シングルマザーズ
NHK総合 火曜 22時~
テレビドラマというのは何なんだろう。そんなに難しく考えるもんじゃないのは、わかっている。が、テレビがあるからスケジュールを埋めているのか、面白いコンテンツだからテレビを介して広めているのか。建前は後者で実際には前者、結局は常に同じことだ。
NHK のドラマ10シリーズの一作「シングルマザーズ」は、そう悪いドラマではないと思う。少なくとも、すごく啓蒙的ではある。子供を抱えて働かなくてはならない女性がいかに大変か、というのはよくわかった。「働かなくてはならない」なんて甘えてる、と今まではどこかで思っていた。みんな働いてるんだし、子供がいるから働く意欲もわくんだろ、ぐらいに。だけど大変なのは「働かなくてはならない」ことではなく、「身動きとれず、働けない」ことらしい。
そこは勉強になっちゃったんだけど、結局ドラマは児童扶養手当削減の反対運動のために頑張る、みたいなとこに来て、やっぱりドラマとしてはついて行けなくなった感が、やや。
必要な運動だってのはよくわかったし、それをするシングルマザーたちは偉いと思う。実話だそうだから、実在のその人たちを支援したい。まあ、クソの役にも立たない娯楽だらけの世の中で、そういうふうに思わせるだけでも、「すごい、いいドラマ」なんだろう。
だけど。だけどドラマってのは、そういうものだったっけ。
ドラマは、主人公の直(沢口靖子)が夫の DV に苦しみ、子供を連れて家を出ることから始まる。自分のワガママで別れたわけではない、という十分な「説明」になっている。うん、同情できる。彼女は悪くない。100%悪者は夫だ。だけどそれなら、もし主人公がワガママだったら、弱くて悪いところがあったら、ドラマとしてだめなわけ?
DV と言えば、同じ NHK ドラマ10に「カレ、夫、男友達」というのがあって、夫であるユースケ・サンタマリアの DV の悲しい怖ろしさ、それからなぜか逃げられない妻、木村多江の姿が忘れられない。ついには二人は心中を図って失敗するが、記憶を失った夫に、妻は泣き崩れる。愛とは不思議なもの、そして人間とはそういうものではないか。
「カレ、夫、男友達」は江國香織の原作であり、主役の真木よう子はかくべつ魅力的で、妹役の夏帆の演技も素晴らしかった。一方で、NHKのその直後の時間帯に放送されていた「ビター・シュガー」は、主演のりょうが気の毒になるほどのひどい脚本だった。同じNHK で女性ターゲットの作品を二つ並べられ、あらためてドラマは “ ホン ” であり、コンセプトだと実感したと記憶している。
「カレ、夫、男友達」では若い女に夫を奪われ、悟ったような風変わりな反応を示す、複雑で爽やかな女性を高畑淳子が好演していた。「シングルマザーズ」での高畑淳子は、非の打ち所がないシングルマザーを応援する、非の打ち所がない好人物だ。どちらもテレビドラマだ、と言うしかないだろう。
山際恭子
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■