なまめかしき夜
夢枕獏
なまめかしい夜だよ
おわあ
朔太郎の猫がなく
みどり色の
神経繊維でできた猫が
ぼくを捜して
路地を歩いてくる
おわあ
ぼくは
青い微熱を発しながら
布団のなかで
人の貌した魚に
ゆっくりと手足を
喰われている最中なのだ
天使のやつが
ひとつ
ふたつ
蠅のように
ぼくの頭上を舞いながら
なやましい溜め息など
ぼくに吹きかけてくるのも
眼を閉じているから
それがよく見えるのだ
おわあ
この家の主人は病気です
おわあ
この家の主人は屍体です
おわあ
いつの間にか
ぼくも口をあけて
あなたのことをないている
おわあ・・・・
おわあ・・・・
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■ 予測できない天災に備えておきませうね ■