性にまつわる全てのイズムを粉砕せよ。真の身体概念と思想の自由な容れものとして我らのセクシュアリティを今、ここに解き放つ!
by 金魚屋編集部
小原眞紀子
詩人、小説家、批評家。慶應義塾大学数理工学科・哲学科卒業。東海大学文芸創作学科非常勤講師。一九六一年生まれ。2001年より「文学とセクシュアリティ」の講義を続ける。著書に詩集『湿気に関する私信』、『水の領分』、『メアリアンとマックイン』、評論集『文学とセクシュアリティ――現代に読む『源氏物語』』、小説に金魚屋ロマンチック・ミステリー第一弾『香獣』がある。
三浦俊彦
美学者、哲学者、小説家。東京大学教授(文学部・人文社会系研究科)。一九五九年長野県生まれ。東京大学美学芸術学専修課程卒。同大学院博士課程(比較文学比較文化専門課程)単位取得満期退学。和洋女子大学教授を経て、現職。著書に『M色のS景』(河出書房新社)『虚構世界の存在論』(勁草書房)『論理パラドクス』(二見書房)『バートランド・ラッセル 反核の論理学者』(学芸みらい社)等多数。文学金魚連載の『偏態パズル』が貴(奇)著として話題になる。
三浦 最近、女性の犯罪が非常に多くなってるでしょ。なんといってもススキノの事件とかね。ジェンダー関連で、非常に興味深かったのが初期の頃のこと。みんな忘れていると思うけど、これは絶対に若い女性にはできない犯罪だと。
小原 わたしもそう思いました。
三浦 父親が主犯だっていうようなことを元警察官、元刑事や元検察官がもう堂々と言って。
小原 それはね、わたしも思いました。これは女がやることじゃないって。
三浦 あからさまにこれ、若い女性が計画できることではないとかね。ものすごく差別的なこと言ってましたよ。誰も文句言わないでしょうけど、犯罪の話だからね。
小原 それは差別ではなくて。現場の経験上、直感でプロファイリングするのに人権とかは、ちょっと。
三浦 ただ、結構あるじゃない。人を殺してみたかったっていう犯罪。今までも女性で、結構あったんですよ。
小原 あったと思う。
三浦 名古屋大学かなんかの学生のとか、昔ね。あと小学生の女の子が友達を呼び出してカッターで首を切ったのもあったし。あと木嶋佳苗とか。
小原 まあ、詐欺はあると思う。血生臭いというか暴力犯罪っていうのはやっぱり女性は少ないかな。
三浦 猟奇的な犯罪は、今までなかったよね。ただ、そういうことがあからさまに言われて、その反面で女性だから許されてるっていうのがあって。例えば29歳で無職、そういう男性だったら、初めからおそらく人間失格扱いだと思うんだよね。こんなやつはそもそもどうしようもないって批判的な報道だったと思うんだけど、女性の場合には別に29歳ニートであっても全然、人間失格扱いはされてなかったじゃないですか。
小原 家事手伝い、って便利な呼び名がありますもんね。
三浦 普通扱いというか、よくあることだと。女性の方が生活のスタイルの許される幅はやっぱり広いんだっていうのは感じましたね。
小原 社会的な地位みたいなものはなくとも許される、っていうところありますね。
三浦 だから、そういう面では批判を受けることはなく、また、こんな猟奇的な犯罪を犯さないだろう、綿密に計画を立てて、こういうやり方をするのは父親が主犯に違いないと言われましたね。その両面から、のっけからちょっとジェンダーが関わっているなと思わされた事件なわけですよ。
小原 なるほど。
三浦 で、あとは性的に揺らぎを感じている人なんだってこと。被害者が女装家だってことは当初から言われていて、自分は女性だからと、女性料金でああいうイベントに入っていた。女性料金は使えませんよ、って言われると、じゃあ参加しないって帰っちゃったとか。だからまあ、女性扱いで過ごしていたと被害者に関しては言われていて。その二人が出会ったのがLGBT出会い系という報道だったんです。
小原 そこまでは知られてますね。
三浦 加害者の方は二重人格っていうふうに主張が変わってきたけど、自分の性自認に問題を抱えている人だから、LGBT同士の犯罪なんだって報道の仕方をしてたんですよ。やはり理解増進法が通って間もないからだろうけど、あちこちで女装家の性犯罪もいくつか報道されて、その一種のブームに乗ったっていうか。女装家が女性を装っていて、加害者の田村瑠奈は、被害者を女性だと思い込んでいてレイプされたんだ、っていうのを当初、加害者の祖父が結構、情熱的に喋っていて。それは加害者の母親から聞いたという話だったかな。そしてその後も脅されていたか、つきまとわれていたと。トランスジェンダーによるよくある犯罪で、いわゆるトランスパニックってやつですよね。
小原 トランスパニックって言うんだ。
三浦 ゲイパニックって言葉があるけど、つまり、いざコトに及ぼうとしたら相手にペニスがついていた。女だと思っていたら男だった。それで事件が起こるんですよね。
小原 今回、加害者の女性は途中まで、被害者を女性だと思い込んでたんですか?
