
ピー子 角川『短歌』2026年8月号。目玉は【特別企画 生誕150年 尾上柴舟の仕事】と【第5回 U-25短歌選手権】。柴舟って正直「短歌滅亡私論」の人、くらいの印象しかなかったんだけど。
ヨミ太 僕もそうだった。尾上柴舟は1876年、岡山県津山生まれ、本名八郎。東京帝国大学国文科を出て、東京女子高等師範学校や女子学習院で教授を務めた歌人・書家・国文学者だよ。一高時代に落合直文に師事して、1902年には金子薫園と『叙景詩』を編み、当時全盛だった『明星』のロマン主義に対抗して「叙景詩運動」を起こした。1905年には若山牧水、前田夕暮らと「車前草社」を結成していて、近代短歌史では落合直文―尾上柴舟―若山牧水―前田夕暮という系譜の要になる人なんだ。
ピー子 牧水と夕暮の先生筋なんだね。7月号が「生誕140年 若山牧水ルネサンス」だったから、続けて弟子筋の師にあたる柴舟を取り上げた形か。
ヨミ太 そう見える。特集では前田宏の論考「知られざる尾上柴舟」、松澤俊二の「尾上柴舟論―『短歌髄脳』(1916)を視点にして」、そして附録として柴舟自身の評論「短歌滅亡私論」(『創作』明治43年10月)の再録、略年譜まで組まれている。この「短歌滅亡私論」は1910年に発表されて大きな反響を呼び、口語短歌も含めた大正から昭和初期にかけての短歌改革の前哨戦になった重要な評論なんだ。
ピー子 代表的な歌も教えて。
ヨミ太 歌集『日記の端より』(大正2年刊)の巻頭歌にして代表歌とされるのが、
つけ捨てし野火の烟のあかあかと見えゆく頃ぞ山は悲しき
夕暮れどきの野焼きの煙の赤さと、遠くにそびえる山の対比が効いていて、明るさと暗さ、近さと遠さが一首の中で交錯する。もう一つよく引かれるのが、
死にてゆく人のあるにもかゝはらず事なく山の聳てるかな
人の生死をよそに、山は変わらず聳えている――そのそっけなさに逆に胸を打たれる歌だね。1914年には石井直三郎、岩谷莫哀らと歌誌『水甕』を創刊して主宰者となり、小泉苳三ら多くの弟子を育てた。門下の系譜まで含めて振り返る、読み応えのある特集になりそう。
ピー子 もう一つの目玉、U-25短歌選手権は?
ヨミ太 第5回の優勝作品と選者賞(栗木京子賞・穂村弘賞・小島なお賞)を誌面で発表、得点一覧や選考座談会、得点作品へのひとこと評まで載っている。若い世代の歌をベテラン歌人がどう評するか、という対話が見どころだね。
ピー子 巻頭作品も豪華。
ヨミ太 春日真木子の7首、山田富士郎・渡辺松男の28首、佐波洋子・三友さよ子・安田純生・魚村晋太郎の10首と、世代の異なる歌人が並ぶ。連載カラーグラビアは沖ななも「傑士の後姿」、三潴忠典「令和屏風歌」。連載陣も充実していて、栗木京子「京子の居間」、中津昌子「永井陽子論」、カン・ハンナ「家族の歌」、荻原裕幸「短歌万華鏡」、山田航「ぼくは散文が書けない」、片山佳代子「嗜好品のささやき」など。
ピー子 書評も気になる。
ヨミ太 金子貞雄『時のクレバス』、尾崎朗子『のばらのいばら』、三島麻亜子『ゆふぐれの視座』、瀬口真司『BEAM』、大津仁昭『あの町に生まれて』、吉川宏志『一九七〇年代短歌史』、そしてカン・ハンナ『カジョクのうた』を渡辺祐真が評している。歌壇時評は和嶋勝利、月評は松本実穂。角川歌壇の選者は佐伯裕子、桑原正紀、藤島秀憲、寺島博子、浜名理香と豪華だよ。
ピー子 柴舟という「知られているようで知られていない」歌人を軸に、若手からベテランまでを結ぶ構成なんだね。
ヨミ太 うん。150年前に生まれた歌人の仕事を掘り起こしつつ、U-25という最新世代の歌も並べる。過去と未来を一冊で往復できる、8月号らしい厚みのある号だと思う。
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