
ピー子 『オール讀物』2026年9・10月号。第175回直木賞発表号だね。受賞作は朝倉かすみ『けんぐゎい』。抄録も載ってるし、自伝エッセイ「三十にして立つ」、桐野夏生さんとの受賞記念対談「タイトルはOUT」もある。選評は浅田次郎、角田光代、京極夏彦、桐野夏生、辻村深月、林真理子、三浦しをん、宮部みゆき、米澤穂信と、直木賞らしい豪華メンバー。
ヨミ太 朝倉かすみは北海道を拠点に、日常の機微や人間関係を軽やかに、でも芯のある筆致で描いてきた作家だよね。直木賞はエンターテインメントの頂点だから、この号はまずそこから読む人が多そう。ブックガイドは瀧井朝世さんの「挑戦を続ける、ぶれない作家」。桐野夏生さんは今回で選考委員を退任するらしいから、対談も感慨深そう。
ピー子 創作も厚い。「めくるめく世界に酔う!」で夢枕獏「哭きいさちる神 おくのほそみち」完結。旅の父子が地の底から哭く神の復活を目撃する、という夢枕さんらしい壮大な話。髙見澤俊彦「イモータル・ブレイン」は超AIによる全世界テロで、人類の命運が双子に託される。THE ALFEEの髙見澤さんが書くSFサスペンス、音楽とは違う顔が見えるかも。
ヨミ太 豪華競作「ビールで乾杯!」がいいね。恩田陸「酒の上での話」、角田光代「乾杯を何度でも」、川上弘美「午後六時の儀式」。恩田陸は複雑な構成と意外性で知られるミステリ・ファンタジーの書き手、角田光代は家族や女性の人生を丁寧に描く直木賞作家、川上弘美は『蛇を踏む』の芥川賞以来、日常の不思議を静かに捉える人。ビアホールやジョッキを舞台に三人の個性がどう出るか。

ピー子 瀬尾まいこ「そのロープ、飛び越えて」は小学生男子の謎の行動を占い師ルイーズが考える話。瀬尾さんは『そして、バトンは渡された』などで親子や成長を温かく描く作家だよね。時代小説も充実。砂原浩太朗「三たびの春 藩邸差配役日日控」、赤神諒「直き虎 ストレート・タイガー」、宮城谷昌光「衛青と霍去病」、永井紗耶子「妲己のお百と五人の男」完結。宮城谷昌光は中国古代史を骨太に書く大家、永井紗耶子は歴史の悪女や周縁を現代的な視点で掘る人。
ヨミ太 特集「警察ミステリー最前線」がこの号のもう一つの軸。天童荒太「ゆがんだ世界 ジェンダー・クライム2」完結、大山誠一郎「少年の聴いた声 赤い博物館」、方丈貴恵「人形寺の怪 オカルト警視」、降田天「ファミリータイム 休職キャリア警察官」、荒木あかね「咎人の祈り 浦上署強行犯係」、赤川次郎「ポチの駆け落ち 幽霊シリーズ」、米澤穂信「左の頰 葛警部シリーズ」。天童荒太は社会の歪みを真正面から問う作家、赤川次郎は国民的な軽妙ミステリの大ベテラン、米澤穂信は本格と青春のバランスが巧みな人。警察ものをこれだけ並べると、秋の夜長にぴったり。
ピー子 連載も、ね。石田衣良「目白買い取りアーサー IWGP23」新章スタート、誉田哲也「妖の群」、堂場瞬一「トップ・スキャンダル」、辻村七子「オートクチュールD ピーコックグリーン・スーツ」。石田衣良は池袋ウエストゲートパークで知られる都市小説の書き手、誉田哲也は警察や闇社会をリアルに描く人、堂場瞬一はスポーツものから社会派まで幅広い。
ヨミ太 コラム&エッセイもいつもの顔ぶれ。中野京子のゴヤ、久世番子のよちよち文藝部、伊藤理佐、光浦靖子のカナダ、服藤恵三の科学捜査、春日太一の映画、丸山ゴンザレス、酒井順子の女子校文学。追悼グラビアが「不世出のミステリ作家 東野圭吾さん」。タイミング的に、この号の空気を少し重く、敬意を込めて包んでる。
ピー子 直木賞発表とビール競作と警察ミステリが同時に乗ってる、いかにも『オール讀物』らしい号だね。純文学誌とは違う、物語の快楽を正面から楽しむ感じ。銀座のビアホールを思い浮かべながら、ページをめくりたい。
ヨミ太 受賞作の朝倉かすみさんから、夢枕獏の完結、赤川次郎や米澤穂信まで、読みどころが多すぎて秋が足りない。次の直木賞まで、この号を何度か開くことになりそう。
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