性にまつわる全てのイズムを粉砕せよ。真の身体概念と思想の自由な容れものとして我らのセクシュアリティを今、ここに解き放つ!
by 金魚屋編集部
小原眞紀子
詩人、小説家、批評家。慶應義塾大学数理工学科・哲学科卒業。東海大学文芸創作学科非常勤講師。一九六一年生まれ。2001年より「文学とセクシュアリティ」の講義を続ける。著書に詩集『湿気に関する私信』、『水の領分』、『メアリアンとマックイン』、評論集『文学とセクシュアリティ――現代に読む『源氏物語』』、小説に金魚屋ロマンチック・ミステリー第一弾『香獣』がある。
三浦俊彦
美学者、哲学者、小説家。東京大学教授(文学部・人文社会系研究科)。一九五九年長野県生まれ。東京大学美学芸術学専修課程卒。同大学院博士課程(比較文学比較文化専門課程)単位取得満期退学。和洋女子大学教授を経て、現職。著書に『M色のS景』(河出書房新社)『虚構世界の存在論』(勁草書房)『論理パラドクス』(二見書房)『バートランド・ラッセル 反核の論理学者』(学芸みらい社)等多数。文学金魚連載の『偏態パズル』が貴(奇)著として話題になる。
三浦 最近あった事件で「頂き女子」ね。
小原 りりちゃん。男を騙してお金をいただいちゃったんですか?
三浦 そう。単独の詐欺ではなくて、マニュアルを売って、マニュアルを買った女性がまたその通りやったら、数千万もらいました、って報告してきて。
小原 あら、すごい。
三浦 恋愛詐欺で逮捕されたわけですよ。実刑九年でしょ。重すぎるってフェミニストが騒いでいて。
小原 うーん。重いのかな。
三浦 よくわかんないな。結婚願望に付け込んで、狙われたのが、ちょうど私みたいな六十過ぎの男。歳上の男性が好きなんです、とかってネットで言い寄られて、一回も会ってないのに貢いだりするんでしょ? とんでもないよね。
小原 まぁロマンを買ったから別にいいんだ、っていう。
三浦 そう。ホストクラブとかキャバクラとかもそういうことだし。りりちゃん自身がホストにはまっていてさ、そのほとんどが詐欺で。
小原 あー。詐欺の被害者が加害者になって回収するって、よくある話ですよね。
三浦 稼いだ分は全部、貢いでるぐらいだったわけでしょ。だけど世の中そういうもんじゃないって、もっと国家が介入して騙される人をなくそうってことなんだろうけど。しかし、あれはもうしょうがないね。男だろうが女だろうが、騙される人は騙されるわけでさ。
小原 それはそうだけど、自分は詐欺をやるんだってアイデンティティとしてあって、「頂き女子」にむしろ誇りを持ってマニュアルまで作って広めてるから、詐欺罪って立件できるわけだけど。
三浦 詐欺とは名乗ってないでしょ。嘘のつき方とか、そういうことは確かに教えてるのかもしれないけど、詐欺とは思ってないんだよね。
小原 それは同じですよね。異性を騙して財物を得ようとしてるっていう意味では。
三浦 でも普通、恋愛とか、そういう場でもやってることであってさ。皆、嘘をつきあってる。それで楽しい思いもするのであってね。だから、いちいち取り締まるのはどうかなと思うね。
小原 まあね。野放しにもできないってことなんでしょうけどね。
三浦 そんなこと言ったら、恋愛の痴情のもつれに法律が介入するようになって。恋愛の揉め事には介入しないでしょ。恋愛でどんなにひどい振られ方をしようが、どんなひどい振り方をしようが、刑法は入ってこないじゃない。
小原 外形的に犯罪にならなければね。
三浦 民法すら入ってこないよね。普通の恋愛の男女関係で。
小原 契約がなければ、民事訴訟も起こしようがない。
で、そもそも詐欺罪って、非常に立証が難しいって言われてますよね。最初から騙すつもりだったのかって、内心については決め手がないじゃないですか。
三浦 難しいけど、行動パターン見てればわかるんだけどね。
小原 そう。わかるんですよ。わかるんだけど、警察で詐欺罪として立件するのは難しい。りりちゃんはある意味、正直なことに、嘘のつき方をマニュアル化しているわけだから、言い逃れできなくなってるのでは。
三浦 逆にああいうものが出回れば、被害者だって対策を立てやすくなるから。お互いが向上していって、文化的にはプラスだと私は思いますけどね。だから、ああいうものは抑制するんじゃなくて、思いっきりやらせて、どの程度まで行くか見届けると。人間の同士の騙し合いがそういう形に昇華されるといいと思うけどね。
小原 文化的には文化人がどう考えてもいいんだけど、どこまで犯罪として問うか、当事者も実際、紙一重だってわかってるから、微妙なところを突いていく。まぁ紙一重のものについて、実刑九年って重い気もしますけど。
三浦 脱税があるからね。かなりの部分が脱税の罰だと思うよ。詐欺の幇助も見られたのかな。マニュアルを売って広めると被害を拡散させやすいわけでさ。影響の深刻さについて見せしめにして、社会常識を植え付けることが必要だったんでしょうが。
小原 脱税よりやはり詐欺の併合罪が重くなったようです。詐欺の幇助罪って、本罪の詐欺罪が成立しなくてもいけますかね。
