金井純さんのBOOKレビュー『絵のある本のはなし』『No.018 夕闇の川のざくろ』をアップしましたぁ。江國香織さんの小説に守屋恵子さんの絵を配した本です。70ページほどの薄い本ですが、傑作です。不肖・石川が、江國さんの小説のファンだからでもありますが、編集者ですからそれなりの理由もあるのです。初期の頃の江國さんは、小説技巧面では決して上手い作家ではなかった。しかし日本では珍しく、その観念的主題が際立った作家です。江國さんは彼女が抱える観念に導かれるように技巧的作家に、流行作家になっていった。これはどの作家にとっても理想的な道行きだと思います。
『夕闇の川のざくろ』は、語り手の私としおんという女性の物語です。しおんは美しい女性ですが、自分のことを嘘つきで醜いと言います。普通の物語では外面は醜いけれど心は美しい女性を設定するのが一般的です。外面が美しくて心が醜い女性は、いわゆる悪女といふことになる。しかししおんはそういった女性ではありません。江國さんの倒置的設定、つまりしおんの外面的美しさと醜い内面といふ自己認識は、江國さんの観念的思想によって支えられている。
そのあたりを金井さんは、『私たちが日常、醜いと感じる人の有り様とは、孤独に耐えられず、似た者同士でつるんでいる姿だ。・・・低いところで暮らしている彼らは、互いに頭ひとつでも抜きん出ることはない。・・・どんな形であれ、高い位置にあるものを醜いと呼び、それは美しいと同義である。だから、しおんは孤独であり、孤独であることが美しいことと同義である。・・・しおんは「孤独」それそのものであり、ならばその恋人とは「不可能な愛」そのものだ』と批評しておられます。
江國さんの物語には、本質的に男が存在しないやうなところがあります。もちろん登場人物としては存在するのですが、それは現実の男とは少しズレている。金井さんが『不可能な愛』と呼んでおられるとおりです。その代わり、江國さんの小説では、しばしば女の海のやうな世界が展開される。日本で最もエクリチュール・フェミニンと呼べる小説世界を築いている作家は江國さんでしょうね。
■ 金井純 BOOKレビュー『絵のある本のはなし』『No.018 夕闇の川のざくろ』 ■