「僕が泣くのは痛みのためでなく / たった一人で生まれたため / 今まさに その意味を理解したため」
by 小原眞紀子
戸
戸をたたく
くりかえし
とをたたく
きみがでてきて
手をたたく
くりかえし
てをたたく
こどもでてきて
地をたたく
くりかえし
ちをたたく
おとこでてきて
田をたたく
まばたきしながら
たをたたく
おんなでてきて
つをつかむ
ノッカーの
ッがつかまれて
のかのかと
?がでてきて
といただす
よいとおもっているのか
わるいとはおもわないのか
すんません
あやまりにいく
とをたたく
他人がいるから
戸をたたく
像
あなたが言うなら
僕はそうする
盾をみがいて
三日三晩みがいて
吸いこまれる
水鏡もかくや
左腕を伸ばして
池を持ちあげる
僕がおぼれている
あなたに
背を向けながら
近づいてゆく
あなたは絶対だから
あなたは生だから
死でもあるから
左腕の長さで
僕は息をする
一から七まで
後ずさりしては
立ちどまる
あなたはそこにいるから
たしかに映っているから
もう一度
一から七まで
雲がきれて
陽が射すまで
あなたの頭を
取りまく蛇たちを
右腕の剣が捉えるところまで
傾
世の中はまちがっている
けんりょくしゃははらぐろく
やくにんはしふくをこやし
かねもちはさらにかねをふやし
まずしいものはやまいにたおれる
世の中はまちがっている
僕のきふはひさいちにとどかず
僕がとうひょうしたしちょうはらくせん
僕のさけびでぎじどうはゆるがず
僕がかえないにんてんどーのかぶかぼうとう
世の中はまちがっている
僕の言葉を君は曲解し
僕の手紙を送り返してきた
メールでなしに
ほとんど初めて書いた手紙を
これは手紙でなく葉書っていうのよと
どうでもいいメモまでつけて
君はまちがっている
僕が君に言いたいことは
僕のためでなく
君のため
世界の摂理としてあるべきこと
君も世の中もまがっている
僕は鋏を持ってきて
君を世の中から切り抜いて
角度を直しておこうと思う
僕を仰ぎ見られるように
僕の声に耳を傾けるように
僕が君をいつも見守れるように
写真 星隆弘
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* 連作詩篇『ここから月まで』は毎月05日に更新されます。
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