寅間心閑 連載小説『ど、泥卍』(第05回)をアップしましたぁ。店を閉じたばかりのマスターを元気づけるのは難しいですね。どうしたって実質的な「お別れ会」になる。「また店出せよ」「腕はいいんだから」――励ましのつもりの言葉が男の心に突き刺さります。その温度差が怒りを押し殺した号泣になる。切ないですね。
家に帰る途中、恋人・琴絵の声を聞きたくなるのですが、それを拒む男の葛藤がある。優しさに触れれば楽になれるのですがあえて「胸の奥のひんやり」を保とうとします。安易な慰めは停滞への入り口だという直感が枯葉を踏む足音とともに響いてきます。
翌朝、留守電から折り返した稲垣さんとの会話では、独居老人の食事係という思いがけない仕事の話が舞い込みます。気乗りがしないのですが、「話だけは聞いてみる」という小さな一歩を踏み出す姿にわずかな変化の兆しが見えます。
そして琴絵について巡らせる考察――彼女の「乏しさ」にこそ惹かれているのではないかという自己分析は、この物語全体の陰影を深める重要な視点です。思い出せなかった保留音の正体が「くるみ割り人形」だったという最後の一文にも、埃が晴れていくような小さな解放感が漂います。
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