偏態パズル_第61回_cover_01偏った態度なのか、はたまた単なる変態か(笑)。男と女の性別も、恋愛も、セックスも、人間が排出するアノ匂いと音と光景で語られ、ひしめき合い、混じり合うアレに人間の存在は分解され、混沌の中からパズルのように何かが生み出されるまったく新しいタイプの物語。

論理学者にして気鋭の小説家、三浦俊彦による待望の新連載小説!。

by 三浦俊彦

 

 

 

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■野外ライブの仮設和式トイレはもちろん袖村茂明体質の格好の実装現場となる。鍵の壊れた個室を開けた瞬間に黄髪の大柄少女の日焼けしたキャミソールの背中が視界に輝き、日焼け洩れした巨白尻の割れ目からぽろん、ぽろん、ぼろぼろぼろんと便秘の小片が矢継ぎ早に転げ落ちているのが見えた。安っぽいプラスチックの便器底にぶつかるボコ、ボコ、ポコポコポコ的衝突音が小片落下風景に取り返しのつかない滑稽味を添えまくってしまっていた。袖村が(またかよ……)惰性的に戸惑って、黄髪少女に恥をかかせぬようそーっと音を立てずに閉めようとしたとき――ちょうど罅だらけの巨塊、ポロポロサイズ塊が十数個結合した大物がひくひくと肛門の中にすぼみ戻りかかり、ポロッと一瞬突出部三分の一が尻毛を薙ぎ揺らしながら割れて落ちかけたところだったが――ハッと少女は振り向き、「あっ」と見合わせたところで袖村は「失礼」とドアを閉めたのだが、しばらくして出てきた少女は平べったい目鼻口の輪郭鮮明な顔面を気恥ずかしげにゆるめて袖村に

 「ケツ見られちまったー」

 と照れ隠し的呟きを残したのだった。そのあとライブ会場で袖村は、人がユラユラ移動しまくり入り乱れる中でもちろん申し合わせたわけでもないのにその少女と優に八回出くわし、そのたびに少女は「あ」とわざわざ記憶を新たにするような新鮮なリアクションをしたのだった。八回とも奥歯と喉チンコ丸出しの大口開き半笑顔であった。

 しかも八回目のときは袖村と視線が合ったとたん少女は「あ」ではなく「ケツ……!」と大声を発し自らビックリしたように口を押さえたのだった。

 

偏態パズル_第61回_01

 

 物質系ビジュアルではむやみに興奮などしない超然キャラ担当袖村茂明も、少女的一拍用意のうえの偽装天然「ケツ見られちまったー」と反射的な本天然「ケツ……!」との鮮烈コントラストには瞬間半勃起を余儀なくされ意外かつ不吉な脆さを自ら垣間見てしまったという。

 本天然を外れつつ「ケツ見られちまったー」は後々、

 きわめて合理的な超少女的経緯によりおろち文化史に残る大名言として燦然と永年人口膾炙することになる。

 

■ これも明らかな模倣犯である〈第三尻嗅ぎ魔〉が東横線沿線に出没していたことも付記しておこう。これは男子高校生を中心とした青年層を専門に狙った尻嗅ぎ魔である。犯人は二人組で、屈強な一人が被害者をうつ伏せに押さえつけ、もう一人がズボンを引き降ろしてパンツの上から十~二十分場合によっては一時間にもわたって密着吸引するというものである。被害者のすべてが、第3回に言及した〈本態性密着型青年〉であることが判明しているので、犯人はまず九割方、かの〈青吸爺〉こと村坂誠司であると考えられる。協力した大男はまず間違いなく、佐古寛司であろう(第1回に引用した佐古の「尻嗅ぎ法」を想起されたい)。犠牲者が〈本態性密着型青年〉であることがわかったのは、全員が、発見時に手足を縛られ、露出したペニスにこう書かれたピンクのリボンを結び付けられていたからである――

 「トイレではぜったい覗かせなかったのにこんなところで剥かれてしまいました」

 用意のいいワープロ印字で。

 ちなみに被害者の半数が発見時にリボン付きペニスを勃起させており、うち真正包茎率は約四割だったという。

 

 演習問題: 佐古寛司が本態性密着型青年をターゲットとした村坂の犯行に協力した動機――第1回に見た男尻嗅ぎ衝動は別として――は何であるか。

 

 解答: 佐古がトイレにおける〈男の羞恥〉の欠落に執拗な憎悪を抱いていたことは第1回に見たとおりだが、しかしそれは、個室における大便排泄を対象とした高レベル羞恥であって、小便以前のペニスごときを対象とした低レベルの密着型青年的羞恥は、佐古にとって、逆説的に許せない現象だったと考えられる。商業捕鯨やニホンザル捕獲殺処分に反対する動物愛護運動家が、蚊やゴキブリを殺してはならないと唱える汎生命連帯のカルト宗教に対して憤りを覚える心理や、大便を常食としている印南型おろち人間がマイナーアイドルをカタツムリの卵やサソリの唐揚げの前でキャーキャー騒がせゲテモノ食的に過大に映すテレビ番組に苛立つ生理と同様であろう。

