営業部長 吉良奈津子

フジテレビ

木曜 22:00~(放送終了)

no-142_tv%e3%83%89%e3%83%a9%e3%83%9e%e6%89%b9%e8%a9%95_01

 

 

 これはいったいリアリティがあるんだろうか、ないんだろうかと考えてしまう。育休明けてのワーキングマザーのディテールはよく取材してあると思う。が、そのリアリティに期待した視聴者にとっては、松嶋菜々子演じる主人公の恵まれた状況に共感できないらしい、という話が伝わっている。

 

 ただ果たして、そういうことなのだろうか。自信たっぷりのクリエイティブ・ディレクターだったキャリアウーマンが育休をとり、このような場合に一般的に考えられるありとあらゆるトラブルに遭遇しながら、経験のない営業部長職として職場復帰する。その営業部には種々の難題があり、女主人公は自信を失いながらもその仕事に意義を見い出し、成長してゆくという物語だ。

 

 つまりビルディングス・ロマン。ここで成長するのは子供ではなく、つまり子供が成長するのは当たり前なので、問題にされているのは母親の方だ。最初からこのコンセプトが引っかからないか。子育ても仕事も経験なので、経験を積めばいわゆる成長するのは、そっちが当たり前だ。少なくとも子供の成長よりドラマチックなはずはなく、声高に成長を強調されると、なんだかなーなのである。

 

 客観的に言うと、そのメッセージに誰が感動するのか、と考えるところだ。職場の仲間を守り、彼らもまた家族のように主人公を思い、という最終回での光景に、誰がリアリティを感じるのか。仕事での一致団結、達成感、戦友としての信頼、といったものがすべて絵に描いた餅だというのではないが。

 

 そういうものは存在するけれども、条件付きではないか。仕事を介した付き合いは、無条件の友情を生まない。誰もが自分の事情や家庭を抱えているのであり、同僚であっても互いの労力コストを取り引きし合う関係だからだ。だからこそ相手のことが骨の髄まで見通せもする。逆に言えば、そこでの信頼関係はかなりの客観評価に基づくもので、将来的に幻滅をともなうことは考えにくい。

 

 山あり谷ありを経たのちということであったとしても、女主人公の同僚たちへの評価はやはり子供じみた感情に彩られている。ドラマチックであるためにはそれが欠かせない、ということなら、ビジネスを描く現代社会ものはやめた方がいい。子供っぽい女が営業部長になることは現実にも起こり得るが、それは単なるバグ、システム・エラーに過ぎない。エラーはわざわざ描く必要がない。

 

 これは個人的な好みだが、以前から松嶋菜々子という女優さんのどこがいいのかわからない。主演作品もたまたまだろうが、ひどくつまらないものばかりに思える。俳優も制作メンバーであり、評価が高いのは人間的な魅力もあるのだろうが、ただ観ているかぎり日本人の平均をとった非の打ちどころのなさ、みたいに映る。

 

 それでだけど、この作品については、その凡庸さみたいなものが平均的なワーキングマザーのリアリティを演出しているのかな、と思える。亭主が浮気を謝るとき、「やってはいない」、ただ心が揺れたのを本当にゴメン、と言う。それで済ませる浅薄さはドラマチックではないが、確かに平均的な妻ではある、と納得する。

山際恭子

 

 

 

 

■ 脚本・井上由美子さんの本 ■

パンドラ(上) (幻冬舎文庫) 緊急取調室2

 

 

■ 予測できない天災に備えておきませうね ■