三浦 幇助罪も教唆罪もね。本件はマニュアルを買った女性が実行して、うまくいきました、と報告している。
小原 うまくいきましたって報告した本人は、逮捕されてるんですか。
三浦 どうかな。ただ、りりちゃんから金をもらっていたホストは起訴されているよね。詐欺で得た金だと知りながら、ゲットしてたわけで。ただ、それもどうなのかな。それこそ夢を売るという決まり文句に皆、納得してるんじゃないのかとは思いますけどね。
小原 得た金銭の出どころを知っていた場合には、返さなきゃいけないですよね。犯罪による金だってわかってたら。
三浦 詐欺の場合、倫理的判断が揺れるでしょ。法律で倫理を決めるような逆転の判定になりそうですね。
小原 倫理的な価値判断じゃなくて、詐欺罪で立件されたかどうか。不法行為による利得かどうか。
三浦 まあ脱税の部分だけは価値判断や解釈の余地ない罪だからね。詐欺だろうが何だろうが、年に百十万円以上は贈与税がかかる。
小原 適法な贈与なら、税金払えばいいだけだから。
三浦 何千万も受け取ったんであれば、税金を払わなきゃいけないんだけれどもそれを怠っていたならば、これは確実に違法。
小原 また別の問題としてね。
三浦 確実に法に触れてるってわかっているのは脱税だけだよ。
小原 りりちゃんはもう警察に捕まってるでしょう。不法行為と脱税行為の両方で告発されるんですかね。不当利得として返還した後なら、税金は還付されるのでは。
三浦 でも法律では、違法に取得した場合も税金がかかることになっているよね。理屈では、詐欺で罰せられるなら脱税は成立せず、脱税で罰せられるならその所得は合法とされそうなものだけど、法律は厳しく出来ているようで。
小原 民事で不当利得として返還させられても税金払うのかな。使っちゃってたら、どのみち払わなきゃいけないけど。それとも脱税の刑事事件として告発されたから、そこだけは罰せられるということかな。
三浦 所得の違法性がバレなければ払っていたはずの税金だからね。バレたら余計払えと。そもそもこれは不法行為、これはそうじゃないという区別は、はっきりしないから。
小原 犯罪として立件されたら、はっきりしますね。
三浦 それ以前は、わかんないから。
小原 わかんなかった状態で、全部使ってしまっていると厳しいですよね。
三浦 ただ例えば新興宗教にはまった人がいても、いちいち宗教団体を刑法で罰しないじゃないですか。霊感商法なんかよっぽどでないと。
小原 宗教の場合には、詐欺罪っていうことはないと思いますね。
三浦 宗教っていうのはハッと目覚めて、脱会して、今まで洗脳されていたと後悔する人もいるわけだけど、諦めるわけですよ。
小原 我々が「そんなの詐欺だ」と憤るときの「詐欺」という罵りの言葉と、刑法の「詐欺罪」の構成要件とは異なるので。宗教は詐欺罪に該当しないでしょう。
三浦 いや、そんなことないよ。やはり感情を動かすわけですよ、相手の。
小原 詐欺罪の構成要件に、「相手の感情を動かす」とは特に書かれていません。経緯として説明になるとは思いますが。
三浦 たとえば、この壺は、これこれこういうところから掘り起こされた、と聞かされて気味悪がる、ってことあるでしょ。だから手放さなきゃ、ってことあるじゃないですか。そうすると、それで例えば価値あるものをぶん取られたとかね。
つまり、事実に反したことを言って気味悪がらせて、そういう場合には詐欺になるわけよ。
小原 事実に反したことを告げた時点で、騙す意図があることが外形的にわかりますもんね。それによって錯誤に陥り、その結果として財物を得たなら詐欺罪に該当しますよね。気味悪がったかどうかは、問われないと思います。気味悪くなくとも、外聞が悪いとか、家族が嫌がるとか、被害者の感情や判断を具体的にどう動かしたかは問題ではないけど、嘘をついた結果として加害者が財物を得たなら犯罪です。
三浦 宗教の場合にも、こういう修行を積んで、このような実績があってとかね。
小原 修行してないのに修行したといって、その結果としてお布施を受け取っていた、という因果関係がはっきりしていれば、そうかもしれません。だけど信者さんたちは、「なーんだ、修行してないのかぁ」って信仰を捨てますかね。それなら話は早いんだけど。
三浦 でも、よくそういうこと言うじゃない、宗教団体は。由来がどうこうとかって、すべて事実なんてあり得ないでしょ。
小原 あり得ない。結局いろいろ言い繕われて、今度はそれを信じる。
三浦 私自身だって大手の宗教団体にいたから知ってるけどさ。
小原 いたんだ…(笑)。
三浦 信じる人が悪い、とは決めつけられないと思うよ。
小原 そうですね。たとえ詐欺罪の構成要件を満たさなくったって、悪いことはたくさんある。「詐欺だ」と文句を言いたくなることもたくさんある。
だから脅迫罪とか、強要罪とか、オウム真理教の場合なら殺人罪とか、別の犯罪で立件するんでしょうが。ただ脅迫罪も「先祖の霊が」といった迷信に属することで脅しても難しいですよね。最低でも「夜道に気をつけろ」ぐらいは言ってもらわないと。
三浦 でも例えばね、「お前の名前を書いた藁人形に釘を打った」と言われたら。忘れられないし、夜も寝られない。
