ラモーナ・ツァラヌさんの連作小説『蓮・十二時』(第05回)[連作小説『蓮』その一]をアップしましたぁ。今回で『蓮・十二時』は最終回です。アンナさん、無事に元の世界に戻ってこられましたね。よかったよかった。ラモーナさんの小説にははっきりとしたテーマがありますがエンタメ要素たっぷりです。石川、その方がいいと思います。
21世紀初頭の現代社会が能動的受動文化になっているのは確かだと思います。受動メディアの代表はテレビで、これがインターネット登場までの大きな情報受容ツールでした。しかし現代はネットがある。情報の精度にはばらつきがありますが、享受者はコンテンツを選んで情報を受容できる。コンテンツは動画と音声ですから受動的情報受容なのですが、テレビのように一方通行ではない。需要者がコンテンツ(情報)を好きに(能動的に)選べるのです。
しかし小説や詩といった文字媒体は一貫して能動的メディアです。まあ言ってみれば読者に〝読書という労働〟をお願いすることになる。しかもYouTubeなどは無料ですが、お金を払ってくださいとお願いすることになります。もちろんこれは身も蓋もない一面的言い方ですが、本にはそういった側面が抜き難くあります。ヴィジュアルエンタメコンテンツの素材として大衆文学はこれからも不可欠でしょうけど、純文学はどうかな。多くの人が無料の能動的受動文化を享受する社会では(これから加速度的に進歩してゆくはずです)かなり厳しい状況に追い込まれると考えて間違いないでしょうね。
大篠夏彦さんが芥川賞系純文学小説について「リンゴとミカンを絶対間違わないようなセグメントがなされている」といった意味のことを書いておられました。それは本当のことで、ティピカルな芥川賞系純文学小説は最初の5ページくらいを読めばだいたい展開がわかる。まず間違いなく何も事件は起こらない。会話文が少なく作家か主人公(曖昧な場合が多いです)によって内面化された現実世界と他者との交流が延々描かれる。で、そのまま何も起こらず小説は終わる。
こういった小説を読むのは、まあはっきり言えば座禅の修行くらい退屈で苦痛です。しかし芥川賞という権威、つまり日本で一番優れた最も〝純〟な小説、つまり純文学だというスタンプが押してあるのでまだ読者が離れない。しかし虚心坦懐に言えばぜんぜん優れた小説ではない。芥川賞系純文学というセグメントがされているだけ。この魔法というかまやかし、いつまで続くのやら。永久不滅ではないと石川は思います。
言い添えておくと、石川は純文学というものを否定しているのではぜんぜんありません。本の質を売れる売れない、面白い面白くないで判断するのはやはり乱暴です。ただ純文学というものの定義を再構築しないとマズイ時期になっていると思います。芥川賞系〝リンゴとミカンセグメント〟の純文学小説は明らかな癖のある文体によるセグメントであり小説内容や構造的新しさをほとんど含んでいません。だいたいですねぇ、日本では純文学と大衆文学の制度的区割りがあるわけですが、大衆文学はかなりはっきり定義できますが、純文学は定義されたことがないんです。文藝春秋社芥川賞選考母胎による実に曖昧な定義に文学界全体が従っている、あるいは大政翼賛しているような感じです。
小説における純文学は、絶対に文体の問題ではありません。小説というものは、どんな場合でも作家のテーマによって作られる。それが核となり、テーマに沿った登場人物、社会、時間が設定され、これらの要素を効率的かつ的確に表現するためにどういう文体にするかという選択があります。要するに文体重視の純文学は、過去の純文学の傑作(漱石の『心』などたいていシリアス小説ですね)のテーマ(作家の表現の核心)ではなく、その結果というか表皮をなぞって純文学の顔付きをした小説になっているだけのことが多いのです。つまり文体を除けば作家のテーマは薄っぺらい。だから芥川賞受賞で力尽きる作家が多い。
小説にとって一番重要なのは作家のテーマです。それがしっかりしていれば、登場人物、社会、時間、文体という肉は自ずから生成され、有機的に関連するはずです。この作家のテーマにとって、決定的事件が起こる、エンタメ要素があるといったことは従属的要素に過ぎません。純文学は読んでて面白くないはずだといった通念がそこはかとなくありますが、これはホントに笑止。あまりにも幼稚な文学の捉え方だと思います。
ラモーナさんは今のところほぼすべての小説がパラレルワールド小説です。そこに作家のテーマがあるでしょうね。テーマがある作家は強い。ラモーナさんの小説は来月以降も文学金魚に掲載予定です。
■ ラモーナ・ツァラヌ連作小説『蓮・十二時』(第05回)[連作小説『蓮』その一]縦書版 ■
■ ラモーナ・ツァラヌ連作小説『蓮・十二時』(第05回)[連作小説『蓮』その一]横書版 ■
■ 金魚屋 BOOK Café ■
■ 金魚屋 BOOK SHOP ■