北村匡平さんの映画批評『創造的映画のポイエティーク』『No.002 ある不自由さと重力の海―石井裕也『舟を編む』』をアップしましたぁ。原作は本屋大賞を受賞した三浦しをんさんの同名小説です。石井裕也監督によって映画化され、日本アカデミー最優秀作品を含む6部門を受賞しました。国語辞典『大渡海』が完成するまでの人間模様を描いた作品です。映画では主人公の編集者・馬蹄光也を松田龍平さんが演じています。
今回、北村さんは小津映画と『舟を編む』を徹底比較して論じておられます。北村さんは『一つの作品を自律した映像テクストとして観ることは不可能だからである。・・・僕はここで、僕自身の映画経験(コンテクスト)にこだわって石井裕也という作家が創る映像(テクスト)を眺めてみたい。・・・僕は2人の映画をフォルマリズム的に、つまりそれぞれの映画の〈かたち〉にこだわって両者の類似点と相異点を分析していきたい』と書いておられます。映画には文法(型)があります。この文法、崩そうとしてもなかなか崩せない。観客にカメラの存在を感じさせない撮り方は、自ずから限られてくるんですね。もちろんあえて文法を崩すことで観客に不安や異和感を伝達する技法もあります。
実際、北村さんによって小津映画と『舟を編む』(石井裕也監督の手法)の類似点と相違点が次々に明らかにされていきます。例えば小津映画によく現れるローポジションからの撮影(「畳ショット」と呼ばれているそうです)方法について、『舟を編む』でも『松田龍平を捉えるカメラはローポジションに固定されている。・・・小津の技法の引用は、日本映画史に輝く巨匠へのオマージュなのだろうか。・・・おそらくどちらでもなく、石井が小津のフィルムを仄めかしたのは、小津映画を意識化、あるいは対照化させることで自分の映画の特異性を際立たせるためだったのではないだろうか』と石井さんは批評しておられます。プロの映画批評家はこういふ風に映画を分析されるのですね。不肖・石川、勉強になりましたですぅ。
ところで石川は、学生時代に名古屋駅で笠智衆さんがひょこひょこ歩いておられるのを目撃したことがあります。どっかで見たことある人だな-、知り合いだっけなーと考えて、あ、笠智衆ぢゃん!とやうやく思い当たったのであります。笠智さん、ご機嫌がよかったのか柔和な顔で歩いておられました。石川、笠智さんと原節子さんの『晩春』が好きで、といふか、あの映画の笠智さんの台詞を真似するのが大好きなのです。このお二人が、原『お父様、再婚なさるの?まあいやらしい』、笠『お父さんは、いや、らしいんだ。だから、お前も、早く、結婚しなさい』といった会話を交わすのです。微笑を浮かべたまま、笠智さんがブツ切りで台詞を棒読みするシーンは妙に印象に残ったなぁ。やっぱ笠智さんは名優で『晩春』は傑作なんでしょうね。
■ 北村匡平 映画批評『創造的映画のポイエティーク』『No.002 ある不自由さと重力の海―石井裕也『舟を編む』』 ■