小原 あっ、なるほど。もちろん、もちろん。
三浦 まあ幻想犯ということなんだけど、釘を打ってる動画を撮って送りつけたら犯罪になる。
小原 それは、なる気がする。
三浦 でも、迷信だから意味がない、怖がる方が悪い、という理屈も一応はあり得るでしょ。
小原 それはしかし、どういうふうに構成すればいいんだろうな。
三浦 やっぱり歴史の中で、人間が世界各地で霊というものを信じてきた。そうすると霊というものにも何かしらの根拠がある、となる可能性はあるわけですよ。
小原 確かに、わいせつ罪だって一種の幻想を罰しているだけ、ともいえるわけで。藁人形が怖れるべきものかどうかは別として、そのように扱われてきた歴史があるということは事実なんですよね。多くの人が不快に思う、恐怖を感じる、羞恥を感じる、というビッグデータをもとに法律は運用されてるわけだし。
三浦 あり得ない話をあり得ない根拠に基づいて、人を傷つけようとしても、普通は犯罪にならないけどね。もちろんそれは不能犯・幻想犯だからだけれども、相手を怖がらせ、嫌な気持ちにさせたら当然、罰を受けますよ。
小原 脅迫罪は「本人や親族の生命・身体・自由・名誉または財産への害を加えることを告げて」ってことなので、藁人形に釘を打ったっていうのが生命・身体・自由・名誉または財産の害に当たるか…。
三浦 当たるでしょ。精神的な害でしょ。
小原 生命・身体・自由、名誉または財産。そうですね。この「身体」っていうのに精神的危害を加えたっていうことは、あり得る。
三浦 だって、かつての強姦致傷罪。強姦致死罪というのは強姦罪より重いわけだけど、レイプによってPTSDを発症した場合、強姦致傷罪になるからね。精神を傷つけた場合も傷害罪になるんですよ。
小原 そっか、傷害罪だ。ポイントは、ただ単に「藁人形に釘を打ったって言われて気分が悪い」って訴えるんじゃなくて、それによって精神を病んだという診断書を取ることですね。
三浦 あるいは、そもそもそういうことをしていること自体がさ、周りに影響もあるわけじゃない。つまりその人が自分に敵対的な意思を持っていることをわざわざ告げ知らせるのは。
小原 敵対的な意思を持つことも、周りや本人に告げることも、脅迫でないかぎりは自由だけれど、藁人形を持ち出すような人はどうせそれだけじゃ済まないから。少なくとも器物破損とか、なんか他にもやってる可能性が高いから。ただ藁人形については、診断書取ってもらわないと警察は動けないでしょうね。
三浦 いや、そんなことはないな。それだったら盗撮とかだって全然害がないことになっちゃうじゃない。
小原 それは迷惑防止条例で。(注・令和5年に撮影罪が施行)
肖像権侵害もあるし、少なくとも他人のお尻をこっそり撮ることは、自己の所有物である藁人形をどうかすることとは別じゃないですかね。
三浦 ともあれ私は新興宗教団体にいたからさ。その中でやってたことをこの目で見ているけど、明らかな詐欺だよ。りりちゃんの行為が詐欺だとすれば、宗教団体がやってることは明らかに詐欺なんですよ。
小原 だから私達が一般の生活上で「あいつがやってることは詐欺だよ」とか「あいつは詐欺師だ」って罵るときの「詐欺」という言葉と、法律上の「詐欺罪」っていうのは違うので。その二つを混同すると、混乱してしまう。
三浦 でもまあ、りりちゃんが罰せられるんだったら、もっと罰せられなきゃいけないことっていうのは世の中にたくさんある。例えば民間療法なんかはどうなってるのかな。
小原 それはいっぱいあると思う、本当に。
三浦 民間療法の先生が「これで絶対大丈夫」とかって言うわけじゃない。もう命に関わるからね。
小原 うん。それは我々の感性一般で感じるところの「詐欺」ですよ。
三浦 ただ、あれは野放しだよね。
小原 薬事法とか医師法とかに触れないのかな。
三浦 それがまた、医師だったりするからタチが悪い。
小原 医者もいろいろいますからね。プラシーボ効果も含めて、微妙に効果がないとは言えないこともあるし。
三浦 しかしガンが治るとかっていうのをさ、まったく野放しってのは世の中たくさんあるよね。
小原 りりちゃんのは、一種の国策逮捕っていうか。まあ、そんなに立派なもんじゃないけど、少なくとも公序良俗違反ではある。風紀を乱しているから、見せしめっていうか。
三浦 でも恋愛では、騙すのは付き物でしょう。
小原 騙したとはっきり決めつけられるならば、詐欺罪が該当するかもしれないけど、だいたい騙したのか、騙してないのかが曖昧でしょ。
三浦 不同意性交と同じで、すべて終わって、ある程度時間が経ってみないと騙されたかどうか、わからないわけだよね。被害を受けたか、受けていないかということが。人間関係のもつれだから、ある程度時間が経たないと、そのときの人間関係の意味が確定しない。
それで騙されたっていうことを認めない人だっているわけでしょ。かなりの金を取られても、認めない人もいるわけです。
小原 そうですね。気の持ちようなとこ、あるんですよね。結局、問題になってるのは金銭でしかない。騙す意思が外形的にも明白で、つまりマニュアルとかまであって、そして騙されたという認識があって、財物の授受があって、初めて被害が発生するという。