三浦 そのように祖父は言ってるよね。トランスジェンダーが殺される場合、海外ではその大半はセックスワーカーなんですね。そもそもトランスジェンダーってセックスワーカーが多くて、もう女性になりきっちゃってるのが結構いるね。男性の客をとって、だけどペニスがついていると。
小原 ふんふん。
三浦 で、客が激怒して、暴力を振るって殺してしまうっていうのが結構あるんですよ。で、トランスパニックディフェンスっていうんだけど、そういうことで相手を殺したり怪我させたりした場合に、相手の性別が違ったから逆上したんだって弁護をしてはいけないという法律が、あるぐらいです。
小原 なんでいけないんですか?
三浦 相手が男だったと気づいたがゆえに混乱して、逆上して、つい暴力を振るってしまったという弁護はいけない、と定められている。差別だっていうことですよ。
小原 差別って…。
三浦 トランスパニックディフェンスで調べると出てきますよ。
小原 それは何かが間違ってる気がします。弁護法とか、そういうルールや社会的コード以前に、事実があるわけで。パニックに陥っちゃったんなら陥っちゃったで、しょうがないじゃないですか。
三浦 しょうがないんだけど、ベッドインにするほどに意気投合して、相手に対する好意もあって、それが今更ペニスがあったからといって逆上するのはおかしい、っていう、そういう理屈なわけ。
小原 だって相手に対する好意って、性別はその好意の基本になるものじゃないですか。
三浦 そうそう。ただ、それが通用しない時代になっちゃったと。
小原 「こんなに好意があったのに、今更性別なんかにこだわるなんて」って、言われたって。そもそも性的好意なわけでしょ。気が合ったから勉強会を開こうってんじゃなくて、性交をしようって意気投合してるわけだから。女性なら女性、男性なら男性という前提のもとにシンパシーを感じたんじゃないんですか。
三浦 だから行きずりの関係も多くて、とくにセックスワーカーがそういう被害にあった。客を騙しているわけだからね。
小原 そもそもが契約違反ですよ。いや、買春しようとした男性を弁護する理由はないんですがね。
三浦 だけど現実にはね、それで長年妻が夫を騙していて、妻が実は男性で、性別適合手術も受けていた。生理なんかもあるかのように装ってた。オランダだったと思うけどね。オランダ人がずっと騙されていて、妻はインドネシア人の男性だったんだけど。でもあるとき、それが発覚して、夫の方が離婚を申し立てたら、逆に心理療法を命じられてカウンセリングに参加させられたという話もありますよ。
小原 なんか、すべてが間違ってる気がする。
三浦 でも世の中、そうなっちゃってるんですね。
小原 こないだ、たまたまYouTubeで、よくある話かもですけど、婚約して入籍直前までいったけど、女性が実はバツイチで、子供が二人いることを隠していた。それがわかって、要するにそれを全然言わなかった、騙されていたってことにショックを受けて、別れたいって。それは聞いてる人のほとんどが、そりゃそうだろうって思うじゃないですか。だけど子持ちや離婚歴に対する差別だって言われたら。
三浦 法律的にもね、変えてるんだよ、性別を。手術もしているし。だけども、実は生物学的男性だったってことが判明して、それでパニックになって夫が離婚を申し立てた。
小原 無理もないとしか思わないですけどね。
三浦 当然だと思うけれど、しかし長年連れ添って、別にね、その性別という観念的なものを除けば、別に見た目も感触も全部、今まで違和感なかった。
小原 離婚できないのかなぁ。
三浦 でしょ。なんで性別という観念的なことだけで変わんなきゃいけないの、っていう。
小原 この場合、確かに夫のパニックが収まれば、気持ちが戻るかもしれません。夫婦として長年連れ添った関係があるわけですから。性的なものだけじゃなくて。
三浦 まあそんなこんなで、ススキノの件は、女装の被害者がとんでもないやつだということで、レズビアンといわれる加害者に同情的な雰囲気があったんですよね。署名運動が話題になりましたし。
小原 わたしは署名はしてないけど、いまだに加害者に同情的です。
三浦 言われていることが事実であればの話だけどね。実際、被害者の女装男性は、ああいうイベント出禁になったりしている札付きの人ではあったらしいんだよね。女性のふりをして、女性をひっかけてはどうこう、という。女性も、女装した男には弱いらしいね。
小原 ふーん、それは知らないでっていう意味? 男だって知ってても?
