ミニー吉野個展 1月30日~2月4日 於・銀座スルガ台画廊

ミニー吉野:昭和46年(1971年)、東京世田谷生まれ。平成15年(2003年)に韓国ソウル弘益大学絵画科に入学し、平成17年(2005年)に同大学成績優秀奨学生に選ばれパリ国立美術学校へ交換留学。平成19年(2007年)、弘益大学絵画科を卒業し帰国。同年、音楽家のミッキー吉野氏と結婚。平成20年(2008年)、東京麻布十番の映像社ギャラリーで初個展。同個展の作品を収録した画集『Les œuvres de Minnie YOSHINO』(ギャラリー東京映像)を刊行。モダンアート展優秀賞受賞など受賞歴多数。今年(2017年)11月には、東京新宿の高島屋での個展も予定されている。

 

ミニー吉野氏は本格派の画家である。的確なデッサン力に基づく具象絵画をお描きになるが、氏の真骨頂は〝具象抽象〟とでも言うべき独自の表現にある。廃虚と孤独がミニー氏の一貫したテーマだと言っていいが、その視線は物単体を描く際にも発揮されている。物の中に完成した姿と、それを通り越した崩れを見出そうという姿勢がある。今回は銀座スルガ台画廊が新人作家を選抜し、一月から数ヶ月かけてシリーズ形式で一週間ずつ複数の画家の個展を開催する「新人選抜 レスポワール 2017展」の個展だが、会場で絵を拝見しながらインタビューに応じていただいた。

文学金魚編集部

 

 

 

金魚屋 今回の個展のメインは、三枚の絵を組み合わせた『官能』ですね。ミニーさんらしい絵です。ガラス扉のある箱の中に、操り人形と薬ビンとかが描かれています。

 

ミニー 三枚で一つのイメージの絵なんです。真ん中は、官能に囚われて、操り人形のようになってる人のイメージかな。右側には医療器具とかが描いてあります。医者は官能的な言葉を言って患者を治そうとするんだけど、実は治していない。それどころか官能の虜にしてしまうといったイメージがあったんです。昔のちょっと悪い医者のイメージですけど(笑)。左側は箱の中に甘い匂いが閉じ込められていて、花の匂いだと思って蝶が寄ってきたら、それは人工的な誘惑で、箱の中に閉じ込められちゃったというような。

 

 

金魚屋 恐いというより、寂しさを感じるような絵ですね。ミニーさんは、人間や物を描くときは正面から具象的にお描きになりますが、大作になるほど抽象度が増してゆく。でも単体の物や人でも、背景は描かないという特徴があります。

 

ミニー 描かないですね。対象があったら、それ一点だけ描きたいかな。

 

金魚屋 椅子だけの絵がありますが、これは確信がないと描けないでしょう。

 

ミニー そんなことないと思いますが、椅子は居場所のイメージなんです。この世の中に居場所がないって感じることって、誰でもあるでしょう。でもこれは絵だけど、ちゃんと居場所がある、絶対に座ることができる椅子があるっていうイメージなんです。そういったイメージが伝わればいいなと思うんですが、それには背景はない方がいいかな、と。

 

 

金魚屋 窓とかドアが多いのは、どういったイメージなんですか。

 

ミニー 過去の記憶なんかを、抑え付けて閉じ込めちゃった感じかもしれません。

 

金魚屋 ミニーさんの静物は、ちょっと古い物というか、懐かしい感じがしますものね。あ、これはミッキー吉野さんのセミヌードのデッサンですね。こういう絵を描くのは楽しいでしょう。

 

ミニー ええ、楽しい(笑)。

 

 

金魚屋 画家さんは言葉で説明できないから絵を描くわけですから、絵を見ながらのお話はこのくらいにして、ちょっと気楽なお話をしましょう。去年、ミニーさんが所属しておられるモダンアート展が金沢21世紀美術館で開催されて、金沢に行かれましたね。金沢はどうでしたか。

 