三浦 いい加減なことを言っている政治家に比べたらね、りりちゃんの言ってることっていうのはもっと曖昧なわけだよね。
小原 公約を守らないのは詐欺だ、と言いたくなりますよね。でも詐欺罪の構成要件には当たらない。
一番難しいのは、騙そうとする意志が明確にあるのかどうかっていうことなんですよね。結論から見て違ってたじゃないか、っていうのはたやすいんだけど、その人が最初から騙す意思を持っていたのか。その証明は難しいじゃないですか。
三浦 それは内心を他人が、測れるかどうか、という話。それは外形から見るしかないよ。
小原 そう。だからりりちゃんみたいにマニュアルを書いて出しちゃってれば、欺罔の意図が外形的に証明されてしまう。
三浦 マニュアルを書くっていうのが、騙すつもりを告白したことにはならないですよ。仮に告白してたとしてもだよ。告白したとしても、個別の行為に騙すようなつもりがもし見て取れないのであればね、普通の恋愛と見分けがつかないなら、逮捕しちゃいけないでしょ。いま脱税の部分は別として詐欺のことだけ話しているからね。
小原 見て取れないならば、そうですね。実際の手口とマニュアルの内容に因果関係があると主張できるから逮捕して、実際に有罪になったんでしょうね。
三浦 たとえば芸術家が、自分の作品の解説を日記に書いてたかもしれない、あるいは人に配ったかもしれない。だからといってその通りに解釈しなきゃいけないかというとそんなことまったくない。作品そのものを見なきゃダメじゃないですか。
それと同じで、騙し方はこうです、私の例をモデルにして騙しをやってください、ということを書いたとしても、その行為そのものが詐欺であったという証拠にはならないですよね。マニュアルを作るのは、また別の表現行為かもしれない。これを短絡的に結びつけるっていうのは、やはりどうかと思うね。
小原 短絡的かどうかは、マニュアルと手口の詳細を突き合わせないと、なんとも言えない。そこまで抜けてないと思いますよ、警察も司法も。今回はたまたま、突き合わせるテキストが存在したということです。そこで因果関係を詰めることについては、彼らはプロなんだから。
三浦 結果の重大さで決めるとするならば、宗教法人法で保護されている宗教団体の多くの方がはるかに害は大きいと私は思います。
小原 もちろんそうですが。世の欺瞞のあれこれに対して「詐欺だ」と言いたくなるとしても、それに詐欺罪が適用され得るかどうかは別なので。嘘つきの宗教法人にも政治家にも、もっとふさわしい別の法律を適用したらいいんじゃないですか。そういう大問題とは別に、りりちゃんは単なる個別の詐欺師で、今回は尻尾をつかまれた、ということです。
三浦 本人もあまり悪いと思ってなかったのね。だからこそ、あれだけ発信していたわけでさ。で、戸惑ってるというか、びっくりしてるだろうね。判決を受けて。
小原 若いし、面白いところもあるし、ちょっとかわいそうかなって思いますけどね。
三浦 むしろああいうマニュアル的なものが周知されて、こういう手口があるんだって共通知識にした方がいい。より高度なレベルの詐欺が必要になってくるわけだから詐欺師のレベルも上がらなきゃいけない。本当に優れた人間しか詐欺ができなくなっていく。そういう方がむしろ健全だと思うけどね。
小原 詐欺の手口が洗練されていくことが健全かどうかはわからないけれど、司法取引みたいな形で減刑される可能性はあるかもしれない。
三浦 もしそのマニュアルを書籍化したら、出版差し止めになるのかな。昔、『完全自殺マニュアル』っていうのがあったけど。自殺教唆とか自殺幇助で罪になったりしなかったよね。
小原 そういえばそうですよね。
三浦 今だったら、もしかしたらアウトかもしれないね。衛生的な社会になっちゃったから。あれに従って実行して死んだ人もいるわけですよ。自殺者の脇にあの本が置いてあったとか。
小原 犯罪マニュアル、自殺マニュアルそのものは表現の自由とか、メタファーであってとか言うことはできるから、それを書くことは罪にならないと思うけど。で、自殺そのものも本罪はないし。
ただ今回は、りりちゃんの詐害行為がまずあって、その証拠物としてマニュアルが押収された、ということじゃないですかね。
三浦 世間の反発は意外と少なくてね。フェミニストがりりちゃんを擁護してるけど、そのフェミニストが今、逆に叩かれてるよね。
小原 うーん。フェミニストがやることは常に叩かれるからね。いかんと思うんだけど、なんか叩きたくなっちゃうのよこれが。
三浦 私自身は本心のところ、りりちゃんはあまり悪いことだと思わないんだよ。詐欺と言われている部分はね。
小原 まあね。昔からホステスなんて、ああいうふうにして男を垂らし込んでさ、金品を巻き上げるものじゃないの。
三浦 だからキャバクラとかホストクラブとかは、それが合法的な仕事になっちゃってるわけですね。
小原 それが商売だもん。営業トークで騙すもんでしょ。
三浦 小原さんは以前に、騙されたという自覚のある経験はありますか?