三浦 知ってても。女装してると、いわゆる男性性を捨ててると。だから女性に対して乱暴なことはしないはずだという思い込みが出てくる。
小原 それは思い込んじゃいますね。ほら、オカマの人って結構、女性に人気があるじゃないですか。ちょっと安心感もあるし。自分は本物の女性で、それになりたくてって、という人に対して、上からっていう余裕もあるし。オカマさんって面白いこと言うし、女性にはない視点も持ってるし、女性同士の社会的な小競り合いみたいなのをしなくていいし。
三浦 そうだけど、それは女性に対して、強い性的欲望を持っていないという前提でそうなるわけで。実は、女性に強い性的欲望を感じる女装男性ってたくさんいるわけですね。だからそれの一つの悪用例だったわけですよ。
小原 前の、経産省のトランスジェンダーと一緒で、女装つながりですけど、あれも女性に対して性的な欲望を持ち得る男が、女装しているという理由だけで女子トイレに出入り自由になることへの違和感ですよね。要するに、わたしたちは女装してるってことと同性愛ってものをごっちゃにしちゃうんです。
三浦 そうなんだよね。それを悪用してナンパに使っている女装家がたくさんいるって話なんだけど、それもあって初期の頃は加害者に同情的で、加害者の方が被害者に付きまとわれてレイプされたって話でもあったし。ただ、だんだんわかってくるにつれて、その猟奇的な犯行現場を、三脚をちゃんと立ててカメラで撮っていたとか、首を弄ぶ動画に、その親が撮ってるとしか思えないようなものがあったとか。警察の発表に出ていないような、もっととんでもないこともあるらしい。
小原 そうなんですか。
三浦 精神鑑定することも決まったみたいだから。半年ぐらいかけて。
小原 父親って、精神科のお医者さんでしょ。とんでもないことすればするほど精神鑑定で異常って出る可能性が高くなることを承知してるはずって、誰か言ってました。
三浦 そうね。ただ、どうなのかな? 親二人はまったく関与してないって供述してるみたい。警察に対しては黙秘しているらしいんだけど、検察には協力的らしくて。でまぁ、娘の計画を一切知らなかったということは、どうも無理があるけどね。
小原 うーん。無理があると思う。それは。
三浦 無理があるけど、そうなると今度は娘の弁護と親の両親の弁護とがどうバッティングするか、ここはちょっと見ものと言えば見ものですよ。
小原 娘はとんでもないことしてればしてるほど頭おかしくて無罪、って可能性があるとするなら、広い意味で、殺された女装男性に対する本当の復讐だなって気がします。だって彼がやろうとしたことと同じじゃないですか。それに首を狩るってペニスを切り取るっていうこと、それをさらに肥大化させたメタファーのような気もしてます。
三浦 だから、やはり強い恨みは持っていたんだよね。
小原 恨みはあったと思いますね。で、そういうLGBT同士の、一般的な関係性で仕切れない、ごちゃごちゃしたときって、もし実際、彼女がレイプされたと警察に訴えてたとして、どのぐらいまともに取り合ってくれるのだろうか。
三浦 それこそ、だね。
小原 ただでさえレイプ事件なんて重要視してくれない場合もあるところへ持ってきて、そんな込み入った事情でのレイプなんて警察に訴えたところで全然、気が済むような処分にならない可能性があると思ったら、です。
三浦 やっぱり性犯罪に対する対処の甘さ、不十分さみたいなものが一つの原因になっているとも考えられるんですよ。
小原 でも本当は、普通のレイプというか、一般的な被害者の女性だって皆、同じように相手を殺したいとか、いっそ自分が死のうとかって思い悩むわけでしょ。自分の尊厳を取り返すためには、自分自身で相手に仕返ししないと、って。だけど司法というものがいちおうあって、警察がいちおう処罰をするっていうので、なんとか収めて。完全に被害を回復したとはたぶん思わないけれども、とにかく司法に委ねるってことで。だけど、それすら期待できないような特殊な事情で、何かしてやらなければ自分は生きていけないって思い詰めた娘が、なぜか武器を扱う腕に覚えがあるなら、家族がやれと言っても不思議ではないかな。
三浦 だから、まあ二人、両方とも特殊な性癖を持った人たちで、それがたぶんうまく噛み合わなかったんだろうね。
小原 噛み合いすぎたとも言えるし。
三浦 ゴスロリだったらしいね。
小原 ほー。
三浦 ゴスロリで、しかも刃物収集コレクターなんでしょ。
小原 それは得難い…。
三浦 しかも多重人格だというような話。なおかつ、あのプレイのやり方見ると明らかにSMだよね。非常にちゃんとこうね、同意の上で後ろ手に手錠して。アイマスクまでして、そういうプレイ道具一式、揃えて。だからそのSMで、いちおうは接点というか。まあ女装家っていうのはマゾヒストが多いからね。でSMプレイをするつもりだったのが、例えば最初のあのイベントで最初に出会ったときに、もうラブホテルに行ったらしいけど、そこでたぶん普通のセックスをさせられちゃったんじゃないかな。それでこう、歯車がちょっと狂って。
小原 うーん。プレイの嗜好が違っていて、いわゆるレイプ行為をされて屈辱だったって言われても、警察としては確かにちょっと対処に苦しむかも…。
