世界は変わりつつある。最初の変化はどこに現れるのか。社会か、経済か。しかし詩の想念こそがそれをいち早く捉え得る。直観によって。今、出現しているものはわずかだが、見紛うことはない。Currency。時の流れがかたちづくる、自然そのものに似た想念の流れ。抽象であり具象であるもの。詩でしか捉え得ない流れをもって、世界の見方を創出する。小原眞紀子の新・連作詩篇。
by 小原眞紀子
鳩
札を折って
端はくちばし
もう一度折って
翼が生える
空は青く
高く、さらに高く
溶け込んでいく
一千万円分の札束
ちょっと値のはる
三千万円分の選良
血統書つきの
六千万円の一羽
果実のような島から
放たれる
弾丸のように
一番で戻って来い
一億になって
男たちは見上げ
口を開いたまま
女たちは俯いて
小屋を掃除する
最も美しいギャンブルは
信じる心が凝ったもの
掛けるのは金でなく
心そのもの
敗北は喪失でなく
崩壊である
世界の
だから世界は
軌跡で覆われる
糸に巻かれ
大陸から
大陸へ
そして戻って来る
予言の日に
謎が解かれ
空に光あふれ
神が舞い降りる
信じる者のもとへ
一番で戻って来い
一億になって
最も美しいギャンブルは
雲の後ろに隠れて
誰にも見えないもの
抜きつ抜かれつも
手に汗握るもなく
時は過ぎ
少し老いた姿で
見出すもの
勝利は歓喜ではなく
必然である
草臥れた翼を休めて
空で出会ったものを
思い出している
女たちは察する
小さな目の奥の恐怖を
男たちは自身の
恐怖に何も考えられず
一番で戻って来い
一億になって
最も美しいギャンブルは
世界を見出すもの
ぐるぐる巻きの
因果をほどいて
丸のままの
世界をこの手に
するとその手は
青い翼となって
はばたく
札びら切って
空に舞い
誰かのほっぺた
ひっぱたく
現世の夢は遠く
遠く、小さくなる
Googleマップの点になる
天へ
そして信じている
糸巻きの
軌跡を描きながら
帰還する奇跡を
地上で
最も美しいギャンブルを
男たちがしている
掌に包んだ
愛おしいものと
ともに羽ばたき
墜落する
一番を目指して
行方知れず
帰途についたら
襲われる
男たちは待っている
自分と同じ
小さな脳味噌のものを
男たちは信じている
戻るところがあることを
戻ればたぶん
女たちに褒められることを
* 連作詩篇『Currency』は毎月09日に更新されます。
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