夏恒例のガイド特集、「サブジャンル別 SF ガイド50選」ということだが、このサブジャンルというのがなかなかである。「宇宙での冒険と戦い」を『宇宙SF』、「人ならぬものとの触れあい」を『異星人/アンドロイド』とジャンル分けするのは、まあ普通として、「来るべき世界の破滅」について描いたものを『ディストピア』、「不明な真実、歪む認識」を与えるものを『SFミステリ』とするというのは、ほとんどネタばれというか、すでにテーマが要約されている。
そして「徹夜必至のエンターテインメント」を『大作・シリーズ』、「心震わす出会いと別れ」を『感動/ハートウォーミング』とするとなると、望ましい感想を前もってまとめてあるという意味で、キャッチコピーと変わらない。少なくとも「今、何を読んでるの?」と聞かれて、「『SFミステリ』だよ」とか「『宇宙SF』が好きでね」と答えることはあったとしても、「SF。『感動/ハートウォーミング』だけど、何か?」とか言うことは、まずあるまい。
さらに自分の好みがいわゆる『SF ファンタジイ』系であると認識していたとして、それが「夢の世界、魔の領域」を描いたものであると定義付けされているとか、好きな作家が『ユーモア SF』作家であり、「コミカル、シニカル、ナンセンス」たらんとしているのだ、と知らされるのは興ざめというものではないだろうか。もちろん、それらは特集でのガイドと書評の発注に必要となる、便宜上のものに過ぎないことはわかっているのだが。
同じようなサブジャンル分けは、時代小説やミステリーで可能だろう。「史実至上主義本格歴史小説」に「そこらの現代人がちょんまげ結ってるだけのなんちゃって時代小説」、いやミステリーではもとより「本格」というジャンルがあり、その定義をめぐって議論もなされている。その対概念となるものに「倒叙」があり、これはいわば心理小説に近い。
ポルノでも「団地妻もの」や「熟女もの」といったサブジャンルがあって、これは選択の際に多いに機能する。しかし一方で、恋愛小説において「病死・純愛もの」とか「歳の差もの」とか、おおっぴらに嗜好をジャンル分けされているのは、あまり見ない。純文学においても「伝統私小説系」、「実験小説または SF からのかっぱらい系」、「作者の年齢肩書きルックス売りもの系」など分類すると、芥川賞がそれらのローテーションでめぐっていることがわかりやすくなると思うけど。
思うに、メインのジャンルを規定しているのはやはり、あくまでも「形式」だ。サブジャンルというのは、そこから内容に踏み込んだ定義付けを行うことになるわけで、それで興味深いことも、妙なことも起こってくる。小説の内容に踏み込めば、そこにはいきなり作者がいるはずだからだ。恋愛小説も純文学も、もしその名に値するものなら、さらなるジャンル分けは作者の思想に阻まれ、できないはずだ。思想というのは表があれば裏があり、その表裏を返しながら確立され、また読み解かれてもいくものだからである。
SF 小説のサブジャンル分けが何だかちょっと妙なあんばいになって、ポルノの仕分けほどうまくいかないのは、だからそれが「文学」である印にほかならない。
水野翼
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■