会津戦争についての特集である。なんでまた急に、と思ったら、2013年の NHK 大河ドラマ「八重の桜」を観るための基礎知識ということだ。つまり小説とは、とりあえず関係がない。
けれども、これはむしろ「小説が必要」かも、と思う。ジェイ・ノベルさんがどのような経緯や事情で、NHK 大河タイアップ特集企画を組むことになったかわからないが、ドラマの視聴者のことを思うとたしかに基礎知識の学習を要し、またドラマの展開や数字のことを思うと基礎知識を教育するだけでは、とても心もとない。小説的なキャラクターの魅力や、それを取り上げる小説的な意味づけが必要だ。
まず新島八重という女主人公だが、新島襄の奥さんだった人だという。この時点で、かなり不安だ。「誰それの奥さんだった人」というだけでテレビをずっと眺めていられるほど、私たちはヒマではない。しかもその新島襄という旦那さんのことも、「なんか教科書に出てたかも」というぐらいにしか知らないのだ。
新島襄は同志社大学の設立者で、キリスト教と欧米化(!)されたレディ・ファーストの精神でもって、猛婦と呼ばれた八重と仲睦まじく暮らしたという。八重は決して見目麗しくはなかったが、その行動が「ハンサム」であるから自分には十分なのだ、などと言っていた…。うーん、これでキャラ設定すると、ヴィジュアル・コンテンツとしてすでにどうか。もし行動や精神が本当に「ハンサム」なら、何らかのかたちで外面的にも現われるはずで、そうと信じ、そこを捉えるのがドラマだろう。
そして猛婦と呼ばれるような女性を現代的としてシンパシーを感じるという時代も、とうに過ぎている。その行動は、現代ではフツーでも、当時はたしかに並外れていたはずで、私たちを説得するのはその行動そのものではなく、その行動を取る理由やバックグラウンドの切実さである。女性が出て来てタンカを切りさえすれば、朝の連ドラ「カーネーション」ばりの大ヒットになるというものではないだろう。
まあ、余計なお世話かもしれないが、ジェイ・ノベルに掲載された基礎知識というか、企画資料のようなものを見れば見るほど、ドラマの先行きに何となく不安を感じるというか、いまいちピントが合ってこない。
そもそも特集の会津戦争は、やたら血なまぐさい。暗い。後ろ向きである。強いて言えば、必敗の美学だが、それ NHK が日曜の夕飯時に流すもんじゃない。だいたい女性を出してきた時点で、必敗の美学も消えてなくなる。女性というのは、なりふり構わず勝ちにいく動物で、いつでもその生命力と向日性がドラマを保たせてきたのだ。
もちろん女主人公についてのこれらバラバラな要素が、ある焦点を結び、「カーネーション」の一貫して服を作り続けたヒロインぐらいの像を結ぶ可能性もある。それはもっぱら脚本、つまりはその人生を読み解き、核をつかみ取るという小説的な力にかかってくる。それがあれば、信長や秀吉以外のマイナーな歴史の断片であっても、ぐいぐい視聴者を引き込んでゆくことになる。あのひどかった「平清盛」の後だ。期待したいものだ。
池田浩
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■