ミニー 金沢旅行は楽しかったですが、21世紀美術館の収蔵品はいまひとつだったかな(笑)。

 

金魚屋 僕は富山県出身なんですが、富山県立近代美術館には瀧口修造のコレクションがあって、現代アート作品は比較的充実していました。アンゼルム・キーファーの作品はなかったと思いますが。キーファーはお好きですよね。

 

ミニー けっこう影響を受けていると思います。小さい頃、たまたまですが、名古屋でキーファーの絵を見たんです。アウシュビッツに続いているような、電車のレールの絵でした。レールは金属のはずなんだけど、金属には見えないように描かれていた。ゾクゾクしちゃいましてね(笑)。その絵には藁とかが貼ってあって、こういう表現があるんだなぁと思いました。キーファーのような作品を描きたいと思いましたね。

 

金魚屋 コンバインとか言ってしまうと、なんかもう定型表現のような雰囲気が漂ってしまいますが、絵に砂とか木の葉を貼るのはいいですね。有機物が混じっていると、とてもいい雰囲気になる時があります。ミニーさんの、磯子のアトリエにおうかがいした時、ススキとかが貼ってある絵を拝見した覚えがあります。

 

ミニー やりましたね(笑)。人工的なものより、自然界にある物の方が合います。難しいですが。

 

金魚屋 具象抽象という点では、ミニーさんとキーファーには共通点があると思います。物や人の背景を消すというのもそうでしょう。具象画ですが、抽象でもあります。ミニーさんの絵は「背景描いてないじゃん」と言われなければ、気がつかないかもしれない。「あれ、背景がないね」と思われてしまう絵はダメかもしれません。描かれた物や人が弱いわけですから。

 

ミニー 自分としては、具象と抽象作品が入り交じっちゃって、どっちつかずになってるんじゃないかなと心配になる時があるんですが。

 

金魚屋 具象画と抽象画の間で、極端に揺れ動いた方が面白いと思います。ミニーさんは、韓国で絵の勉強をされたわけですが、具象画の技法はその時に学ばれたんですよね。

 

 

ミニー 韓国には七年間いて、大学で学んで留学までさせてもらいましたから、絵の技法はあっちで学んだって言ってもいいです。

 

金魚屋 韓国でお暮らしになった経験が、絵にも出ているかもしれませんね。

 

ミニー それはあると思います。日本も韓国もアジアですが、韓国の方がディープなアジアですから(笑)。そういうディープな感じが出てしまう。

 

金魚屋 ディープとは、どういった意味なんでしょう。

 

ミニー たとえばですが、大学で絵を描く時、冬でも暖房器具がないんですよ。マイナス十七度の中で、震えながら絵を描かなきゃならないんです。みんなモコモコに着込んで絵を描いてましたね。うちの大学は、韓国の中では一応トップレベルのはずなのに、そういう感じでした。

 

金魚屋 それは何かの修行ですか(笑)。

 

ミニー ホントにそうなんですよ(笑)。生徒はみんな、文句を言ったんです。こんな寒い中で絵を描くなんて、意味がないって。でも先生は、「これから君たちは画家として生きて行くつもりなんだろう。道は険しいし、何が起こるか分からない。だからまず精神を鍛えなさい」って言うんです(笑)。

 

金魚屋 それはまあそうですけど、精神の鍛え方はほかにもあると思うなぁ(笑)。

 

ミニー 日本の大学なら、暖かくて綺麗な場所で絵を描けるんだろうなぁと思いました(笑)。食堂もトイレも、韓国より日本の方が綺麗ですからね。

 

 

金魚屋 あー、トイレで紙を流さないってやつですね。尾籠な話ですが、拭いた紙をゴミ箱に入れるという。あれは今でもそうですか。

 

