「僕が泣くのは痛みのためでなく / たった一人で生まれたため / 今まさに その意味を理解したため」
by 小原眞紀子
線
線は涼しく横たわっている
昨日と今日の間に
大通りの真ん中に
買ったばかりのノートにも
当然そこに存在している
たいていは直線として
決意のほどを滲ませるが
あっさりと筋は曲がる
少し熱っぽく
こすられたスプーンのように
やはり横たわっている
君と僕の間に
僕はちらちら見やり
腕組みして考える
そこに線があるから
越えようとする
幅跳びや縄跳びで
鍛えられてきたのだ
呼びかけると君は振り向き
怪訝そうに見る
そこに線があるから
立ち去ろうとする
地域で格差があって
幅跳びや縄跳びは習わない
そうかと僕は納得する
ならこっちから越えればいい
君はただあっちを見ている
そこにまた線があって
僕からは見えないみたいだ
緑
僕のいた惑星の話をしよう
人々はみな種を抱えている
手のひら大の種というより
駝鳥の卵みたいな
ネットに入れて首から下げて
どこへ行くにも離さない
変わってるかい
君たちだって持っている
その平べったいのは
バッグの隙間に入るからいい
同じように
人々はいつも眺めている
そっとこすったり
ときどき押したり
卵が孵るときは
殻が透けるそうだけど
種が芽吹くときにも
表面がざわつく
台風の前触れのように
人々の心も
なま温くうごめく
あとからあとから
緑の葉が生え
見つめる目がいっぱい
森に覆われる
人々はやっと落ちついて
緑の惑星に暮らす
家の外には
枯れ木しかないのだけれど
踏
復習する
足の上げ方と下ろし方
指を曲げずに蹴りだす法
踵から地につけ
姿勢を保ち
いつも右から
ケンケンパッ
左を踏んで
素知らぬふり
踏みにじって
思い出す
すっ転んで
ケンケンパッ
踏み台にされた
あの石の角で
復習する
いわゆる歩き方
そこの僕にも
教えてあげよう
澄まして歩く
最初はそうそう
見もせず蹴って
踏んでは進む
ケンケンパッ
蹴られたらひょいと避け
明後日に蹴りかえす
踏まれたら背中に足跡をのこし
来年度は倍返し
心に誓って年を越す
写真 星隆弘
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* 連作詩篇『ここから月まで』は毎月09日に更新されます。
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