世界は変わりつつある。最初の変化はどこに現れるのか。社会か、経済か。しかし詩の想念こそがそれをいち早く捉え得る。直観によって。今、出現しているものはわずかだが、見紛うことはない。Currency。時の流れがかたちづくる、自然そのものに似た想念の流れ。抽象であり具象であるもの。詩でしか捉え得ない流れをもって、世界の見方を創出する。小原眞紀子の新・連作詩篇。
by 小原眞紀子
腑
トマトたべる
腑に落ちる
ナッツたべる
腑に落ちる
とりかわたべる
腑に落ちる
きびなごたべる
腑に落ちる
きびだんご
たべたことない
腑に落ちない
すじをおいかけ
むかしむかし
あるところに
おおきな胃の腑の
おじいさんと
ちいさな胃の腑の
おばあさんが
あらそいながら
くらしていました
胃拡張のおじいさんは
なんでもたべて
お腹をこわします
入れては出し
入れては出しする
おじいさんを
おばあさんは
あきれてみています
おじいさんはそれでも
利ざやをとって
じょじょに肥えふとり
部屋いっぱいになりました
窓から手足をだして
振っています
おばあさんはおしだされて
買いものにでます
トマトかう
ちょっとたべる
とりかわかう
ちょっとたべる
胃の腑がいっぱいになって
舟をこぎます
どんぶらこどんぶらこ
むこうから
おおきな桃がながれてきました
こんなのはとてもたべられない
ちいさな胃の腑のおばあさんは
するーする
夢の波にのる
どんぶらこどんぶらこ
いやまてよ
するーしてから
おばあさんは思いました
おじいさんなら
たべてしまう
おおきな桃でも
大口投資家なら
おばあさんはくろうして
桃を岸にひきよせて
菜切り包丁をいれたとたん
桃からうまれた
ももたろう
子どものいないおばあさんは
いまさらこんな目にあうとは
みるくのむ
のむのむのむ
おかねくう
くうくうくう
しかたなく
おじいさんとそうだんして
山にすてることにしました
おじいさんはすてるふりをして
おかしのいえにつれていく
肥えふとらせて
ゴールドマンサックスに売ろうと
桃からうまれた
ももたろう
くっきーくう
くうくうくう
ちょこれーとくう
くうくうくう
まんまるに肥えふとり
オーブンにほうりこまれ
こんがり焼かれてくわれるのに
よいこのみんな叫ぼう
ももたろう気をつけて
外国人機関投資家が
きみをねらっている
よいこのみんなうたおう
ももたろう気をつけて
赤ずきんちゃんも
さあみんなでおどろう
夢の波にゆられ
目覚めたおばあさんは
なんとなく
お腹がすいている
トマトでもなんでも
だいじなことは
腑に落ちること
* 連作詩篇『Currency』は毎月09日に更新されます。
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