ミニー 空港とか、大きな商業施設やホテルは違いますよ。でも今でも、どこの飲み屋に行っても、食べ物屋さんに行ってもそうだと思います。下水があんまり良くないのが原因みたいですけど。トイレに入ると、それがこんもり目の前にあるんです(笑)。ああいうカオス的というか、日本じゃ隠されているものが露わになっているようなところは、やっぱり精神に影響を与えますね(笑)。ラーメンとかも、食べ残したりするとトイレに流しますから。

 

金魚屋 日本よりアジア的カオス度が高いですねぇ。

 

ミニー わたしはそういうカオス的なものが目につくと、気になっちゃってなっちゃって、じっと見ちゃうんです(笑)。

 

金魚屋 ああなるほど。確かにそれは絵に表れています(笑)。

 

ミニー わたしが住んでいたのは、ソウルの北の方でしたが、駅を下りるとおばちゃんが盥に鯉を入れて売ってました。そういうのばっかり目についちゃう(笑)。

 

金魚屋 僕は骨董が好きで、骨董から韓国に興味を持ったんですが、韓国の古美術を見てると、繊細なんだけどいい加減なところがあります。家具とか釘を使わないで、木組みだけで頑丈に作ったりするんですが、金具が曲がってたりする(笑)。

 

 

ミニー 韓国らしいなぁ(笑)。手の仕事はかなり繊細なんですよ。大学でもすごく細かい具象画を描く韓国人の学生がたくさんいましたから。でも部分に集中すると細かくて繊細なことができるんだけど、全体を見て、計画して絵を作っていかないようなところがありますね。

 

金魚屋 韓国は日本と似ているようで、ぜんぜん違うところがあります。そういったところがもっと広く理解されればいいんですけどね。あ、誰も教えてくれないんですが、韓国の民画は、なんであんないい加減なんですか。すごくざっくりしていて、素人が描いたとしか思えないような絵でしょう。でもそういう絵がたくさん残ってるから、ああいう絵のプロがいたってことですよね。

 

ミニー ヘタウマでまとまっていますよね(笑)。ああいう絵は確かに日本にないです。でも国立美術館に行くと、緻密な絵もありますから、幅が広い。わたしは最初、韓国で民画の教室に通ったんですよ。やっぱりああいうザックリとした絵をお手本として渡されて、これを写せって言われたのでちょっとビックリしました。でもその教室の先生が、ちゃんと絵を学びたいんなら、大学に行ったらって勧めてくれたので、弘益大学絵画科に行くことにしたんです。

 

金魚屋 それも韓国らしいお話ですね(笑)。ディープなところに目が行くと、どんどん面白いものが出て来そうです。

 

 

ミニー マーケットに行くと、普通に食用の犬とか売ってますからね。犬肉は、土用の丑の日のウナギといっしょで、精がつくって考えられてるので、大学の運動会では生徒のお弁当に犬肉が入ってたりするんです。

 

金魚屋 うまいですか。

 

ミニー まだ食べたことないんです。

 

金魚屋 食べてみたいですねぇ(笑)。

 

ミニー 今度韓国にいらしたときに是非(笑)。

 

金魚屋 絵の話に戻りますが、今年の十一月八日から十四日まで新宿の高島屋さんで個展を開催予定ですね。スルガ台画廊さんは銀座の老舗の画廊で、銀座らしいスペースの画廊さんですが、高島屋のギャラリーはかなり広いしょう。

 

ミニー 広いです。十一月ですから、もうあんまり時間がないんですが、今回の個展が終わったら本格的に取りかかろうかなと(笑)。基本的には新作をと言うことなので、新しいことにもチャレンジして色々な方面から私の世界を見せられる表現ができたらよいなと思っています。今考えていることを少しお話するとミッキーが絵に曲をつけてくれて、会場でそれを演奏することになっているんです。そのための映像作品も作ろうと思っています。せっかく広い会場で個展を開いていただけるので、絵と音楽と映像を取り混ぜた、総合的な個展にしたいと思っています。

 

金魚屋 それは楽しみです。また見に行かせていただきます。今日は個展初日のお忙しいところ、ありがとうございました。

(2017/01/30)

 

 

 

 

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