三浦 そして、そのSMプレイのノリで殺したという形になるんです。だからちょっと、もともと理解してもらえなさそうな二人だったんだよね。いろんなものが錯綜していて。
小原 わかんなすぎて基本に戻ると、レズビアンなのに通常のレイプをされたら、なるほど屈辱を感じるだろうと言う人がいるけど、そうではなくて、そこは女性は皆、一緒なんだと思うんですよ。ただいちおう、社会的に処罰の文脈が確立されているのと、それすらないっていうのと、その違いだったのかなとは思いますけど。殺した後に首を取ったってのは、たまたま技術的にできた人だったわけですけど、そういう行為は自分の自尊心を回復、高揚するためのプリミティブな儀式なのかもしれない。法が及ばない、力のぶつかり合いで野蛮な復讐を遂げているわけですから、そういった儀式も欲望の表れとして不思議ではないかもしれない。
三浦 いわゆるスピリチュアル系の人なんだよね。
小原 ああ、なるほど。
三浦 だからいわゆる、そういう悪魔崇拝的な儀式にかぶれてるところがあるから、それでああいう形で殺したんじゃないかな。
小原 そうですね。とにかく自尊心を回復するというのは、自分の中の物語なわけだから、その人が納得するストーリーを作り上げればいいわけじゃないですか。死体損壊については、それも悪いには違いないけど、すでに相手は死んでるんだから。レイプ被害を受けた女性たちに「どういう儀式を経れば被害者としての意識、皆さんの魂が救われますか」って本音のアンケート取りたいですね。去勢させたい、死刑にしたい、それにその死体を物として損壊したい、というのも出てくると思います。モノ扱いされた女性の復讐として、ですね。
三浦 たださ、その準備をしてるから、心身喪失とか心身耗弱とかにはならないよね。
小原 そうですね。
三浦 明らかな判断能力はあったはずだし。で、強い殺意を感じさせる殺し方をしている。おそらくまあ、不同意性交の双方の認識が違ってて、殺された被害者の方はたいして悪いことをしていた自覚はなかったんですよね。
小原 でも、その被害者の方は繰り返し、そんなことをあちこちでやってたみたいじゃないですか
三浦 しょっちゅう。常習犯だから。それで別に、今までたいしたことにもならなかったし。
小原 その他の、されてた女の人が、まあこういうプレイもあっていいか、と思っていて、たいしたことだと思ってなかったんですかね。
三浦 ホテルまで行ってれば、何されても自分で自分を納得させなきゃというのもあるし。
小原 相手が男だと思わなかった、ペニスがついていると思わなかったって人もいるんでしょ。
三浦 女だと思っていたっていう祖父の言い方はたぶん、ちょっとご都合で。男だってことはわかっていても女装男だから、性欲を女性に抱くはずがないという思い込みはあったかもしれないね。
小原 たとえラブホに行っても通常の性交は求めないだろう、という感じですかね。それと多重人格っていうのは結構、ミソかもしれない。多重人格って広い意味でのトランスジェンダーですよね。
三浦 そうそう。
小原 犯罪者に、二十何個の人格がある人がいて、それがインチキだとか、いや本当にこの人の中では分裂してるんだとかって論争になったことがありますね。人格がたくさんいれば当然、複数の性別を持ってるわけだから。逆にトランスジェンダーって実は一種の多重人格者だって言われれば、そうかもしれない。
三浦 本人の意識が他の人になるなら、そうだろうね。いろんなものが本当にね、ごちゃごちゃに混ざってる。あの家もさ、ゴミ屋敷だったとか、外にクーラーボックスがいっぱいあったとか、あのお父さんがずっと車の中で過ごしていて、そこでカップラーメン食べてまったく家に入んなかったとか、近所のそういう証言があったり。あと、すごい過保護の親子だった、とかね。例のイベントに親子で一緒に行ってるってこと自体、非常に不思議な話で。
小原 それはおかしい。そもそも多重人格って、幼児虐待されて発生するもんだし。
三浦 被害者の男と抱き合っているのを、ちょっと離れたところでお父さんが見てるわけでしょ。で、しかもその晩にもうホテルに行ってるわけですね、二人で。そういうのを黙認しながら、刃物なんかも買い与えて、どういう親子関係なんだって。動機から、環境から、謎だらけだね。
小原 どうなってんでしょうね。
三浦 しかもネクロフィリアも疑われる。ああいう死体に対する愛着とか。
小原 刃物の収集っていうのも、死体への愛着からと考えると何となくわかりますね。ゴスロリも「死んだ文化」かもしれないし。これはこじつけですけど。 しかし死体になったものに対して愛着があるってことは、そんなに相手を憎む一辺倒でもなかったかもしれないとも言えます。
三浦 出会って最初の時にもうホテルに行ってるくらいだから、ものすごく気が合ったんでしょう。あの動画の様子を見ても、ものすごいハイテンションで抱き合ったりしてるわけじゃない、初対面であるにもかかわらず。合計で三回会ってるだけって話だけれど、一回目か二回目に、すぐ裏切られるようなことがあったってことだよね、おそらく。そのあたりがね、これほどの犯罪の原因になるものがよくわかんないわけです。
