山田くんと7人の魔女
フジテレビ
土曜23時10分~
筆頭スポンサーの日産自動車による「NISSAN ドラマ in ドラマ」と称するコラボレーション・コマーシャル(インフォマーシャルというらしい)が展開されている。この枠の「高校入試」、「カラマーゾフの兄弟」などでもあったようだが、このドラマにはとりわけハマっている。
ハマっているというのは、本編か CM か、よく区別がつかない。本編の出来やら重みやらが CM のレベルとあんまし変わらないということで、そんなもんでいいんじゃないかと思う。少なくともコラボレーションについては、これまでになく成功しているのではないか。
CM が本編のパロディにしか見えないというのは、ドラマには水を差し、広告も本編の陰に隠れてしまう。従来通り、CM タイムになったとたん、まったく違う世界が始まるという方が、まだしも広告の印象は残る。今回についてはしかし別に、本編の方が日産の広告のパロディになっているということではない。ただ、この本編は CM をはじめ、アプリなりゲームなりネット情報なりをさまざまに取り込み、あるいは取り込んでゆくことがドラマのテーマとなり得るものになっている。
私立・朱雀高校には7人の魔女がいる。それぞれ他人と中身が入れ替わる能力、人を虜にする能力などを持ち、それらの魔力は相手とキスすることで発揮される。主人公の問題児、山田竜(山本裕典)は、キスすることで相手の持つ能力をコピーするという能力を有する。ただし保てる能力は一つだけで、別の相手とキスすると、前の能力は上書きされて消えてしまう。
プロットからわかるように、ここに主としてあるのはストーリーでなく、ゲームとそのルールである。もちろんゲームには多く、その進行を管理するドライブとして、ストーリーが援用されている。高校という場の設定と、キスという人間関係性を象徴するポイントのルールによって、このゲームは任意の場所で情緒的なカラーを帯びることができる。つまりは適宜ドラマとして振る舞うことが可能だ、ということだ。
公式サイトで提供されているアプリにも、視聴者が登場人物として「入れ替わる」といったものがあり、集団的なロールプレイング・ゲームのイベントとして、ワンクールのドラマがある、と見なすことができる。
それらゲームの一環として「NISSAN ドラマinドラマ」のSEASON4「バカリくんと7人の美女」もある。過去の作品に引き続いて出演するバカリズムの「バカリくん」が 7人の美女の中から最終話でだれとキスするか。各話ごとに登場する美女の中から総選挙で選ばれる、別のゲームもまた公式サイトで展開される。
こういったことが表層的でつまらない、と言うのは簡単だ。けれども私たちの日々の営為というものは、果たしてどれほど深層的で「人間的」なものなのか。恋愛ですら、たいていは与えられたイメージをあるべきものとして「コピー」する恋愛幻想に過ぎず、それは人間ドラマとか文学に対する幻想と変わるところがない。私たちが70%ほどのエネルギーと時間を費やしているビジネスこそ、たとえば自動車の売上げを競うといったゲームに他ならない。
山際恭子
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■