小原眞紀子さんの『文学とセクシュアリティー 現代に読む源氏物語』(第023回)をアップしましたぁ。『源氏物語』第32帖『梅枝』(うめがえ)の巻の読解です。香と仮名書が重要な小道具として登場します。古来、雅な巻として知られますが、要は宮廷的優雅さが表現された巻として捉えられていて、とりたてて重要さを認められて来なかった巻です。しかし小原さんの読解は見事です。なぜ香と仮名書が登場したのかを限界まで読み解いておられます。
小原さんは香について、それは『「物体」ではなく、それが生み出す香の空間 = 極楽浄土のメタファーという抽象的なもの、「観念」そのものです。・・・香りの趣味や薫き方によって人品そのものがうかがわれる。・・・源氏物語のテーマが仏教思想に根ざしていることは、宇治十帖では特に明確に示されますが、そこに「薫」と「匂」の名がある理由もまた明確です。人の本性とは「香」るものなのです』と論じておられます。
また源氏は明石の姫君の入内道具を納めた箱の中に、薫物だけでなく、自ら仮名書手本を編纂して入れます。それを若い貴族たちが見たがる。その理由を小原さんは、『源氏が愛娘に贈った最高のものは、目に見えるお道具、どのような宝物よりも、まず薫香と仮名手本だった、ということです。・・・その箱には源氏の選で、人の本性=エッセンスであるところの墨跡が収められている。それは最大の権力者、源氏の本音の評価である。だからこそ若い人たちが、どんな宝をおいてでも見たがった』と書いておられます。
このようなシャープな読解を、石川は今まで読んだ記憶がありません。皆さん古文の知識を援用しておられますが、千年前に書かれた『源氏物語』が、現代的基準で奇妙に歪められて読み解かれていると感じることの方が多かったです。しかし小原さんの読解は無理がなく、しかも明確な整合性を保っています。『文学とセクシュアリティ』は、今までにない優れた『源氏物語』読解になるのではないかと思います。
■ 小原眞紀子 『文学とセクシュアリティー 現代に読む源氏物語』(第023回) ■