小原 ここまでですごく思ったのは、性のリビドー(欲動)の混乱の中では、これが犯罪でこれが犯罪じゃないとか、ジェンダーも含めて、社会的な枠組みに当てはめようとすること自体、限界がありますね。
三浦 まあ、だけど、刺して殺したら犯罪だからね。
小原 もちろん。この人は犯罪者でいい。それは処罰を与えて、前科が付いても。ただ、わたしたち普通の社会人はそれをもって結論とし、善悪も決着したように思うけど、当事者たちはどうなんだろう。彼らの本質はリビドーの動きであり、そのエネルギーの大きさであって。社会的コードとして、犯罪者としてしばらくここで罰を受けなさいとか、そういうことは実はあんまり重要じゃない、堪えてないんじゃないかって気がする。社会的には単に、反省してないってことになるのかもしれないけど。
三浦 江戸川乱歩の小説なんかSMがすごく出てくるけど、マゾヒストは殺されてもいいというような状況もあるもんね。そうじゃないとSMの醍醐味がないわけで。その勢いで、本当に殺しちゃったっていう描写もあるけど、あれ結構、信憑性あります。阿部定もそれだったわけだし。そういうもんなんだよね。
小原 そうでしょうね。
三浦 ただ、今回のあれは後ろからでしょ。刺してるのは。
小原 そっか。やはりプレイでなく犯罪的ですね…。結局のところ三浦さんも小説家だし、わたしもミステリー小説を、まあ最近書いてるもんですから思うんですけど、いわゆる利害、こういうお得があるからこういうことをしたのね、っていう動機付けには一般的なロジックが必要ですよね。読者が納得するには。だけど現実には、それだけではなくて、そういう分節化ができないような、欲動としか言いようがないものがあって。
三浦 今回の犯人がわかる前は、そうだったと思うんだよね。あの酒鬼薔薇事件と同じように、単なる猟奇的な犯罪があり、ということなら。ところが家族が全部関わっていたらしいってことになって、その段階でやはりロジックが必要になってくるわけですよ。
小原 そうですね、解釈として。
三浦 何らかのロジックがないとあり得ないんですよね。家族が協力して、あそこまで父親が娘に付き添って凶器になるものを買い込んで、周到な準備もして、クーラーボックスという怪しげなものと、あと氷も買いに行ってると、親父が。そんな全体像を見ると明らかに昨日今日、いきなり思いついたことではなく、ある程度相談をしていないとおかしいね。あの段階でロジックが求められるようになったんですよ。もし酒鬼薔薇事件みたいに一人でやってるのであれば、もう理屈も何もない。
小原 なるほどね。
三浦 特殊体質というか特殊性癖というか、それで押し通せるんだけど、あれは家族全員がどうも関わってるからね。
小原 一対一の場合には、損得を超えるリビドーがあって、ってこともあるけれども、家族も組織だから社会的な利害関係、損得も働くだろうし。
三浦 複数人の思惑が変わってくると必ず最大公約数的なものになっていくので、やっぱり通常の人間理解に近づいていくはずなんだよね。例えば集団行動とか国家の行動とか見るとさ、必ず理由があるわけですよ。戦争なんかも、こうなってこうなって、っていう理屈がつけられるわけで。
小原 関わる人数が増えると、最大公約数的に落ち着くっていうのは、その通りですよね。そうすると、この家族の全員の欲望、最大公約数的な欲望っていうのは何だったかっていうことになりますよね。何だと思われますか。
三浦 これがね、まったくわからないから不思議なわけで。相当な共依存というか、過保護の関係が特殊すぎて。娘に全部、もう仕切られちゃってる。お父さんも精神科医で、それも特殊な色合いを添えてるわけで。そうやすやすと娘に無批判に言いなりになるとも思えないわけだし。
小原 精神科医って、こう言っちゃなんだけど、変わった人が多いですよ。
三浦 まあ、精神疾患の率が高いって言われるね。
小原 もちろん、関心があるから専門にするので、非難には当たらないのですが。
そういえば、わたし今日、横浜で母とランチして、母の昔からの友人の話をしたんです。その方の娘さんとわたし自身もまた、友達だった。で、その娘さんが、まあ40過ぎて実家にいたんですけど、急死された。その葬式のとき、彼女の両親が妙にはしゃいでいて。それをわたしの母や他の友人たちは、信じられない、と。あんないい娘が死んだのを嬉しそうに、異常な親だって、ひどい評判が立ってしまった。でも、わたしはその娘さんのこと、友達だからよく知ってるじゃないですか。それと、その両親のことをよく知ってる母世代の人たちからの情報を突き合わせると、何が起きていたか、なんとなく想像できる気がする。小説家の、フィクショナルな考えに過ぎませんけど、例えば仮に、娘さんがジャンキーだったとしたら。それで家に引き取って、家族が見張っている以外に手がなくて、その状態がもう長く続いていたとしたら。そしたら自殺でも何でも、家族は解放された気持ちになる、少しはしゃいでいるように見えたとしても、致し方ないのではないか。
三浦 うーん。
