
ピー子 『新潮』2026年9月号。特集が「令和演劇ニューウェーブ」。新潮では初の演劇大特集なんだって。対談が岡田利規×大石恵美「百年後も上演される戯曲を書く」、野田秀樹×蓮見翔「演劇をまた流行らせるために」。
ヨミ太 そう。編集長も「流行ってないのに偉そうにするのはやめましょうよ」という蓮見さんの言葉をきっかけに組んだって書いてる。岡田利規はチェルフィッチュの現代口語演劇の旗手、大石恵美はダダルズで岸田國士戯曲賞を取った新鋭。野田秀樹はNODA・MAPの巨匠、蓮見翔はダウ90000で笑いの最前線を走る人。世代を超えて「戯曲を残す」ことや「劇場体験の未来」を語る対談、刺激的だよ。
ピー子 エッセイ「私はなぜ演劇を選んだか」がたくさん。安藤奎、池田亮、石黒麻衣、伊藤全記、尾崎優人、カゲヤマ気象台、笠木泉……若手劇団の人たちがずらり。特別寄稿に角田光代「私はただのファンですが」、間宮改衣、相馬千秋。評論は山崎健太「問い直される「演劇の条件」──現代日本演劇の十年を考える」。
ヨミ太 角田光代は直木賞作家で、演劇ファンとしての視点が新鮮そう。間宮改衣は最近注目の書き手、相馬千秋は国際的なフェスティバルのキュレーター。演劇の「食べていけない」現実から「食らった」衝撃、身体ひとつでできる可能性まで、多角的に現在地を映してる。『新潮』が文芸の枠を超えて、同時代の表現をしっかり拾う姿勢がいいね。
ピー子 創作は町屋良平「0【ラブ】」、鈴木結生「ビンゴ!」(後篇・170枚)。町屋さんは夫に頼まれて学生コーチと脳内恋愛する話って、リアリティの鋭さがありそう。
ヨミ太 町屋良平は芥川賞作家で、日常の微細なずれを独特の文体で捉える人。鈴木結生の連作は、友基とJLbの間で揺れる編美の心が明かされ、もうひとつの物語が動き出す後篇。ボリュームもたっぷりで、連載のクライマックス感がある。
ピー子 連載小説は多和田葉子「幻の熱帯雨林」(第2回)、小山田浩子「からの旅 6」(下・完)、村田喜代子「その後の桜」(第8回)、上田岳弘「痴れ者」(第9回)、千葉雅也「マイネームイズフューチャー」(第14回)。

ヨミ太 そして辻原登「山吹散るか ほろほろと」(第13回・完)。2025年8月号から始まった連載が、ここで完結する。
辻原登は1945年和歌山県印南町生まれ。本名・村上博。十代から小説を書き、文化学院で学び、中国貿易の仕事をしながら執筆を続け、1985年「犬かけて」でデビュー。1990年「村の名前」で芥川賞を受賞して以来、読売文学賞『翔べ麒麟』、谷崎潤一郎賞『遊動亭円木』、川端康成文学賞『枯葉の中の青い炎』、大佛次郎賞『花はさくら木』、毎日芸術賞『許されざる者』、芸術選奨『闇の奥』、司馬遼太郎賞『韃靼の馬』、伊藤整文学賞『冬の旅』など、主要文学賞をほぼ制覇した物語の魔術師。日本芸術院会員、文化功労者で、神奈川近代文学館の前館長も務めた重鎮。
ピー子 京都が舞台の一大ロマンだったんだよね。
ヨミ太 そう。第1回では、同志社大学神学部の二回生・室谷亮が礼拝堂で英文学科の女子学生・石原翠に一目惚れし、半ばストーカーめいた片思いを募らせるところから始まった。アウグスティヌスの「はれやかな愛」と「暗い情欲」の相克を抱えながら、信仰と文学、京都の風景が交錯する。途中、堀山恵子や学園の理事長、愛人とその娘など人物が広がり、五山送り火などを背景に物語が深まっていった。第13回で完結……約1年にわたる連載の締めくくりは、辻原文学らしい豊饒で緻密な物語性がどう結実するのか、本当に待ち遠しい。芭蕉の句「ほろほろと山吹散るか滝の音」を思わせるタイトル通り、春の散り際の美しさと余韻が、最終回にどう響くか。
ピー子 完結って、単行本化も楽しみだね。
他にも追悼・庄司薫に塩野七生「われら、「一中崩れ」の面々」。連載評論に伊藤亜紗「未来の身体」、梯久美子、大澤信亮。対談は池澤夏樹×田口耕平「教室で読む文学」第7回で梶井基次郎「檸檬」。
ヨミ太 書評も長嶋有、柄谷行人、仁科斂の新刊を有賀未来、國分功一郎、古川真人が。リレーコラムやエッセイも充実してる。
ピー子 演劇特集で同時代の身体表現を問い、辻原登の京都ロマンが静かに完結する……『新潮』らしい厚みのある号だね。
ヨミ太 だね。じっくり味わいたい。
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