 

 なお佐古寛司は、村坂との協力態勢を抜けた後もひとりで黙々と尻嗅ぎ魔を続行していた。そのときは村坂式青年趣味への迎合の必要がなくなったためオーソドックスな女尻嗅ぎをも併用するようになった、というよりむしろほぼ三対七の割合で女尻の方を多く狙ったとされているが、尻筋肉の抵抗がやはり男尻の方が瞬発力的に優れ、嗅ぎすくめるとともにキューっと締まっては弛緩し弛んでは堅くなる微細な変化がやはり男の筋力だなあと、抑えつけて顔面を割目にうずめたときの尻すぼみ度と腿の反撥度がやはり男の逞しい生命力だなあと、男尻に顔埋めた直後に女尻に顔を埋めた日には、その抵抗力の軟らかさ味気なさにガックリきたものだという。

 

偏態パズル_第61回_02

 

 しかし匂い的には明らかに女尻の方が脂肪臭に優れ濃厚で(念のため鈴木隆『悪臭学』(イースト・プレス)p.017から引用しよう、「男女十六人のおなら一回あたりに放出されるガスの量やその成分を調べた研究によれば、意外なことに女性のおならの方が硫化水素の濃度が高く、臭気が強かったという」)触感を取るか臭質をとるかでいつも迷い、迷ったときは拘束に手間のかからぬ女をより多く狙う方に流れた結果が三対七に収束したと言われている。

 なお当時の噂によれば、第一尻嗅ぎ魔蔦崎公一、第二尻嗅ぎ魔身元不詳、第三尻嗅ぎ魔佐古寛司のどれもが、ただし実際には正体のいまだ突き止められていない第二尻嗅ぎ魔の場合に限られていたらしいが、尻に顔を埋めても思うように臭わない場合、当該被害者の尻間に臭うまで鼻をグリグリ押し付け

 グリグリグリグリ

 突っ込み捩じ込み突き刺してゆく挙に出たらしい。

 解剖学的に困難な嗅覚器官的突起がグリグリ被害者の尻間に食い込んだという。

 

偏態パズル_第61回_03

 

 パンツが破れて粘膜が熱々にこすれ尾てい骨がこじれズレすりへるまでこの〈グリグリ押し付け〉が籠もり声の「KUSAKUNAI,KUSAKUNAI,KUSAKUNAIYOOU,DOOSHITEKUSAKUNAINDA,KUSAKUNAIYOOOOOU」という悲壮な呻きとともに亢進し、被害者は後々尻の痛みに苦しむことになったので、これを恐れた被害者予備軍たち、すなわち出没区域を歩く可能性ある女性はひそかに、危険予想日の前日当日においてウォシュレットを使わない

 あるいは

 区域に立ち入る直前にオナラをしてパンツに新鮮な屁臭を染み込ませておく

 あるいは

 区域に立ち入る直前にパンツ布越しに肛門指ツッコミにより内臓臭を外化させておく

 等々といった対策を講じるのが流行ったらしい。

 逆に次のような事実もある。

 拭かず登下校少女(第8回参照)の一員が第二尻嗅ぎ魔被害に遭ったとき、こんどはその尻臭の不自然なまでの濃密さに驚いた尻嗅ぎ魔的惑乱なのであろう、おのれの予期範囲をいとも自然に超え出た見た目平凡少女の実在に却って腹を立てたというかスースー一旦一応は満足げに密着吸引しまくったあげく「KUSASUGIRU!!」平手で思いきり双尻をひっぱたいたという。これがまた痺れ系痛覚が二週間は消えないほどの一撃であり、怖れをなした拭かず登下校少女たちは、

 シャンピニオンエキス摂取 または

 パセリエキス摂取 または

 鉄クロロフィンナトリウム摂取 または

 柿渋エキス+ペパーミントエキス同時摂取 または

 なた豆茶大濃縮ドリップ量摂取

 により、「尻の痒みを放棄せぬまま臭いのみ緩和する」という虻蜂捕り的懸命な対策で防衛した。危険区域直前においてコンビニのトイレに入り肛門を拭ってしまうという一派もいたが、帰宅まで待てない彼女らは〈志が低い〉と軽蔑されたという。

 尻嗅ぎ魔は三者三様というのが定説ではあるが、異説として尻嗅ぎ魔に三値論理ではなく六値論理や九値論理以上の多値論理や連続無限の値を許容するファジー論理を当てはめ、さまざまな派生的尻嗅ぎ魔の暗躍を発掘し再現したおろち研究者の努力が最近脚光を浴びつつある。

 たとえば……

(第61回 了)

 

 

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* 『偏態パズル』は毎月16日と29日に更新されます。

 

 

 

 

■ 三浦俊彦さんの本 ■

天才児のための論理思考入門  下半身の論理学

 

 

■ 予測できない天災に備えておきませうね ■