小原 だからあの事件で、娘をとにかく家族で監視するしかないって状況に追い込まれていたなら、一番大事なことは、娘が暴れないようにする、娘の気の済むようにする。それが家族の最大の関心事になっていたのではないかな、という気はしますけどね。お父さんが精神科医だろうと、手に負えないですよ。
三浦 まあ、今から見ると、とんでもないことを計画しているに違いないとわかるけれど。いろいろノコギリ買うとかね。でも、まさか本当に人を殺すとは思わなかったっていうのが現実だったのかもしれないね。好きなようにさせて、それでなんとか落ち着いてほしいと、親は調子を合わせていた、ということはあるかもしれない。
小原 好きなようにさせる以外、どうしようもなかったんじゃないですかね。
三浦 家にも入れないぐらいに荒れていたっていう。よほど娘の支配下にあったのかな。
小原 被害者がマゾだったとすると、娘はサドということですよね。「お父さん、家に入るな」と気まぐれにでも命令したら、それに従う、と。
普通の家でも病人がいると、その存在が肥大化して、病人の世話をすることにエネルギーが集約される。他の家族は仕える立ち位置になっちゃう。それがなかなか他人に説明できない状態だと、なおさら。昔は認知症もひたすら隠して、家族で看るしかなかった。今みたいに社会的な理解が進んで、いろんなサポートを大っぴらに頼める状況ではなかった。今でも、他の人には説明できない状態の娘なり息子なりを抱えていたら、しかも父親が精神科医だったりしたら、なお家族は孤立するでしょう。医者もときに無力で、だけど外向きにはそうじゃないフリをするのも仕事ですから。
一方で、もしこれが息子だったら、暴れ出すと家族は逃げるとか、警察呼ぶとかしかないけど、娘の場合には家族でなんとか押さえつけられる。だからこそ腫れ物に触るようにしながら、家族で看ていくしかないと思うんじゃないか。いつか状況が好転すると願いつつ、家の中も荒れ放題、お父さんは命ぜられるまま車でカップラーメンを啜って過ごすとか、そういう状態になっちゃうってことはあるんじゃないか。
三浦 まあ、そうかもしれないね。そのあたり報道されないから、謎が深まって、想像力が刺激されるばかりで、引っかかってくる。これ、精神鑑定やるわけだから、どう出るかね。
小原 そうですね。
三浦 確かにねえ、女性だからここまで変な形で高じてしまった、と。これ、息子だったら早い段階で警察に相談するとか、あるいは逆に親子の間でのトラブル、暴力事件が起こるとかね。
小原 そうですね。もっと手前で警察沙汰になっていたと思います。少し以前ですが、「このままでは息子は本当に幼稚園を襲うかもしれない」って、国家公務員の立派なお父さんが息子を殺したって事件もあったじゃないですか。だけど娘なので、そこまですると思わない。それで引っ張っちゃった、ってことはあるんじゃないかと。
三浦 確かにそれがあるだろうね。だからこれ、やっぱりジェンダーの問題だよ。息子だったらどうかとか、娘だったらどうかっていうことを考えると。
小原 昔だったら、たくさん子供がいるうちの一人がそういうふうで、他にたくさん兄弟がいたら、そこまで甘やかされておかしくなることもないでしょうけど。多勢に無勢になるし。少子化でちやほやして、娘がおかしかったら、お父さんもお母さんも狂ったようにそれに尽くすみたいな感じだと、いろんな奇妙な出来事につながっていきそうですよね。
三浦 それこそ理解増進法ができたわけだから、こういう特殊な性癖を持った人どうしが出会ったときに何が起こるかっていう、非常に興味深い教材になってるよね。女装とはどういうものであるかとか、女装者に対しては女性がどうやって武装解除する傾向があるかとか、SMというのはどういうものであるかとかね。あと、やっぱりレズビアン。本当にレズビアンだったのかとか。出会い系サイトを利用してたみたいだけど、これもレズビアン系ではあったらしい。レズビアンとはどういうものであるかとか、トランスパニックって何をもって言うかとか。あるいはゴスロリはどういう傾向をもっているのかとか、やはり悪魔崇拝に傾きやすいのかとか、本当にネクロフェリアなのか、とかね。
小原 ふむふむ。
三浦 LGBTQのQに該当するわけだし。だから特殊性癖の人への理解を増進させる重要なケーススタディになるわけで。そのわりには被害者の実名も報道されてないんだって? 匿名で、なんとかさんって。普通はね、被害者の名前を真っ先に報道するのにさ、写真まで晒されてね。だけど今回、なぜか被害者の実名が報道されてないらしいんだけど。もうネットでは明かされてるけどね。それも何か特殊な事情があるのか、ということですよ。
小原 その被害者の方っていうのは、普段は男性として生活してたんですかね。経産省のトランスジェンダーさんもそうでしたけど、女装男性って女装しているときがイベントで、普段は普通の男性として暮らしてるということなら、同性愛者とは違いますよね。
三浦 妻子がいるらしいからね。今回の人は人一倍、女性に対する性欲が強い人で、これも家庭の環境が報道されてないわけですよ。家庭内別居状態だとちらっと読んだこともあるけど、そこもちゃんと背景を詳しく、それこそ理解増進に寄与する形で報道してほしいよね。
