%e6%9c%88%e3%81%be%e3%81%a7_11_cover_01「僕が泣くのは痛みのためでなく / たった一人で生まれたため / 今まさに  その意味を理解したため」

「僕」は観念として世界に対峙する。孤独から滲む透明な抒情──。「僕」とは切り取られた世界そのものでもある。画像によって喚起されたペルソナ手法による、小原眞紀子の連作詩篇。 

by 小原眞紀子

 

 

 

 

 

あの向うの町には

なほみちゃんが住んでる

引っ越していった日みたいに

飴玉をおはじきにして

脇道を入ると

シゲやんの弟が立ってる

もう見なくなった

井戸端に犬といっしょに

通りはどこまでも続き

病院の前で二つにわかれ

大きくカーブする

白く降り積もるのは

記憶の残骸だが

死んだ爺ちゃんが掃きよせて

ぴかぴかの勲章をこしらえている

受けとったら霧散して

またいつか出逢う

繰り返し夢にみる

広い交差点で

左に折れる

友を探して

建物の窓を指差す

ひとつずつ

そこから先は忘れてしまう

あの向うの町の

通りの名も

住んでる人たちも

木の葉越しにみえる

空に浮かばない隣りの集落のごとくに

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君の目は瞬き

僕に知らせる

隣りにいるのはただの馬鹿だと

君は目を伏せ

僕に知らせる

出されたものに手を触れるなと

君は目を見開き

僕に知らせる

そう

ひとりで行け

どの道であれ

光ある方へ

それは微かな

波として打ちよせる

覆されながらつらなる

ビーズのように

ひと粒ずつたどれば

闇を抜ける

そして降りそそぐ

蒼空から切りとった青

石榴から零れおちた赤

僕は黙って

そこに立っている

あらゆる時が僕をとりまき

ひとめぐりして去る

その方へ踏み出そうと

君の瞳を覗き

見つめるままに吸いこまれ

僕は闇に放られる

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天から降るものはみな甘い

それは前から知ってる

傘をさしていても

地にあるものはことごとく濡れる

すてきな長靴をはいて

傘をさしていても

空は灰色

透けてみえるのは

おとなたちの温かな憂鬱

こどもたちの密やかな興奮

縦横に織りなす

世界は色とりどりに

あたしたちが走りまわる

傘を忘れて

家にかえる

甘いおやつがあるし

明日は土曜日

灰色の空は

どうぶつ園に似合う

どのこも静かに

どうぶつをみている

じぶんをみている

天から降ってきた

生きているものたち

甘やかな肌で

呼吸するものたち

おとなたちは空を見上げ

傘をさしかける

少し疲れた顔で

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写真 星隆弘

 

 

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* 連作詩篇『ここから月まで』は毎月05日に更新されます。

 

 

 

 

■ 小原眞紀子さんの本 ■

水の領分 メアリアンとマックイン

 

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■ 予測できない天災に備えておきませうね ■