遠藤徹 連載小説『ビューチーコンテストオ!』(第10回・最終回)をアップしましたぁ。今回はいよいよ「九、審判(後編)」の最終回です。
稗田亜礼の語りによって「パリスの審判」としての役割を担わされた針巣一郎が、ついに舞台に立ちます。今回最大の見せ場はなんといっても一郎の口から溢れ出す圧倒的な「美の列挙」です。
「みなさん、どうか考えてみてください。ビューティーとは、美とは果たしてなんなのでしょう?
実はそれは森羅万象のもうひとつの名前にすぎないのではないでしょうか? 夕日の美しさ、満開の花の美しさ、満月の日の夜空の美しさ。凪の海の、羊が草食む丘の、少女が微笑む姿の、猫がうずくまる姿の、苔むした石が転がっている情景の、笑いこぼれる赤ん坊の、天高く登っていく歌声の、湯気を立てるできたての料理の、風になびく万国旗の、磨き上げられた鍋の、収穫されたばかりの果実の、あふれる涙の、挽き立てのコーヒーの、父の背中の、古びたドアノブの、コンクリートの隙間に咲いた雑草の花びらの、夜更けの路地裏の、夜明け前の路地裏の、朝焼けの路地裏の、どこかから聞こえてくるすすり泣きの、アジアの国で遭遇した物乞いをする子供の澄んだ目の、それと重なるように思い出される厩舎のなかの馬の目の、馬の毛の艶の、跳ねる水滴の軌跡の、砂浜に残された足跡の、丹精込めて作られた耳飾りの、大好きな映画の一シーンの、いまでも夢に見るあの懐かしい味の、今日こそ告白しようと待っている若者のはりつめた表情の、順位に関係なく最後まで走り抜いたランナーの荒い息の、自分を屠畜する作業員を見つめる従順な牛の、その額に電極を押し当てる作業員のきゅっと結ばれた唇の、皮を剥がれて吊された肉の塊の、死期を悟ってその場にうずくまる象の、あふれんばかりに空を覆う山上の星々の、そこからはらりと落ちる流れ星の、それを見つけてあわてて祈る人々の、病床で微笑むあの人の、その人を包む清潔なシーツや布団の、ベッド脇で明滅するモニターの、折りに触れて水を掛けて掃除する墓石の、墓石の脇にかってに花開いた曼珠沙華の、場違いな場所で響くコーランの詠唱の、つまづいて転ぶ人の体の動きの、水面に跳ねる魚の鰭の鋭さの、その魚を追う巨大魚の鱗のきらめきの、華麗なシュートの、鮮やかなダンクの、百五十キロを越える送球の、それを打ち返すバットのしなりの、その瞬間に湧くスタンドの熱狂の、倦むことなく時を刻みつづける時計の針の、その音に耳を澄ます夜更けの時間の、夜の内に壁に残された鮮やかな色彩のグラフィティの、大道芸人の命がけの跳躍の、恋人たちが初めて手をつなぐ瞬間のためらいの、冬の朝に呼吸とともにたちあがる白い霧の、踏みしめられた霜柱が立てる音の、あるいはそれを踏んだときの足裏の感触の、夏空にどんどん膨れあがる入道雲の、幾度も口ずさんでしまうあのメロディーの、あの歌詞の、その声の、その唇の動きの、それが呼び覚ます記憶の、たまたま開いたページに見つけた洒落たフレーズの、窓外に降る雨をじっと見つめている室内犬の、おろしたての靴を履いて歩き出す瞬間の、誰かに呼ばれて振り返る瞬間の、いらだちで殴りつづけてへこんでしまったロッカーの、そのために血が出てしまった指の関節の、その血を舐める舌先の、その目に浮かぶ涙の、その目がみつめる夜明けの太陽の、ゴミ箱を漁る烏の群れの、その烏の羽の艶やかさの、烏たちを追い立てる主婦の怒号の、その光景を静かに見つめる路上に座り込んだホームレスの、あらゆる人間的葛藤と無関係に明滅する信号の、信号に従って滑らかに流れる車の列の、その道路の中央に聳える銀杏並木の、銀杏のにおい立ちこめる秋の朝の、ビニール袋片手に銀杏を拾う人たちの、集団で帰巣する鳥の群れのざわめきの、書き損じてくしゃくしゃに丸められた紙の、そこに記された達筆な文字たちの、壊れかけて明滅を繰り返す蛍光灯の、街灯の下にうずくまる移民の家族の、ひび割れたスマートフォンのガラスの、砂場に築かれた巨大な城の、それを黙って蹴り崩す足の、ポケットに入れられた手の、流れ落ちる滝の、滝の音の、跳ねるしぶきの、岩に張り付く苔の緑の、水滴に濡れた蜘蛛の巣の、そこにぶら下がる干からびた蝶の死骸の、耳に注がれるやさしいささやきの、燃え上がる炎の、蟻の行列の、運ばれていく果実のかけらの、蟻まみれになった死にかけた蝉の、風に舞い散る桜の花びらの・・・」
遠藤徹『ビューチーコンテストオ!』
この一郎の言葉の奔流はまだ続きます。この言語能力は凄まじい。これだけの言語力を持った作家はまず遠藤さん以外にいないでしょうね。遠藤さん、非常に優れた作家です。たくさん本をお出しになっていますが、金魚屋刊の『幸福のゾンビ ゾンビ短編集』も是非お読みください。バラバラの短編ではありません。最後まで読むと背筋が凍りつきます。本物のホラーを経験したい方必読です。オバケとかゾンビのおどろおどろしさではなく、人間とゾンビについて考え抜いた作家のホラーなのです。
■遠藤徹 連載小説『ビューチーコンテストオ!』(第10回 最終回)縦書版■
■遠藤徹 連載小説『ビューチーコンテストオ!』(第10回 最終回)横書版■
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