小原 今、三浦さんからいろいろ教えていただいただけでも、やっぱり被害者は被害者なんだろうな、と思い始めましたし。加害者がレイプされたとかストーキングされたとか、他にもそういう目にあった人がいるならそうかもしれないけれど、死人に口なしでもあります。被害者の奥さんの話を聞きたいですね。もちろんプライバシーがありますから難しいとは思いますけど、どういう感じでその女装男性と一緒にいたのかって、まず謎ですよね。
三浦 やはり一般に、そういうコミュニティでは何が起こりやすいのか、とかね。特にSMに関しては知られてないことが非常に多いじゃないですか。わたしも一年ぐらい前に、DVの被害者にはマゾヒストがいると言っただけで炎上したんですよ。これこれこういう人がいる、マゾヒスティックパーソナリティ障害というものがある、と言っただけで。
小原 そういうのは論点がずれてるから起こるので。DVを暴力という社会的なコードのみで捉えたら、誰も加害者を擁護なんかしないですよ。
三浦 うん。そんなことを言っているんじゃなくて、DVには多様性があるってことなんだけどね。
小原 我々のような文学者が注目するのは、DVのバイオレンスの部分よりもドメスティックの部分ですね。いわゆるハネムーン期の心理状態を分析することも、不謹慎だ、やめろ、と言うなら学問・表現の自由に反します。
今回のススキノの件も結局、加害者家族のドメスティック部分でどういうことが行われていたか、単なる犯罪の社会的なコードでは読み解けない謎があるわけじゃないですか。さらに当事者の男女というか、女女というか、その非常に親密な関係の中で、外から窺い知れない部分がある。ドメスティックっていうのは、法律や社会が入り込めないところ、ってことですよね。その分析の過程では、社会的コードで良いとか悪いとか、法的に裁かれるべきとか、そういうこととは別に、学問的・文学的に解明していかなきゃいけない部分がある。それに努めている学者・文学者に対して、加害者に理解を示すのは擁護に繋がるのなんのって言って、邪魔しないでほしいですね。
三浦 警察なんかの扱いにもね、そういうところはあって、あの木原事件が捜査打ち切りになったのも、どうせ薬物の中毒者のトラブルに過ぎないという前提があったわけじゃない。ある意味、あれは警察の合理性でもあるんだよね。
どうせこいつらおかしなことをやって、せいぜい仲間内でおかしなプレイでもやって死んだのだろうから、ろくでもない事件をいちいちやりきれないってところがあると思う。致死量の薬物がもう体内にあって、その上で刺されたのか、自分で刺したのか、謎めいた死を遂げていると。こういうのは薬物中毒者にはよくある話なんだよね。
小原 警察の人的資源を費やすコスパの問題ということでしょうかね。
三浦 だからやっぱり、たまたま政府の中枢にいる人間の妻になったから過剰に蒸し返された面はあるんじゃないかな。政治家の妻だからもみ消したんだろうって言われてるけれども、木原本人は逆に、俺が政治家だからこんな事件を蒸し返すんだ、と思ってるんじゃないか。
薬物を摂取した結果、ろくでもない死に方をした人間っていうのはたくさんいて、その中には近くにいた人間が結果的に殺しちゃったとかね、つまんない理由でお互いやり合っちゃったとか、あるわけですよ。似たような形で立ち消えになっている事件、たくさんあるはずじゃないか、と。
小原 あの奥さんの父親って、単なる警官じゃなくて、公安なんですよね。ちょっと、今のところ何とも言えない感じですが。要するになかなか社会的な普通の処罰とか捜査とかが及びにくい部分って必ずあって。それがドメスティックな部分だし、まぁ仮にですが、関係者に公安警察官がいたら、そのこともよく知ってるでしょうね。逆に政治家や有名人だと手柄になるから食い下がる、ということもやっぱりあるでしょう。人間のすることですから。
三浦 警察って結構、そういうことあるみたいだからね。
今回のススキノだって、父親が精神科医だからね。それに共産党の活動してるし、共産党系の特殊な病院だよね。これは慎重に捜査しようっていうので、なかなか逮捕しなかったらしい。あの署名活動も共産党員を動員したんだと思うし。
小原 そうなんだ。厄介ですね。
三浦 そうそう。共産党っていうのは、この事件に影響しているはずだね。それで警察にはちょっと相談できなかったんだろうね。共産党は公安が敵視している対象だし。そのあたりもちゃんと報道してほしいよね。共産党とはどういう集団なのかっていうことも、いまだに暴力革命を放棄してないってことは事実だしね。
小原 それで、刃物とかで自衛するのが推奨される日常だったのかな。共産党って暴力に対する免疫がある感じ。うちの親族にも公安にマークされ、かつ尊敬をあつめた左翼はいるので、こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど。
