もかかりますから、ビジネスチャンスは配本の時の一回だけといっていいでしょうね。雑誌は大量に売れれば儲けは大きいですが、それなりに無駄も多いわけです。ムック本は基本単行本コードですから書籍扱いができます。売れ部数は減りますが、少なくとも配本と回収コストは軽減できるわけです。
出版業界の端っこにぶら下がっている一人として、僕は電子書籍時代の出版形態がど~なるのか、ちょいと興味を持って眺めているんですが、なかなかはっきりとしたトレンドは生まれませんねぇ。スマホやタブレット、専用リーダーは何種類も発売されていて、「電子書籍の時代が来るっ!」と叫ばれていますが、今のところ業界のかけ声の方が大きい感じです。デバイス(電子書籍のリーダー)の発売元はメーカーですが、コンテンツ提供者は従来型の出版社です。両者にはまだ温度差があります。メーカー側はソフトは基本的に出版社のコンテンツに依存せざるを得ないわけですが、出版社側が紙と電子媒体の出版戦略をまだはっきりさせられていない。
乱暴に考えれば、アメリカでそうなっているように、一週間、一ヶ月単位で消費される雑誌やすぐに情報が古びてしまうトレンド本は電子雑誌、何度も読み返される可能性があり、かつ読者の物理的所有欲を起こさせるような本は紙という区分けになるはずですが、その区分けがまだはっきりしていません。出版社は雑誌と本の中間的形態のムックという形態を持っており、さらにその上に電子本が加わっても、従来のラインナップをどう改編していいのか、まだわかっていないということかもしれません。
この区分けは出版社側がある程度本格的にラインナップを見直して、初めて少し形になるんでしょうねぇ。またそれは単に既存商品を電子書籍に転換するのでなく、電子書籍向けのコンテンツを出版社が新たに作らなければ、商業的な成功は難しいと思います。金魚屋はもちろんその先駆けの1つの試みであるわけです。当初から電子媒体でのコンテンツ発信を試み、紙媒体を従来型とは少し異なる定義で出版するという方針や戦略がなければ、電子ブック時代の『本』の形態は見えてこないように思います。