星隆弘 連載評論『翻訳の中間溝――末松謙澄英訳『源氏物語』戻し訳』(第12回)をアップしましたぁ。第二帖「帚木」の続きで「雨夜の品定め」です。平安時代の平均寿命は恐らく40代半ばくらいだったと思います。中には俊成卿のように九十歲を超える長寿の人もいましたが、現代に比べるとうんと短命だったのは間違いない。この短命が色好みになっているのは必然だと思います。ただま、単なる生めや増やせやではなく、高度に洗練されていたのが平安王朝貴族文化の大きな特徴です。
雨夜の品定めで光源氏は狸寝入りしながら年上の貴族たちの女談義を聞いています。耳をダンボにして聞き入っていた。いつの時代でも情報は重要です。しかも源氏が聞き入っている女談義はこれから本格的に参入する貴族社会の先輩格の男たちの話しです。信頼できる情報筋ということ。彼らの身の処し方をインプットしておけば、少なくとも初歩的な失敗は避けられる。
で、先輩貴族たちの女談義ですが、それは男談義でもある。女談義をしながら男の身勝手さも充分に表現されています。光源氏が理想のプリンスなのは、優れた美質を持った女性を敏感に選び取り、けっして冷たく捨てたりしなかったことです。もち『源氏物語』には光源氏の寵愛を失った姫君たちもたくさん登場します。でも彼女たち、雨夜の品定めで語られた女性たちのようにエゴが強く身勝手な場合が多い。身勝手は男だけでたくさん、と紫式部は書いていませんし、最近の社会規範から言えばこれも男女差別になってしまうわけですが、どっちゃも身勝手だと収拾がつかなくなるのは間違いないでしょうな。
■星隆弘 連載評論『翻訳の中間溝――末松謙澄英訳『源氏物語』戻し訳』(第12回)縦書版■
■星隆弘 連載評論『翻訳の中間溝――末松謙澄英訳『源氏物語』戻し訳』(第12回)横書版■
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