三浦 だけど、他の政党なんかに比べて法律違反はしょっちゅうだから。まあ、それは明らかに関係してるよね。とにかく、ちょっと要因が複雑すぎて、どこからどう報道してもらえるのか興味津々で見てるんだけど。小出しにしか出てこないね。一番新しい情報としては、鑑定留置が決定したことに対して、両親の弁護人が不服の手続きを取ったんでしょ。すごい過保護とされていた親子関係だけど、親の弁護においては対立するものになる。親はまったく関係なかったと言ってるわけで、そうすると娘が単独ですべて計画して実行したことになって、それだけ罪が重くなるわけだからね。そうすると、その弁護団同士での対立が起こるっていう。
小原 あの娘が、親は関係ないですって最後まで口裏を合わせるかどうかですよね、
三浦 それは可能性はあるよね。可能性はあるけれども、あの娘の弁護士としてはやはり親にある程度、責任を負わせる方向で弁護の方針を立てるはずだから。
小原 親が協力をしたかしないかで、娘の刑罰が変わりますかね。
三浦 それは関係するんじゃない。
小原 前に、あびる優ってきれいなタレントの女の子が、若い頃にみんなでお店を襲って物品を奪ったんだって話をして、大騒ぎになって。十人ぐらいでやったから一人一人の罪は軽いつもりで喋っちゃったんだろうけど、とんでもない。もう全員が強盗致傷の共同正犯、重罪でしょう。
三浦 それは一人であってもできた犯罪をたまたま多数人でやったということだと軽減されないけれども、他の人に影響されてやってしまったと主張できるのであれば、その分がやはり軽くなるよ。
小原 少なくとも酌量はあるでしょうね。
三浦 だからやはり興味津々ですよ、この事件は。
小原 そうですね。でも、わたしたちは法律家とも違うし、運動家とも違う。やっぱり文学者としてはドメスティックの部分を解明していく、それは再発防止の意味でも有意義だと思ってます。社会的に罰せられるべき人たちが罰せられるのは当然だし、それを擁護する意図は全然ないけど、何が起きたのかを緻密に捉えようとしたとき、法律や社会的な善悪のコードだけでは解明できない、ドメスティックの部分を当事者目線で、それに寄り添って見ていかなきゃいけない瞬間は必ずあります。文学って、そうやって生まれるんだし。
三浦 そう。家族関係もだけれども、性癖ですよ。性癖の理解がちゃんと正しく行われるような報道や警察発表がされないとね。今回、ポイントとなるのはSMプレイだけど、やはりなかなか理解されていないところがあって。あるいはハプニングバーってやつだよね。あの女装家が出入りしていたハプニングバーっていうものの存在もほとんど知られてなかったわけだよ。
小原 わたし、三十年前に、そういうのが新宿にあるって、三浦さんから聞いた。武蔵小杉の「さんちゃん」で(笑)。
三浦 ハプニングパーを知らないからこそ、レズビアンバーにペニスのついたトランス女性を受け入れろ、みたいなことを平気で活動家が言うわけじゃない。私は前々から言ってんだけど、ゴールドフィンガー事件のときだって、ハプニングタイムっていうものの存在を知らないんだよ、あのトランス活動家たちは。ああいうバーっていうのは、特殊なパーティーのときは見知らぬ者同士で抱き合うとか、体の接触があるわけですよ。そういうところに生物学的男性に入ってこられると困るんだよね、レズビアンの女性たちは。単に和気あいあいと話をしたり、という程度のパーティーをイメージしてると思うんだけど、そんなもんじゃない。新宿のレズビアンバーとかゲイバーとか見て回ったことあるけど、結構ハードな身体の接触があるわけよ。私もそういうプレイに参加したりしたことあるけどさ。
小原 フフフ。
三浦 その辺の実地調査、私はちゃんとやってるんだよね。そういうハプニングタイムというものを知っていれば、そんなペニスのついた男がさ、自分は女性ですと言ってレズビアンバーに入ってくることを許せるはずがない。
小原 それはそうですね。その場所で、女性たちは本当にリラックスしていると思いますよ。異性がいることの緊張から解放されたくて来ているんでしょうから。
三浦 活動家はちゃんとその辺も勉強してほしいと思うよね。
小原 理念だけじゃなくて、ね。
三浦 最近はわりと女装とか、LGBTあたりは少し理解が進んできたかもしれないけどSMプレイにはどういうものがあって、どういうノリでやってしまうのかとか、SMクラブにはどういうコースがあってとか、そういうところで出会う人たちはどういう納得づくがあり得るのかとかってことも理解増進の対象にならなきゃおかしい。
小原 SM、マゾヒズムといえば谷崎潤一郎という日本の誇る文学者がいる。わたしは谷崎訳の源氏物語で『文学とセクシュアリティ』を書いたのですが、谷崎のマゾヒズムは、日本文化の本質が女性性の優位に根差していることを看破して成り立ったものです。そんな日本で、マゾヒズムと言われただけで侮辱されたように感じるのは、認識不足も甚だしい。
三浦 パーソナリティ心理学でもSMに関しては、サディスティックパーソナリティ障害とかマゾヒスティックパーソナリティ障害ってちゃんとあるわけだから。今回は精神科医が関わっているわけだし、当事者の精神科医が暗黙の計画を立てた可能性があったかということも含めて、こういった特殊性癖に関する理解のために、大いに扱ってほしいよね、報道なんかでも。
(第04回)
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