小原 営業トークに乗せられて何か買ったとかなら、誰でもあるんじゃないかな。
三浦 騙されたというか、今回の「頂き女子」に引きかかったおじさんたちみたいな経験ってありますか?
小原 それはないけど。ホストクラブも行ったことないし。てか、学生見てるみたいでイライラすると思う。説教はすると思うけど、金払うとかあり得ん。
三浦 私はあるんだよ。騙されたこと。
小原 だって、おじさんだからさ。
三浦 だから逆に、私はかなり寛容になってるわけ。こういうことに関しては。
私が四十歳ぐらいのときだったけど、話の始まりはそれより前で、三十代の終わり頃からマッサージマニアでさ。池袋で中国人がやっている足つぼマッサージにしばらく通っていてね。男二人と女一人でやってるとこなんですよ。
で、その女性が、私が大学の先生だっていうことを知って、すごく仲良くなった。その人、中国の医師免許を持ってたのね。
小原 インテリなんですね。
三浦 真面目にやってるマッサージ店で、いかがわしい店じゃないんですよ。私は常連になって、その女性は私の家にも一人で遊びに来て、二人で仲良く地下室で音楽を聞いたりして、お友達になったわけですよ。マッサージの後にはご飯を奢ってあげたり。
その人は何のために日本に来たかっていうと、日本で博士課程に入って、博士号を取るんだと。そのために今、お金稼いでるんだ、と。結局、国公立医学部の博士課程に入ったんですよ。
そのときに書類を私に見せて、この保証人になってくれないか、と。私も、留学生は保証人を必要とするって知ってたから、例の書類か、と。日本にいる知人の名前が必要なんですよね。
小原 ESTAですら米国での滞在先とか、知人の名前とか書きますもんね。
三浦 二人必要なんだけど、その筆頭として書いてくれっていうから、まあ気分いいよね。
小原 気分いいんだ…。それはわかんない、男の人に特有だね。
三浦 最初の欄にさ、私の名前と、身元も書いたわけだ。その書類を渡して、それで手続きするって言ってた。
で、マッサージの店も辞めたんだね。辞めてしばらくしてから、その書類を作ってあげた。そしたら、そのときから連絡が取れなくなったんですよ。
小原 フフフ。怖いなぁ。
三浦 怖いんだよ。それで電話してもいつも話し中なわけ。常に話し中。おかしいな、と。それまで普通に電話し合ってさ、どっかでご飯食べようとかって結構、仲よくして。肉体関係とか、なかったですよ。だけどすごく長い関係だったわけ。
小原 でなきゃ保証人にならない、か。さすがに。
三浦 だから当然、同じような感じで電話したら、いつも話し中。最初は別に不審に思わなかったんだけど、あれ、どうやら書類を書いてから繋がらなくなったぞ、と。
で、試しに公衆電話からかけてみた。何と繋がったわけ。つまり、これもしかしたら着信拒否じゃないかと思ってやってみたのよ。着信拒否というのは当時、話し中になってたんです。
小原 そうでしたよね。
三浦 で、初めての番号、つまり公衆電話からかけたら一発で繋がって。向こうが出たから、「聞きたいことあるからどこどこで会ってくれないか」と。
向こうも別に、変わった様子もなく、いいですよって。それで池袋で待ち合わせて会ったんですね。
小原 来たんですね。そのときは。
三浦 来た。しばらく世間話をして。で、いよいよ「今日、呼び出した理由はわかってるよね」って言ったら、わかんない。日本語は堪能な人よ。
小原 いくつなんですか。
三浦 初めて会ったときは二十代後半で、その時点で三十ちょっとかな。私が四十ちょっとで。
「着信拒否してたでしょ」って言ったら、言い訳めいた感じでもなく「私の携帯電話が勝手に着信拒否になって、皆から言われるんだ」と。だから私が意図的にやったんじゃない、って。だけど白々しい感じはしないんだよ。
で、「それはおかしいだろう」と。「こちらから電話したという着信記録は残ってるだろう」と。そしたら、先生から何回も電話があったことは知っていたよ、って。
それで、「なんで折り返し電話しないんだ」って言ったら、「用がなかったからだ」って言うんだよ。接し方は以前と同じなんだけど、取り付く島もないというか。もうあなたとは繋がる必要性がなくなったから、みたいな態度なんだな。保証人のサインもらったから用がない、的なことをごく淡々と言うんだ。
「それはちょっとひどいだろう、いくらなんでも人間としておかしいんじゃないか」と言っても通じないんだね。
小原 保証人が人物を保証するという意味なら、こっちに用がありますよね。
三浦 「呼んだらすぐに来たから、ある程度の疑いは晴れてるけど、あの書類が実は別の書類で、私もよく見なかったから、何かの変な契約に名前を使われたんじゃないかって疑ったんだ」と言ったら、本当に心外な顔をしてさ。そんなことあるわけはないと弁明するんだけど、こっちはもう完全に白けちゃってるからね。
喫茶店でそういう話をした後は、食事もしてさ。普通に話してたけど、もう呆れちゃってね。本当に何週間かのあいだ、騙されたと思ってたから。
