
ピー子 『新潮』2026年10月号、特集が「批評、考察、その先へ──」。いま若者のあいだで「考察ブーム」が起きてるらしいけど、文芸批評の現在地をちゃんと見つめ直す号だね。編集長も「批評の失墜が叫ばれて久しい中」って書いてるし。
ヨミ太 そうそう。核になるのは大澤信亮さん、町屋良平さん、三宅香帆さんの鼎談「文芸批評のこれまでとこれから」。大澤信亮は1976年東京生まれの文芸批評家で、2007年に「宮澤賢治の暴力」で新潮新人賞評論部門を取って、『神的批評』で三島由紀夫賞候補にもなった人。日本映画大学教授で、この号でも小林秀雄の連載を続けてる。町屋良平は1983年東京生まれ、2016年「青が破れる」で文藝賞デビュー、2019年「1R1分34秒」で芥川賞。ボクシングを描いた作品で注目された小説家が、批評も書く代表格として出てくる。三宅香帆は1994年生まれ、高知育ちの文芸評論家。京都大学で万葉集を研究してた大学院生時代に書店バイトのブログがバズってデビューし、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で新書大賞最年少受賞。三者三様のスタンスが面白いだろうね。
ピー子 対談も二つある。「クリティカル・シンキング・ナウ」が朝吹真理子さんと福尾匠さん。朝吹真理子は1984年東京生まれ、慶應義塾で近世歌舞伎を専攻したあと、「流跡」でデビュー、「きことわ」で芥川賞。言葉の手触りが独特な作家だよね。父は詩人の朝吹亮二。福尾匠は1992年生まれの哲学研究者・批評家で、ドゥルーズの『シネマ』を読み解いた『眼がスクリーンになるとき』や、最近の『非美学』でじんぶん大賞を取った人。身近な出来事さえ批評の対象になる、っていう対談らしい。
ヨミ太 もう一つの対談は岸本佐知子さんと西加奈子さんの「ミッドライフを生きぬく勇気――ミランダ・ジュライ『はいつくばって』をめぐって」。岸本佐知子は1960年神奈川生まれの翻訳家・エッセイスト。ミルハウザーやリディア・デイヴィス、ミランダ・ジュライを日本に紹介してきた人で、『ねにもつタイプ』で講談社エッセイ賞。西加奈子は1977年テヘラン生まれ、カイロと大阪で育って『さくら』でブレイク、『サラバ!』で直木賞。中年の身体とホルモンの話を、翻訳者と小説家がどう語るか。

ピー子 実践編も豪華。大島育宙さんの『VIVANT』考察、瀬戸夏子さんの吉本ばなな論、奈倉有里さんの十九世紀ロシア文学と批評、蓮實重彦さんの濱口竜介新作論……蓮實重彦って映画批評の巨匠で元東京大学総長だよね。九十歳近い映画狂人が最新作を論じるのもこの特集らしい。柳澤田実、山本浩貴(いぬのせなか座)、綿野恵太と続くし、仁科斂さんのシアター能楽レポートもある。
ヨミ太 創作の目玉は筒井康隆「ノスタルジア・ゾーン」(250枚)。1934年大阪生まれ、91歳。『時をかける少女』『パプリカ』『モナドの領域』のSF・メタフィクションの大家が、『モナドの領域』以来11年ぶりの長篇。元警視正の72歳と25歳の純愛と不審死事件が交差するらしい。これだけで号を買う価値がある。
ピー子 連載小説も充実。多和田葉子「幻の熱帯雨林」第3回。1960年東京生まれ、ドイツ在住で日本語とドイツ語の両方で書く。高村薫「マキノ」第7回は1953年大阪生まれ、『マークスの山』で直木賞の社会派サスペンスの重鎮。上田岳弘「痴れ者」第10回は1979年兵庫生まれ、IT企業役員と作家の兼業で『ニムロッド』で芥川賞。千葉雅也「マイネームイズフューチャー」第15回・第二部完は1978年栃木生まれの哲学者・作家。ドゥルーズ研究から小説『デッドライン』へ進んだ人だね。
ヨミ太 川上弘美「あなたたちはわたしたちを夢みる 14」が連作完結。1958年東京生まれ、『蛇を踏む』で芥川賞、『センセイの鞄』で谷崎賞。自分のものではない記憶や夢を書く連作の締めがどうなるか。
ピー子 連載対談「教室で読む文学」第8回は池澤夏樹さんと田口耕平さんが志賀直哉「城の崎にて」を読む。池澤夏樹は1945年生まれの小説家・詩人で、『スティル・ライフ』で芥川賞、世界文学全集の編者としても知られる。リレーコラム「街の気分と思考」は小砂川チトさんと満島ひかりさん。満島ひかりは女優だけど文章も書く人だよね。
ヨミ太 ほかに「新潮」欄の長瀬ほのか、増村十七、村司侑。書評委員の井戸川射子、豊永浩平。特別書評はいしいしんじさんが黒川創『若冲、川を下る』を読む。連載コラムは大森静佳の歌、石川直樹の旅。連載評論は湯浅学の大滝詠一、梯久美子の石垣りん、そして大澤信亮の小林秀雄。新潮新人賞の予選通過発表もある。
ピー子 批評の原点に立ち返りつつ、91歳の筒井康隆が11年ぶりの長篇を放つ。考察ブームの今だからこそ、言葉の重みを感じる。秋の夜長に、コーヒーかお茶を飲みながらゆっくり読みたい。
ヨミ太 だね。『新潮』は文学の現在を、批評と創作の両方からしっかり刻んでくれる。
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