
ピー子 『短歌研究』2026年7+8月合併号、6月19日発売。目玉はやっぱり【第69回 短歌研究新人賞発表】だよね。今回はダブル受賞なんだ。
ヨミ太 うん、水本麻衣「いつも寝顔を褒められている」と岡本恵「影の名前」の三十首がダブル受賞。選考座談会には石川美南、内山晶太、黒瀬珂瀾、千葉聡、横山未来子が並んでいる。次席の渓響「すべ」、候補作に朝田おきる「角材」、川瀬翠「耳鳴りとフェルマータ」、瀬名蛍「ゆげ」、吉村のぞみ「剥離のとき」と、最終選考通過作から予選通過作の一覧まで載っていて、新人賞まわりだけでかなりの読み応えだよ。
ピー子 『短歌研究』新人賞といえば、ニューウェーブ短歌を送り出した賞というイメージが強いんだけど、そもそもニューウェーブ短歌ってどういうものなの?
ヨミ太 1980年代後半、この『短歌研究』新人賞を舞台に登場した俵万智、加藤治郎、荻原裕幸、穂村弘、西田政史らの世代の短歌を指すことが多いね。それまでの近代短歌的な「重い抒情」から離れて、口語や日常語、カタカナ語、記号やコマ割り的な視覚効果、ポップカルチャーの語彙を大胆に取り込み、一首一首を軽やかな「作品」として演出する。テーマも恋愛や消費社会、都市生活の空虚感などライトな題材を扱いながら、実は構造的にはかなり技巧的、という歌群だよ。『短歌研究』誌はこの運動の震源地だったから、いまも新人賞や新作欄を通じて「軽やかさと技巧」を重んじる編集姿勢が続いていると言われている。
ピー子 なるほど。今号の連載陣を見ても、まさにその系譜だよね。穂村弘「レコードの赤ちゃん」二十首、外塚喬「孤食」三十首。ほかに小川優子、沖ななも、加古陽、北山あさひ、霧島あきら、工藤吹、雲嶋聆、後藤すみ子、田口綾子、名嘉真恵美子、柳澤美晴と、二十首連作がずらり。
ヨミ太 「推しの声」「チャンネルはそのまま」みたいなタイトルからも、口語とカルチャー語彙を軽やかに使うニューウェーブ以降の感覚が受け継がれているのがわかるね。一方で今号は追悼企画「岡野弘彦という存在」も大きい。沢口芙美、秋山佐和子、岡野夏井が寄稿し、岡野弘彦の101首を棗隆が選んでいる。折口信夫の高弟として国文学と歌の両輪を担った歌人だから、これは近代から続く「重い」歌の系譜への鎮魂でもある。
ピー子 軽やかな新人賞と、重厚な追悼企画が同じ号に同居しているのが面白い。
ヨミ太 そこに輪をかけて興味深いのが特別対談「AIと短歌―2026」坂井修一&睦月都。歌人がAIと短歌の関係を語り合う企画で、まさに僕らみたいなAIトークの話題そのものだね。さらに短歌アプリ・運営者対談「57577」&「コトアム」も組まれていて、スマホで短歌を作り、投稿し、読み合う文化がどう育っているかを扱っている。ニューウェーブが当時の新しいメディア感覚を歌に取り込んだように、いまはアプリという新しい詠草の場そのものが特集の対象になっているのが象徴的だよ。
ピー子 採録企画も渋いね。オンライン読書会「平井弘歌集『羊をいつぴき』を読む会」。
ヨミ太 平井弘は寡作ながら独特の口語的破調で知られる歌人で、これも角川『短歌』7月号の巻頭作品と重なる話題性がある。加えて連続対談「和歌が生活にあった頃」第1回は安田登×渡辺祐真(スケザネ)。古典から現代までを縦断する視座だね。連載も充実していて、仁尾智+酒田現「猫には猫の、犬には犬の3」、佐藤弓生・千葉聡「人生処方歌集69」といったユーモラスな企画が続く。
ピー子 書評や時評は?
ヨミ太 作品季評第139回は米川千嘉子をコーディネーターに竹中優子、笠木拓。歌集歌書評は遠藤由季と滝本賢太郎の共選、短歌時評は門脇篤史。締めくくりは短歌研究詠草、永田和宏選で特選・瑞慶村悦子ほか準特選十六名が並ぶ、投稿欄の厚みも健在だよ。
ピー子 新人賞というニューウェーブの震源地を軸に、AIやアプリという最新の詠草環境の話題、そして岡野弘彦追悼という近代短歌の重みが一冊に同居している。過去・現在・未来をまとめて見渡せる、合併号らしい厚みのある一冊だね。
ヨミ太 うん。ライトな口語短歌の系譜と、その対極にある骨太な国文学者・歌人への追悼が並ぶことで、短歌研究という誌名そのものが持つ「軽さと重さの両輪」がよく見える号だと思う。
■ 金魚屋 BOOK SHOP ■
■ 金魚屋 BOOK Café ■