小原 うーん。
三浦 当日は、それじゃあね、って別れて終わったわけですよ。
騙される人っていうのはたぶん、そうやって完全に信用して書類なんか書いてね。私はお金を貸したりはしてないよ。だけど食事はいつもご馳走してた。
小原 友人だと思っていたから、そうしていたんですよね。
三浦 マッサージの常連さんとして結構、優遇もしてくれたんですね。店を移ったときには、真っ先に電話をくれたりしてさ。そうすると親しくなった気になるわけだ。そしたら掌を返すように、用はない、みたいな返し方をされて。ものすごく不愉快になって、騙されたのも同然だな、と。「騙す」っていう感覚が違っていたのかもしれないですね。
小原 それを「不義理」と言いますね。「義理ってなにそれ」って言われるんだろうけど。
三浦 ガンガン電話が何回も入ってれば普通、折り返しするでしょ。
小原 知らない仲でなければね。
でも自分はもうマッサージ店は辞めたし、もはや客と接触するメリットはない、と。それを言ったら、保証人のサインなんか頼まれる筋合いもないですけどね。それは頼まれて受けた側が悪い、ということか。
三浦 そういう人っている、という話なんだよね。私はそれ痛感して、国籍の違いとかではないな、と。そうか、そういう人がいるんだ、と。
小原 お金をとられたわけじゃなし、と思う人も多いと思います。だけど継続的に友人だと思っていた感覚が、騙し船みたいにくるっとひっくり返されるって、ショックというか不気味な感じがしますよね。三浦さんは一貫して保護者的に接していて、相手にも無償の善意として伝わっていると思っていたんですよね。
三浦 しかも本当に悪気なさそうだし。で、後日談があってさ。
もうある意味、決裂したと思っていたわけだよ。そしたら五年くらいしてからメールが来てさ。「お久しぶりです。お会いしたいと思います」とか書いてある。
まぁ、じゃあ会いましょうかって、また池袋で会って昔話をしたんだけど。別にどうってことはなくて、向こうはもしかしたら気持ちの変化で、かつて親しかったあの三浦とまた仲良くしようと思ったのかどうか知らないけど。ただ、こっちはそんな気もないからね。だからそのまま盛り上がりもなく、アレンジすることもなく、バイバイって帰って、それっきり。
小原 新たな頼み事はなかったんですか。
三浦 それはなかったですね。博士課程は無事終えて、企業で働いてますという話でしたね。
小原 優秀な人ではあるんですね。
三浦 寿司屋で一緒に英語の論文を読んでやるとか、受験勉強のチューターみたいなこともやって結構、楽しかったんだよね。そういう時間も過ごしたわけだし、すぐに人間関係を切れる仲じゃないよね、と思っていたんだけど、向こうからするとそうじゃなかったんだ。
小原 相手にとってはメリットがあった。
三浦 相手も専門知識があったし、マッサージで不整脈あるよ、とか。私にもメリットはあったんだけどさ。
小原 仲良くなると、特に直近の目的はなくとも、付き合ってるうちにお互いにいろんなメリットを見出すことになるけど、それは結果ですよね。
三浦 会って話をすること自体、価値があったと思うんだよ。私の家にも遊びに来て、何をするということもなく一緒に音楽を聞いたりして。
小原 で、三浦さんから何度も着信があっても、何の用だろう、とも思わない。
三浦 思わないってことなんだよね。それが私も理解できなかったですね。
表面上、すごく相性がいいように見えても、実は価値観が全然違うってことがあるんだなってことを痛感してね。相手を責めるというよりも。
だから、しばらくしてからまた連絡してきて、何の悪びれることもなく昔話を楽しむような人なわけだよ。でも、あとはまあ知らないよね。
小原 若い女性ではあるわけだから、何かを警戒した、三浦さんのことをストーカーみたいに思い込んでたってことはないんですか。
三浦 それはないと思うけどなぁ。店を移ったら電話してきて、来てねって言って。じゃあ行くねって言ったら、店の外に出て待っていたり、とかね。
小原 それは、お客さんとして迎えたんですかね。
三浦 そうそう、お客さんとして非常に重宝してた。だからいわゆる同伴みたいな感じ。出勤の前に一緒に食事をしたこともあって、家に遊びに来たのもお客さんを繋ぎとめておくための営業だったかもしれないけどね。
小原 保証人になったときまでは、マッサージのお店に勤めてたんですか。
三浦 えーとね、辞めてしばらく経っていたか、同時くらいかな。
たぶん金が貯まったんだろうね。マッサージのアルバイトというのもイメージがよくないかもしれないし、本気で勉強するつもりの人だったし。で、辞めた頃に保証人の書類をお願いされて。
小原 そんな不義理をされて、どう保証せよと。
三浦 だから大学から問い合わせがあって、もし良さげなこと言わなきゃいけないとしたら、その期待には添えないってことになっちゃうよね。
