■松岡里奈著『スーパーヒーローズ』■
主人公・二三(ふみ)は最初から女だったわけではない。幼い彼女を強烈に惹きつけたのは親戚のお兄ちゃんがプレイするテレビゲームの〝スーパーヒーローズ〟の戦士たちだった。画面の中にしか存在せず、一心不乱に純粋な暴力を使って殴り合うアニメキャラのヒーローズたちに二三の心は釘付けだった。しかし二三は女でありそれをお兄ちゃんの性的イタズラで知ることになる。
女になるとはどういうことか。二三は小学生の時、ガキ大将の松田が同級生を殴るのを止めた。「「何でお前が泣くんだよ・・・・・・」お前には関係ないだろ。言いながら、松田の表情からは毒気が少し抜かれていた」「私は何も言わずに泣く。静かな興奮が止まらない。私は今、飛んだのだ。松田のように大ぶりな、腕を使った方法とは違う方法で。・・・・・・私は一生この迸る様な悦びを追いかけ、これの為に死のうと衝動的に決意していた。それは死ぬまで続く私の呪いだった」。
二三は女になることを決めた。だがスーパーヒーローズへの憧れは、届かないイデアへの希求が失われることはない。思春期の二三の心をセックスが捉える。セックスすればスーパーヒーローズに届くのではないか、出会えるのではないか。失望の連続の果てに二三はアメリカに留学しそこで就職する。映画で見ただけの美しい男たちがいる国だ。若く美しい二三は男たちを虜にする。が、それでも満たされない。理想の男は高校生の時に交換留学生として学校に来ていたアメリカ人のスレンダーで美しかったイベットに変わる。イベットは性別がよくわからないモナリザになる。そしてアメリカでルームメイトになった冴えない中年男、ゲイブの息子のジョニーが二三の心を鷲づかみにする。無関心で残酷な美少年を二三は神とも悪魔とも崇める。
もうセックスでは満たされない。二三が求めているのは実在の男ではない、一つの偶像(イデア)だ。それはどうしたら得られるのだろうか・・・。金魚屋新人賞を受賞し、選考委員の芥川賞作家、辻原登氏が『日本純文学史上に残るだろう私小説の傑作』と評価した純文学私小説の傑作!
336ページ
装幀 伊達のび太
ISBN978-4-905221-11-1
定価1,700円(税込)
一九九〇年生まれ。早稲田大学法学部卒業。金魚屋新人賞受賞。辻原登氏に絶賛される。
作家の体験を赤裸々に描いた私小説は諸外国にはない日本独自の小説形態である。そのほとんどが短編中編だが『スーパーヒーローズ』は500枚の長編小説。主人公・二三(ふみ)の幼少時代から大人になるまでが描き出されている。彼女が追い求めるのはテレビゲームの〝スーパーヒーローズ〟たち。ひたすら殴り合う筋肉隆々の男たちだが、二三は女になるのを拒否しているわけではない。彼女はLGBTでもフェミニストでもない。女であることが男のような肉体的強さ、敏捷さを与えないとわかると女であることを受け入れなおかつ〝スーパーヒーローズ〟を追い求める。彼らは未知の存在だから二三は思春期になるとセックスに憧れ実践し失望する。やがて求めても求めても得られないスーパーヒーローズたちは様々に形を変えてゆく。それは偶然出合った一人のアメリカ人の美少年に集約される。美しいだけの少年。二三に無関心の年下の男の子だからその少年が二三のイデアになる。しかしそれも幻想。二三の希求は地上を離れ天上に向かう。その果ては・・・。日本独自の私小説でありながら秘密の暴露など一切なく、ひたすらにイデアを追い求める一人の女性の純粋な魂の軌跡!
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