露津まりいさんの新連載サスペンス小説『香獣』(第03回)をアップしましたぁ。露津さんの新連載小説第三弾です。今回は、恐らく物語のキーマンの一人になるだろう十樹さんが登場します。『老人は畳を指差していた。「ここにおろうよ」専務に引きずられるように座敷に入ってきたのは、髪が長く、痩せた若い男だった。二十三、四歳だろうか、若いというより子供じみてもある』といふ描写です。この十樹さん、人並み外れた嗅覚の持ち主らしひです。さて、香獣とは誰なのか、なんなのか、露津さんらしひ伏線が張りが始まりました。
昨日の編集後記でも書きましたが、小説文学のメインストリームは現世の矛盾・混乱を描くことにあります。この矛盾や混乱は、原則的に決して解消し得ないものです。だからこそ小説などといふ、まだるっこしく複雑な形式が要請される。論理などでスッキリ解決できるなら、何人もの登場人物を設定して、現世と相似形の物語空間を作る必要などないわけです。
ただもちろん小説文学では矛盾・混乱を描くだけでは不十分です。最終的には矛盾・混乱の上位審級にある調和を描かねばならない。この調和はキリスト教文化では救いと呼んでもいいのですが、非キリスト教文化を含めれば、矛盾・混乱の上位審級にある、高次認識としての調和と呼んだ方が良いような気がします。
純文学と呼ばれる小説文学は、ありきたりな救いなどを排して、非常に到達しにくい調和を描く文学だと思います。矛盾・混乱をそっくりそのまま引き受けた上で調和を描くのですからハードルが高くなるわけです。この定義を前提とすれば、サスペンスだから、推理モノだから、SFだから純文学ではなく大衆文学だといふ区分けは成り立たなくなります。文学金魚がときおり制度化した純文学に首をかしげてしまふのは、そういう理由からでありまふ。
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■ 露津まりい 新連載サスペンス小説『香獣』(第03回) テキスト版 ■