ただ、その人はそれで周りと人間関係、うまくいってるわけでしょ。だからそういう人もいるってことなんだよ。
そういう人たちがいて、で、こちらはこちらの価値観を持っていて、表面上仲良くなったんだったら、本当に仲良くなったつもりになるわけだけど、向こうはそうじゃないわけだ。その価値観の違いが表面化したときに、騙した騙されたって話になるってこと。
小原 人種や国籍を言いたくないけど、カルチャーの違いはあるかもしれないですね。
三浦 だからりりちゃんだってさ。自分が騙されてるとわかりながら、ホストに貢いでいるわけでしょ。自分も同じことをやってる。その連鎖の何が悪いってことかな。でも、もう二度とホストクラブに行かないとも言ってるらしい。自分も本当に騙されていたのかな。それはわかんないんだけど。
小原 そういう関係ってあるんだ、と思ってるんじゃないですか。何かしてあげるのが嬉しい人がいるんだ、と。お金だったり、保証人だったり(笑)。ただ、それで相手がまるで恩に着てないと感じると、騙されたと思う。
三浦 同じことだって、わかってたんだろうね。で、今回、処罰されちゃったから、もうごめんだ、ホストクラブは二度と行かないと言ってるのかな。
その辺は私はね、わかる必要ないと思うんだよね。処罰するシステムがおかしいと思ってる。それこそ多様性でさ。いろんな価値観を持った人がいていいわけですよ。
私も非常に不快な思いはしたけれども、別にその女性を今、責めようとは思わない。そういう人たち同士で、うまくやっていければ別に構わないわけね。でも多額の実害があったりしたら、私もこんなこと言ってられないかもしれないね。
小原 その人は真面目に勉強しようと思っている人で、実害を与えようとは微塵も思ってないわけだから、そもそも悪いことしたと思う必要もない、というのはわかりますよ。もちろん、不義理な人だという印象を拭う必要もないですけど。
三浦 そうなんだよ。だからまあ、その人からすれば、博士課程に入ったらもう勉強が忙しくて、余計な人間関係に気を配ってる暇はないと。で、就職もしたので久しぶりにあの人に連絡を取ってみようかなって、そういうノリだったんだと思うんだよね。
小原 若い人だと視野が狭いから、新しい自分としてステップアップしたつもりになって、外聞が悪いと思われる過去を切り捨てようって意識が働くことはあるんだと思う。
三浦 それはあるかもしれないね。それだったら別の人に保証人を頼んでほしいよね。なんかあった場合に大学から問い合わせが来るかもしれないし。
小原 保証できる人、つまり過去に属する人で、頼めそうな人が他にいなかったんじゃないですか。三浦さんは大学の先生だし。だけど自分の過去を知っている人には違いないから、切り捨てるべきものに属する、と。
三浦 そうかな。まぁ、それで済むと思ってる人がいるわけですよ。
小原 恐ろしく虫がいいけど、そういった女はよく見かける気がします。
三浦 そういうことを続けていって済むという界隈があるとして、それでうまくいってるなら、別に悪いことだとは全然思わないけどね。
小原 中国人だからとは思わないけど、やっぱりそういうのは貧しい中から這い上がるみたいな話でよく聞きます。
敗戦後に家族が厳しい状況に陥って、それでも国公立医学部に潜り込んで、医者になりさえすれば食べるには困らないからって必死だった女子学生の中には、売春、今でいう援交で何とか卒業したって人が結構いる。そういう人はハングリー精神旺盛で、どんどん事業も広げるんだけど、やっぱりどこかで度が過ぎてしまって、最後は金銭トラブル等に巻き込まれる、とかね。松本清張の小説かい、みたいな。
その留学生も聞いているかぎり、そういう女の、かつての同級生や知人に対する不義理の仕方にすごく似てますよ。
三浦 彼女の背景、家族の話もいろいろ聞いたけど、しっかりした家庭の子みたいだったけどね。
小原 何であれ、医師免許を持って留学するような人が最下層であるはずはない。でも彼女の日々を振り返ると、よその国に来て、言葉だって不自由なところでさ、すっごい頑張り屋だと思うわけ。三浦さんにとっては寿司屋での楽しいレクチャーだったかもしれないけど、彼女はもう必死だったんじゃないかな。で、目に見えない何か、礼節を犠牲にしないとできない部分があった。
だから五年経って会いたいって言ってきたのは、やっと気持ちに余裕ができたんじゃないですかね。
三浦 そういうことなんだよね。人間関係も流れとか期待とか、そういう価値観的なものがあまりにも食い違うとやっぱりショックを受ける。
騙された人たちっていうのも、そういうズレをもし最後まで感じなければ、不満は言わないと思うんだよ。その価値観のズレが表面化したところで、不同意性交とか、りりちゃんとか、そういうものが浮上するわけで、浮上しない場合もあるわけですよ。
騙した・騙されたという主観性は、その場合に被害感情が強かったとしても、その価値観の多様性の方を優先すべきだと私は思っているわけですよ。詐欺ということに関して、明らかに悪質な場合を除いては不問にすべき。今回は、相手にもある程度メリットがあったわけじゃない。
小原 多様な価値観といっても、不義理な人間は育ちが悪いか、それなりの理由があってそうなっているのだし、社会的にはその程度の人物でしかないでしょう。うまく立ち回っているように見えたって、例えば頼れる人もない日本で、三浦さんのような親切な先生とせっかく築いた関係性を壊すなんて、何の得にもならない。やってることに生産性がない。愚の骨頂ですよ。それにやっと気づいて、取り繕いに来た、という話でしかないんじゃないですかね。
りりちゃんも家庭的に恵まれていたとは思えないし、ホストにはまったところから始まったのなら、そこから問題にしないと意味ないでしょうね。
ただ客を気持ちよくして可能な限り金を引っ張るというのは、商売はすべてそうとも言える。詐欺罪の線引きは、技術的に立件できるか、公判を維持できるだけの証拠があるかどうかというところにあって、善悪や倫理の価値観は無関係なんだと思う。立件できるのにしなければ、単なる職務怠慢だし。
で、判決が重かったのは、引っ張った額が多かったからだそうです。有罪が決まれば、あとは被害の総額で自動的に決まるから。りりちゃんが機械的にビジネスとして金を引っ張っていたように、警察も裁判官も、自分の仕事をしているだけだから。
三浦 それだったら、あらゆる分野で均等にやってほしいよね。
小原 やってないと思われるところもありますね。結局、やりやすいところしかやってない、と見られてしまう。
三浦 頂き女子を信じるのと、新興宗教の団体を信じるのでは、影響が違い過ぎる。戦争だって、お国の言うことは正しいと。戦争の教訓が全く生きてないって話ですよ。
小原 やっぱり組織が騙しにかかるのは怖いですね。相手が大勢だと、騙されやすくなる。オレオレ詐欺もチームですもんね。
だから今回は、結局はホストクラブという組織を締めるための国策逮捕、というと大げさですが。りりちゃんに同情する声が、本当に悪いのは誰か、何が一番問題なのか、というところに向かうのが目的かも、と思ってしまう。
まあ、おじさんが女の子に騙されたって余剰資金を取られるぐらいだけど、ホストたちが女の子をはめて身体まで売らせるノウハウは、公序良俗違反そのものだし。
三浦 確かに、金銭的な損失は、そのときは、損したと思わなくて、いくらでも貢ぎたいと思っていても、後から考えたらあれは大損だった、と。後から意味付けが変わるわけで。
小原 そこで出せる金銭っていうのは、もちろん、その人にとって大金かもしれないけど、でも出せる金額だったんだし、金銭っていうのは結局は考え方次第でどうにでもなるものでもある。
三浦 より深刻なのは、どっちかっていうと心の傷ですよ。
小原 うん。ここへ来て、三浦さんの言いたいこと、わかった気がします。
詐欺罪を構成するには、財物の授受が必要なのだけれど、たぶん本質はそこじゃない。
三浦 私も、ささやかながら心の傷を負ったからね。書類を書いた直後に着信拒否って、インパクトあったからね。裏切られたと思いましたよ、やっぱり。
小原 裏切られたと思うのは、相手がまるで感謝してなかったとわかったときですよね。つまり、それに見合うもの、心からの感謝とか、将来の約束とか、お返しを約束した品とかを渡すつもりが最初からなかったとわかったとき。つまりこちらが何かを与えたときから感謝なんかしてない、カモとしか思ってなかった、それが欺罔の意図ということなんだ。
三浦 そうそう。普通の恋愛で、男が毎回金を払っていたとするなら、デート費用が累計で一千万円ぐらいになったとしても、金返せなんてならないもんね。それで結局、ひどい振られ方をしたからといって、別にそれで訴えることはしない、訴えたとしても国は相手にしてくれない。
小原 普通の恋愛で性的関係まであった場合も、同意していたら訴える話ではない。でも商売の疑似恋愛で女が騙されて身体を売ったんだったら、その精神的な傷は取り返しがつかない。一生涯、建設的なことができなくなるリスクがある。そもそもホストに騙される原因そのものが、何らかの心の傷から生じてもいるわけだけど。
だからやっぱりね、人を裏切るっていうのは、その原因も結果も、絶対的に悪いことなんですよ。それは結局、自分に返ってくるでしょ。全然、生産性がない。
三浦 生産性がないと言えば、パチンコなんか全部規制しろって話ですよね。本当に実害を考えた場合、取り締まりをどこまで広げるのか。バランス感覚をもってやってほしいですね。
小原 まあ、りりちゃんには「ごくちゅうりりちゃん」で引き続き頑張ってほしいですね。文才があるそうで、文学は社会的な善悪とはまったく違う価値観があるので。獄中から別のところへ突破することを期待しています。
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